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「屋根の修理に薪割り、それに畑の草抜きまで・・・色々やって貰って済まないねぇ。でも、本当に助かったよ。」
畑で腰を屈みながら草抜きをしている結稀とクロノスに、マレーが笑顔で声を掛ける。家に泊めて貰ったお礼に、ゼーラやマレーの手伝いをしていたのだ。
「いえいえ。お世話になったので、このくらい当然です。」
体を動かして誰かの役に立つって・・・楽しいし、嬉しい。
上機嫌で草抜きをしていた結稀。すると、視界の先に誰かが近付いて来るのが目に入った。結稀は立ち上がると、片手を額に当てぐっと目を凝らす。クロノスも隣に寄って来て同じ方角に視線を向ける。
「あれは・・・サリィかな。」
「本当だ。何かあったのかな?」
2人が駆け寄ると、サリィははぁはぁと息を切らしながら結稀にがばっと抱き付いた。マレー達村の人々も異変を感じサリィの傍へと歩み寄って来た。
「どうしたの、サリィ?リタ達と野原で遊んでたんじゃないの?」
優しく頭を撫でながらゆっくり問い掛ける。サリィは「うっ、うっ・・・」と涙を流しながら何とか言葉を発しようとしていた。
「リタ達がっ・・・うっ・・・森で・・・ゴブリン達に襲われてるっ!!誰か・・・助けてっ!!」
何とか絞り出し訴えたサリィの言葉に、村人達は困惑と緊張で固まってしまう。ゼーラは不安と恐怖でふらりとその場に頽れる。わぁぁっと泣くサリィの大きな声が村の中に響き渡る。
「教えてくれて有難う、サリィ。よく頑張ったね。大丈夫・・・リタ達は僕とクロノスが必ず助けるから。」
結稀は力強くそう語り掛けると、サリィをゼーラの立っている場所へと誘導した。
「子供達を・・・お願いします!!」
涙を浮かべ震えながら懇願するゼーラに、結稀はこくりと頷いた
「子供達は任せて下さい。行こう、クロノス!」
「あぁ。」
2人は森へ向けて全速力で駆け抜けた。そして森の入り口の手前まで来た所でクロノスは一度立ち止まる。
「クロノス、どうしたの?」
「結稀はこのまま森の中に入ってくれ。私は森の上から子供達を探す。」
上から?一体どうやって?
不思議そうに首を傾げる結稀の前で、クロノスは指を一度パチンと鳴らす。するとクロノスは一瞬で銀色の烏へと姿を変貌させた。
「クロノスが烏に変身した!?」
結稀が驚きで目をパチクリさせているとクロノスはくすっと笑い彼女の肩に留まった。
「君と契約を交わした事で、ほんの一部だけど私も力を使える様になったんだよ。」
クロノスは羽をばさっと広げながら、上空へと昇っていく。
「気を付けてね、クロノス。」
「あぁ、結稀も。」
互いに一言言葉を交わし合うと、2人は森と上空の2方向に分かれて動き始めた。
一方、森に残ったリタ達はゴブリン達から少しでも身を護ろうと木の棒を手に取り逃げ廻りながら必死に抗っていた。
「こっ、来ないでっ!!」
リタは足や腕を怪我したピーター達を背後に庇いながら、木の棒を思い切りブンブン振り回す。
「へへっ。そんな攻撃当たる訳無ぇだろ!」
「!?きゃっ!」
ゴブリンは木の棒をバシンと払い落とし、リタの顔を強くはたいた。はたかれた衝撃で、リタは地面に尻餅をついてしまう。
「大人しく眠ってろ!!」
ゴブリンが拳を大きく振り上げリタ達に殴りかかろうとしたその時―
ドゴォッ
強烈な威力の蹴り技が数匹のゴブリンの脇腹にヒットし彼等を吹き飛ばしたのである。
「良かった、間に合って。皆無事?」
子供達の方へ振り向きゆっくりと声を掛ける結稀。助けが来た事への安堵感で子供達の目にうるっと涙が浮かび上がる。へたっと地べたに座り込んだ子供達に、クロノスが優しく手を差し伸べ抱き起こす。
「ちっ、痛ぇなぁ。何者だ、お前等!!」
ギロリと2人を睨み付け武器を構えるゴブリン達。
「僕達はこの子供達の友人だよ。この子達は連れ帰らせて貰うね。」
「さぁ、帰ろうか。」とのんびりとした口調で語り掛けながら子供達と共に森を去ろうとする結稀。
「逃がす訳無ぇだろ!!」
苛立ちの声を上げながら結稀の方へ迫り行くゴブリン達。結稀は子供達を背後に庇いゴブリンの前に立ちはだかった。
「結稀、力の使い方は分かるね?」
「うん、大丈夫。」
クロノスの言葉にこくりと頷き答えると、結稀は片手を前に翳し力を込めた。すると彼女の手に大鎌が現れたのである。彼女は大鎌をギュッと握ると、ゴブリン達の前から姿を消した。そしてその直後、ゴブリン達の体が一斉に斬り付けられたのである。
「なっ!?」
何が起きたのか把握できず、困惑の表情で結稀を見つめるゴブリン達。
「君達に僕の動きを捉える事は出来ないよ。もう降参したら?」
「ふざけんなっ!手前なんかボコボコにしてやるっ!!」
怒ったゴブリン達はドスドスと大きな足音を立てながら再び結稀の方へ向かって行く。
「そう。そっちがそのつもりなら・・・僕も容赦しないよ。」
キラリと鋭く目を光らせ大鎌をぐっと構える結稀。結稀は時の流れを操作し時間を止めると、ゴブリン達に更に斬撃を加えた。そしてダメージを受け倒れ込むゴブリン達に大鎌の柄や足でボカスカ殴り掛かり容赦無く追い打ちを掛けた。「ひぃ~。」「痛ぇっ!」「やめろ~!」等弱々しい悲鳴を上げながら為す術無くやられていくゴブリン達。そして子供達は、クロノスの背に隠れながらゴブリン達がドゴォッバキィッと恐ろしい音と共に倒されていく様子を怯えながら眺めるのだった。