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1 夏、追憶
“こんな世界、間違ってる”
そう叫んだきみは、もう居ない。
結局何が正しいとか、間違ってるとか、そんなの関係なかったんだと思う。
ただきみを、奪われたくなくて、必死で逃げた。
そこには正義も希望も無かったけど、初めての
「自由」を、君はくれた。
✱ ✱ ✱
照りつける様な太陽、眩い青空と、大きく背に映る積乱雲。忙しなく合唱する蝉の音、揺れる海。
「ただいま」
長い髪を後ろで一つに結わえたスーツ姿の女性が、白い花束を大事そうに抱え、立つ。
潮風を胸いっぱいに吸い込み、寂しげに笑う。
きっと生涯忘れることの無い、あの記憶を想う。
ふと、いたずらな風に白い花びらが舞う。
─────きみと、セーラー服が揺れて。
─────ぼくだけの、あの夏を思い出す。
熱く儚く、何よりも愛おしい、きみとの日々を。