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波、晴るる。  作者: 潮留 凪
18/48

18 棘を飲み干す夏-うみ



───────チャイムが鳴った。

 

いつもなら、ぼくは教室で授業を受けている。

けれど今日は、屋上に残っていた。

 

はるからの、思わぬ提案を受け入れたから。

 

午後のやわらかい風が、ぼくらを包む。

 

サボって、何をしようと言う訳ではなかった。

ただの昼休みと変わらない、地面に座っているだけ。

 

ううん、それが良かった。

隣に、大切な人さえいれば。

 


 「うみ」

 


ふと名前を呼ばれ、ぼくは彼女の方を向く。

 


 「聞いて、欲しいことがある」

 


いつもの、何を考えているか分からない表情ではなかった。

言いにくいことでも、さらっと言ってしまう。

そんな、変わらないはるが。

 

言う事を、明らかに躊躇していた。

 

ぼくはついさっき、はるに話を聞いて貰った。

今度はぼくが、受け止めなくちゃ。

 

 「うん」

 

ぼくはしっかりと頷いた。

いつになく不安そうなはるを、励ますみたいに。

 


 「全部…全部うみに話そうと思う」

 


はるは、真っ直ぐぼくの目を見てそう言った。

本当に、彼女の目はとても綺麗で。

 


今までずっと、下を向いて生きてきた。

誰とも目を合わせられなくて。

誰にもぼくを、覗いて欲しくなくて。

 


けど、はるだけは違った。

初めて会った時から、真っ直ぐ目を見れた。


だから、というか。

はるのことは、全部受け止めたいと思う。

 


はるの人生なら、背負ったまま死んでもいいと。

 


 「うん」

 

ぼくは、彼女の覚悟を感じた。

だからぼくも、ちゃんと覚悟を決めた。

 

はるは、初夏の空気を大きく吸って。

 

 

 「あのね、」

 

 

はるの人生を、語り始めた。

 

 




✱ ✱ ✱



 


 

─────五時間目の終わる音がした。

 

 

ぼくは、大雨の中を走ってきたみたいにびしょ濡れだった。

 

文字通り、全部を聞いた。

 


優しい父親が死んだこと、母親が崩壊したこと。

悪魔のような男を、父と呼んだこと。

逃げた先でも手をあげた、最低な父のこと。

何もかもを耐え続ける日々の、全部。

 



 「……なんで」

 

はるは、何ともない顔をして。

 

 「なんで」

 

聞いただけのぼくが、こんなに苦しいのに。

 

 「はる、なんで」

 

大きな雫が、ぼくの中から溢れるばかり。

 


 「はる、ごめんね」

 


ぼくなんかの話を、真剣に聞いてくれて。

ぼくなんかの人生を、背負ってくれて。

 

はるの方が、ずっとずっと苦しかったはずなのに。




 「……ねぇ、うみ」

 

ぼくから零れて止まらない涙を、細い指でそっと掬う。

 

 「うみは、泣いてばっかりだ」

 

指に乗った小さな雫を見つめながらそう言った。



✱ ✱ ✱

 

どうしよう。

この気持ちが、止まらない。

 

はると、もっともっと。


 

 「はる、だいすき」


 

ぼくは涙を零しながら、笑った。

もっともっと、ずっと一緒に居たいんだ。

 


きみの痛みも、苦しみも。

全部全部、ぼくが飲みたいんだ。

何もかも、背負わせて。

 

 

✱ ✱ ✱




───照り始める太陽に、ぼくの思いが燃やされる。

 

この気持ちを、なんというのか。

知らないまま、ただきみを思う。


これは恋のような、恋じゃない、なにか。


誰からも愛されなかったぼくらは、夏と共に互いを求め合う。

 







一本の細い線を渡るよりも、ずっと。

危ういなにかを、ぼくは知ってしまった気がした。

今話も読んで頂き有難うございます。


うみは凄く素直で、純粋で、繊細な子です。

それ故に、一歩間違えれば破滅と崩壊へ進むような。とても、危うい。


似ているようで、どこか対称的な二人。


はるのことを知れば知るほど好きになっていくうみですが、その好意がどうか、悲劇とならぬように願ってしまいます。

もちろん書いているのは僕ですが…笑



過去を嫌い逃避するうみと、過去に縋り傷をえぐるはる。

読んだ貴方が、二人のどこかを、何かを、ほんの少しでも好きになってくれますように。



次話もよろしくお願い致します。

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