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波、晴るる。  作者: 潮留 凪
21/48

21 ささやかなる思慕と夏


日が昇る少し前の、5時50分。

つい習慣で、目が覚めてしまった。

その日は月曜だったから。

 

予定は昼だが、もう一度眠ることも出来なかった。

何となく、いつもと違う事への違和感で、部屋を出た。

一先ず、顔を洗ったり水を飲んだりと、ルーティンをこなした。

 

昨日洗濯しておいたワイシャツを持って、部屋へ戻る。

髪を結わえてから制服に着替えると、やることが無くなってしまった。

 

昼まで何をして時間を潰せばいいのかと悩んでいると、隣の部屋のドアが開く音がした。

時計に目をやると、まだ朝の6時半だった。

 

兄もきっと、あまり寝付けなかったのだろう。

 

余りにもすることがないので、冷蔵庫の中に何か無いか、と普段は絶対に思わないことを考えた。

 

部屋の扉を開けると、ちょうど兄が居た。

片手に、カップラーメンと箸を持っていた。

 

 「おはよう、波琉」

 

自分と目が合って、兄は不器用そうに微笑んだ。

 

兄にこんな風に挨拶をされたのは、いつぶりか。

自分は少し懐かしい気持ちになった。

 

 「…おはよ」

 「それ、どこにあったの?」

 

手に持ったカップラーメンを指さして聞いた。

 

 「冷蔵庫の隣の棚。買い足しておいた」

 

 「食べてもいい?」

 

 「うん」

 「賞味期限、古いのから食べて」

 

 「ありがとう」


 

今までは仕事で忙しく料理をする暇もない母が、定期的に惣菜等を買ってきてくれていた。

住み込みの仕事をする際は、若干申し訳なさそうにカップラーメンの箱買いをする。

自分も兄も収入がほとんど無かったので、空腹時は大抵それで凌いでいた。


久々に兄と何気ない会話をした自分は、嬉しくも、寂しくもあった。

 

そんな気持ちを胸にしまい込んで、階段を降りた。

 

言われた通り、冷蔵庫の横の棚に二箱分のカップラーメンが入っていた。

奥の箱から、一番賞味期限の古いものを探した。

 

 「7月10日…これ、賞味期限今日だ」

 

自分はそのカップラーメンにお湯を注いでから、箸を持って部屋に戻った。

 

そういえば、お湯は既に沸いたものが置かれていた。

もしかしたら兄が、自分も食べるかもしれないと思って取っておいてくれたのかもしれない。

そんな、兄の些細な優しさに期待した。

 

カップラーメンを食べ終わると、いよいよやることが無かった。

ゆっくり食べたつもりだが、まだ8時前だった。

 

空になったカップをゴミ箱に捨て、スマホを手に取った。

通信料金がかかるので、インターネットは殆ど使えない。

中には元々入っている曲がふたつだけ。

それらを繰り返し聴きながら読書をし、時間を過ごした。

 


───いつの間にか数時間経っていて、11時半だった。

父が起きたらしく、風呂に入る音がした。

 

自分はもう一度髪を結び直して、身だしなみを整えた。

今すぐにでも出れるよう、準備した。

 

数分後、自分は部屋を出て、兄の部屋をノックした。

 

 「……あいつ起きたから多分、そろそろ」

 

それだけ伝えて、自分は玄関に座って待機した。

 


洗面所から出てきたのは、スーツ姿の父だった。

髪も顔もきっちりとした、見た目はいつもの外モードだった。

 

玄関に座る自分を見ると、おはようも言わずにため息をつく。

 

 「急かされてるみたいだからそこで待つな、車に居ろ」

 

不機嫌そうにそう言い捨て、キッチンに行った。

 

自分はリュックを背負い、言われた通り車に乗った。

日陰とはいえ7月の正午、車内はサウナのように蒸し暑かった。

 

15分ほど耐えたが、酷い頭痛がして車を降りた。

車の影にしゃがみ込むと、多少は涼しかった。

 

リュックからスマホを取りだして時計を見ると、12時30分だった。

 

 「昼過ぎって、具体的にいつだよ…」

 

小さく、不満をこぼした。

葬式自体が何時からなのかも、知らされていなかった。

 

ガチャ、とドアが開いて、兄が出てきた。

自分に気づいた兄は、心配そうに声をかけた。

 

 「波琉、大丈夫?顔赤いよ」

 

 「車の中、暑くて…」

 

すると突然、頬に冷たい感触がした。

 

 「!?」

 

自分は驚いて頬を触った。

兄の手には、ペットボトルが握られていた。

 

 「昨日から、冷蔵庫で冷やしといた」

 「波琉にあげるよ」

 

そう言うと兄はキンキンに冷えたペットボトルを自分にくれた。

 

 「ありがとう…」

 

兄は本来、とても優しい人。

父に対してはあんなに反抗的だが、元は穏やかな性格だった。

 


 "あんな父のせいで"



 

心の中で、密かに父への憎悪を抱いた。 


今話も読んで頂き有難うございます。


今回は僕が個人的に好きな、はるの兄・波人に少しだけフォーカスしてみました。

誠実で優しく、家族想いだからこそ、家族を崩壊させていく武仁を誰よりも憎み、嫌っています。


実の父親に加え、母親をも失った今、互いを心の拠り所として、支え合うはると波人。


ささやかな休憩というか、とある日の仲村家を覗いたような、そんな気持ちで読んで頂けたら幸いです。


次話もよろしくお願い致します。

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