19 君の笑顔と夏の影 -はる
うみに、自分の全てを話した。
今まで誰にも話したことなどなかった。
そもそも、受け止めてくれる人なんて。
うみは沢山、泣いてくれた。
こんな自分のために、悲しんでくれた。
もう忘れかけていた気持ちが、心の中にそっと広がる。
確かに感じたこれは、幸せ。
喜びも、嬉しさも、そして幸せも。
初めて父に殴られたあの日から、諦めていた。
自分にはもう、訪れないのだと。
全部、うみが運んできてくれたから。
✱ ✱ ✱
────あの日から、もっとうみが愛おしくなった。
うみが笑うと、胸がきゅっと痛くて、けど幸せで。
変わらない屋上での日々が、ずっと続いて欲しくて。
今まで耐え続けてきた自分へ、神様からのご褒美なんだと。
柄でもなく、自分は神様に感謝した。
7月も後半に差し掛かり、日々暑さを増していた。
「もうすぐ夏休みだね」
うみは梅おにぎりを頬張りながらそう言った。
「はるは何か予定あるの?」
何となく、うみはワクワクしているようだった。
「特にないかな」
自分は愛想もなくそう言って、無糖の紅茶を一口飲んだ。
「じゃあさ、どっか行こうよ!」
夏休みは、正直あまり好きではなかった。
今まで、誰かと遊びに出掛けた思い出もない。
ただ部屋に鍵をかけ、淡々と宿題をこなし、後は消費するだけの暑い日々だと。
「…うみと、自分で?」
何も期待はしていなかった。
夏休みに良い思い出なんてなかったから。
「うん、二人で!」
期待していなかったはず、なのに。
うみがあんまり嬉しそうに笑うから。
自分まで、少し嬉しくなる。
「いいよ」
「行きたい場所、どこにでも行こう」
愛おしい君となら、どこにだって行けそうな気がしたから。
「やった!」
さっきよりも嬉しそうに、うみは笑う。
太陽よりも眩しい君の笑顔に、少しだけ。
少しだけ、夏休みが楽しみになった。
この時は、思いもしなかった。
これが、君とこの屋上で過ごせる、最後の日常になるなんて。
今話も読んでいただき有難うございます。
いよいよ、新章突入となります。
これから、このお話のテーマである二人の"夏"が動き出します。
少し重い、踏み込んだ内容になっていきますので、書いている僕自身も少し苦しかったです。笑
それでも、二人にとって、永遠の"あの夏"。
二人の運命を、どうか見届けて頂ければと思います。
次話もよろしくお願い致します。




