第3話 神の策略
「バルス様……あの者をそのまま転生させてもよかったのでしょうか?」
取り巻きの天使の一人がバルスに尋ねる。
彼はマサトの記憶を無理やり消すなり、天界にいる他の神々に引き渡すなりした方が良いのではないかと考えていた。
謎の執念によって『神の浄化』すら無効化したマサトは危険過ぎる。
あの傍若無人な態度のマサトを転生特典まで与えて人間界に解き放つなど、羊たちが和やかに暮らしている牧場に飢えた狼を放つようなものだ。
人間界の一つを無茶苦茶にされてしまうかもしれない!
だが、バルスは独断でマサトを人間界へと転生させた。
彼を含め、周りの天使たちはバルスの行動が理解できなかった。
すると、バルスは口を開いた。
「あれは……わしらの手に負えぬ者だ」
バルスは魂が抜けたような声でそう答えた。
周りの者たちにはわかっていないがバルスは知っている。
彼は見てしまったのだ。
神のチカラを使ってマサトの過去を……。
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マサトは過去、それは常人には理解できない思考と行動で埋め尽くされていた。
例えば、思考回路一つをとってみよう。
まず、マサトは極度のナルシストであり自分が女子たちから好かれていないとは思ってはいない。
彼女ができないのは周りの見る目がないからであり、自分には全く非がないと考えている。
そして、彼女が欲しいという思い。
これが常人のそれを遥かに上回っており、マサトのストーカーのような異常行動へと繋がっている。
まず、ネットで『モテる男は連絡をコマメにするものだ』という記事を見つけたとする。
すると、マサトはアタックしようとする女の子に対してコマメという概念を通り越して連絡を入れる。
メッセージを送り、返信が返ってこようものなら5秒以内に既読を付けて返信する。
マサトに常識など通用しないのだ!
そして、そんなマサトに対し、もちろん女の子側はドン引いて返事をしなくなる。
未読無視をするのだ。
すると、マサトはその女の子のあらゆるSNSをチェックして活動していないかを調べる。
そして、SNSでのつぶやきや投稿、お気に入りなどをチェックするのはもちろんのこと。
だが、マサトはそれだけでなくフォロー、フォロワーの増減やプロフィールのささやかな変化なども見逃さない!
そして、マサトは未読無視をさせているのにも関わらずにメッセージを送るのだ。
何気ない会話を続けるために……。
普通なら、脈がないどころか嫌われてしまうのではないかと思うところである。
しかし、マサトはナルシストであるため、女の子たちは焦らそうとして返信を渋っていると思うのであった……。
他にも、バンドを組めば女性メンバーと恋に落ちるのは当たり前だと考え、音楽性の違いからではなく人間性の違いからグループを解散することになった。
通学中に挨拶してくれるお姉さんは自分に恋をしていると思い、しつこく迫り警察沙汰になったこともあった。
だが、これでマサトが変わることはなかった。
決まってマサトはこう考える。
あの女どもはまるで見る目がない。
そして、その気がないのならおれに色気を使ってくるんじゃねぇぞ!
この……クソビッチがぁぁぁぁああああ!!!!
マサトはこの通り、異常者だった……。
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神であるバルスはマサトの過去と見て諦めたのだった。
怨念とも言えるあれほどの彼女への執念を持った者に自分ができることなどない。
そして、性格も手がつけられないほどの異常者だった。
そこでバルスは考えたのだった。
マサトのことは自分より上位の神に引き渡して処理をしてもらおう。
めんどうだが上司に頭を下げて尻拭いをしてもらうと決めていたバルスだった。
だが、バルスはマサトの思考を読み取り、それをやめたのだった。
『話がわかんねぇやつだな〜、このハゲジジィ』
『まあ、こんなブッサイクな顔面に生まれたらそりゃ性格もねじ曲がるわな〜』
『その点、おれは顔も整ってるし、家系的に将来ハゲる心配もない。ホント、おれって恵まれてるよな〜』
バルスは目の前のマサトが考えていたことを読み取り、内心怒りで沸騰しそうになる。
特に、髪の毛のことはバルスが一番気にしていることだった。
こやつ……。
絶対に許さんぞ……。
バルスはマサトを懲らしめることに決めた。
上司の神にマサトを引き取ってもらうのはもう一度マサトが死んでからでも遅くはない。
マサトを転生させ、生き地獄として苦しめてやろうと思ったのだ。
そして、バルスはマサトにスキルを与えて転生させることにする。
《ハートブレイクソードマスター》
これは失恋することによって剣術の力が超強化されるスキルである。
マサトのような性格の持ち主は、異世界の人間たちにも受け入れられることはあるまい。
だが、そのスキルによって強化されたチカラによって、一定の尊敬の念は持たれることだろう。
誰よりも強くなり、誰からも尊敬される。
常人ならぬ功績とチカラを手にはいれられるが、一番欲しているものは手に入らない。
お主は彼女を作りたくとも作れぬまま、もう一度苦しみながら人生を送るがよい!
ぐっふっふっふっ……。
バルスはニヤニヤが止まらない。
周りの者たちはそんなバルスを心配する目で見ている。
「確かに、あれはわしらの手に負える者ではない……」
「しかし! だからといって、お主が考えているような甘い思いができると思うなよ!!」
「ぐっふっふっふっ……。新たな人生でも振られまくって、ストレスでお主もハゲるがよい!!」
バルスのこの言葉で周りの天使たちは理解した。
どうしてバルスがマサトにもう一度人生をやり直させるチャンスを与えたかということを。
マサトの転生はバルスなりの復讐であったのだ。
どうも作者です。
ここまでご愛読ありがとうございます!
次回からマサトの異世界での物語が幕を開けます。
今のところ、本作品は不定期でのんびりと投稿していく予定なので気長に更新を待ってもらえたら幸いです。
それではこれからよろしくお願いします!