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翌日の朝、リタとサリィは友達の3人と共に村の野原でごろんと寝転がっていた。
「ねぇ、リタ。昨日のお姉さんとお兄さんは?」
リタの方にころんと寝返りを打ちながらカナがふっと問い掛ける。
「結稀とクロノスは今倉庫の屋根の修理をしてる。後でこっちにも来てくれるって言ってたよ。」
「村の中を案内してあげようね!」と楽し気に語り合う子供達。そんな子供達の前にぴょんっと1匹の可愛い兎がやって来た。
「あっ、兎だっ!!」
サリィがパッと起き上がり兎に飛び付こうとするが、兎は素早く飛び退きサリィを避けてしまう。
「待てっ!!」
ピーターやディックも起き上がり、兎を捕まえようと走り出した。
「ちょっ、何処行くの!」
リタが急いでサリィ達を追い駆ける。カナもおろおろと戸惑いながらも皆の走った方へ駆けて行く。兎は子供達を振り切ろうとぴょんぴょん逃げ廻り、森の中へと入って行ってしまった。
「この森・・・確か魔物が居て危ないって村長が言ってた所だよね。」
ディックがごくりと唾を呑み込み怖々語り掛ける。
「ちょっ・・・ちょっと入るくらいなら大丈夫だろ。入ってみようぜ!!」
ピーターはぐっと両手の拳を握り締め、森の方へずんずんと歩を進めていく。彼に続いてサリィとディックも森の中へと入って行った。
「こらっ!駄目だって。戻りなさいっ!!」
リタが顰めっ面で注意するが、サリィ達は足を止めようとしない。「もうっ!」と怒りながらリタも森に入ろうと一歩踏み出す。それを見ていたカナも、「待ってよぉ~。」と困った様な表情を見せながら急いで後を追った。
森の中は木々がざわざわと揺らめきとても不気味な場所だった。子供達は少し先を走る兎を見つけると、森の木々の間を縫う様に進んで行った。少しずつ兎との距離を詰める子供達。しかしそんな子供達を恐怖のどん底へ突き落す光景が次の瞬間訪れる。
グシャッ
木の陰から突然棍棒が勢い良く振り下ろされ、兎の頭を叩き潰してしまった。
「へへっ。人間の子供が5匹もやって来るとはな。捕まえて売りとばしゃ一稼ぎ出来るぜ!!」
一匹、また一匹とゴブリンが現れ、子供達へと迫って行く。
「ひっ・・・」
恐怖で言葉を失う子供達。そんな子供達に棍棒や剣、斧等を向けながら、ゴブリン達はじりじりと近寄っていく。
「走って!皆逃げるわよ!!」
リタの上げた大声を合図に子供達はダッと全速力で走り出す。森の出口目指して懸命に駆け抜ける子供達を嘲笑う様に、ゴブリンは徐々に距離を詰めていく。まるで狩りを楽しむかの如くじっくりと子供達を追い詰めていくゴブリン達。
「!?きゃっ!」
木の根に躓いたカナがその場でずでんっと転んでしまう。
「カナッ!早く立って!!」
リタが急いで駆け寄り、カナを起き上がらせる。そんな2人に、ゴブリンの魔の手が迫る。
「リタッ!カナっ!危ないっ!!」
2人を護ろうとピーターがゴブリンに力一杯突進する。ディックも勇気を振り絞りゴブリンに向けて飛び掛かって行く。
「みっ・・・皆!?」
皆の許へ駆け寄ろうとしたサリィだったが―
「来ちゃ駄目!!」
リタの鋭い一声にびくっと動きを止めた。
「サリィは森の外まで逃げなさいっ!そして・・・助けを呼んで来て!早くっ!!」
力強く訴えるリタの言葉に、サリィは瞳を潤ませながらもこくりと頷く。そしてくるりと踵を返し森の出口の方へと向かって駆け出した。少しでも時間を稼ぐ為、リタ達は必死にゴブリン達にしがみ付く。
皆・・・必ず助けを呼んで来るから!!絶対死なないで!!
サリィは皆の無事を祈りながら、ひたすら前へと進んで行った。