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時の契りと異世界統一  作者: 椿
第2章:禍の子
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2

 「ん~と・・・今僕達が居るのが、このスルト村って所かな。」

 地図と睨めっこしながら、山の麓の道を進む結稀。彼女は今、エアハルト伯爵領の端にある小さな村にやって来ていた。

 「結稀、地図ばかり見ていると・・・」

 クロノスが結稀の方に振り向き声を掛けていると―

 「わっ!?」

 小さな(くぼ)みに躓いた結稀は前に倒れ込みそうになる。クロノスは結稀の腕をガッと掴み、彼女が転ぶのを防いだ。

 「もう少し周囲にも気を配ろうね。」

 「ご・・・御免なさい。」

 苦笑しながら起こしてくれたクロノスに、結稀は眉尻を下げ謝る。地図を鞄にしまい気を取り直して先に進もうとした結稀だったが、少し先の民家の前に止まっていた馬車に目を留める。中々立派な造りの馬車であり、小さく古びた家屋と一緒に並ぶと何だかちぐはぐに感じる。少し引っ掛かりを感じた結稀はクロノスと共に民家の方へと足早に近付いて行った。民家では兵士が女の子を連れて行こうとしており、家族が必死に阻止しようとしている様だった。

 「伯爵様の御命令だ!!我等と共に来いっ!!」

 「嫌っ!放してっ!!」

 「お願いします!娘を連れて行くのはどうか・・・勘弁して下さい!!」

 家族が必死に訴えているが兵士は聞く耳を持たず、少女を無理矢理引っ張り連れて行こうとしている。見過ごせないと思った結稀は、時を止めると兵士から少女を引き剥がしたのだった。

 「!?何だ貴様は!!」

 突然の乱入者に動揺を隠せない兵士達。困惑の表情を浮かべつつ剣を構える兵士達に臆する事無く結稀は口を開いた。

 「僕達は唯通り掛かっただけの旅人だよ。それより・・・女の子に乱暴なんて、感心しないな。」

 真っ直ぐ見据えじりじりと近付く結稀に、兵士達は一瞬たじろぐ。

 「わっ・・・我々の邪魔をするなっ!!」

 兵士達は一斉に結稀に攻撃を仕掛けていく。結稀とクロノスは向かって来る兵士達の攻撃をひょいと躱すと、目にも留まらぬ速さで彼等を返り討ちにしていった。

 「それで・・・何故この女の子を連れて行こうとしたの?」

 地面に座る兵士達を前に結稀が問い掛けると、彼等は暫し下を向いて黙り込むが、やがて渋々といった表情で語り始めた。

 「その娘はヴァンパイアへの生贄に選ばれたのだ。我等は伯爵様の許へこの娘を連れて来る様命を受けているのだ!!」

 「ヴァンパイア?」

 結稀が問い掛けると、兵士の1人が緊迫した表情で続きを語った。

 「あの山の奥にある廃墟に棲み付いているヴァンパイア・・・奴が麓に下りて領民達を襲わない様に定期的に若い娘を生贄に差し出しているんだ。」

 山の方を指差し少し震えながら語る兵士。エアハルト伯爵領に暮らす人々にとって廃屋のヴァンパイアがどれ程恐ろしい存在か・・・兵士や民家の住人達の怯えた表情が物語っている。

 「その生贄っていうのは・・・若い女の子なら誰でも良いの?」

 「は?まぁ、恐らく大丈夫だと思うが・・・。」

 兵士は結稀の唐突な質問の意図が読めず、困惑の表情を浮かべながら小さな声で答えた。

 「結稀、まさか・・・」

 眉尻を下げ苦笑しながら声を掛けるクロノスに、結稀はニッと含みのある笑みを見せる。

 「僕があの女の子の代わりに廃墟に行って、ヴァンパイアを退治する!」

 力強く語られた結稀の言葉に、兵士と民家の人々は一瞬ぽかんと固まってしまった。

 「ヴァ・・・ヴァンパイアを倒すって・・・お前、正気か!?旅人が1人2人立ち向かった所で、ヴァンパイアの相手になるとは到底思えんぞ!?」

 「信じられない!」といった目で語る兵士に対し、結稀は「大丈夫、任せて!!」とやる気満々の様子で答える。

 「一度だけ私達にチャンスを戴けませんか?必ずヴァンパイアの件を解決してみせますから。」

 ゆっくりと頭を下げながら柔らかな声で願い出るクロノス。兵士達はう~ん・・・と少し悩んだ末、2人の申し出を受け入れる事にした。

 「取り敢えず・・・お前達2人にはエアハルト伯爵様の御屋敷へ来て貰う。我々の方で事情を説明しておくから、伯爵様の指示に従って行動してくれ。」

 こくりと頷き馬車に乗ろうとした結稀とクロノスに、「あ・・・あの・・・」と小さな声が掛かる。

 「旅人様・・・私の所為で巻き込んでしまい、申し訳御座いません。どうか・・・お気を付け下さい。御無事を祈っております。」

 生贄にされそうになった少女が、心配そうに見つめながら細い声で結稀に語り掛ける。

 「有難う。ヴァンパイアは僕達が何とかするから、心配しないで。」

 結稀がにこっと微笑みながら答えると、少女は目に涙を浮かべながら頷いた。そして結稀とクロノスが乗った馬車は、少女達に見送られながら伯爵の屋敷へと向けて動き出したのだった。



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