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第2話 神ですら手に負えぬ異様なまでの執念

  「いや〜、今日もヒマじゃなぁ……」



  一人の老人がタバコをふかしながらつぶやく。

  よく晴れた青空から燦々(さんさん)とした光を浴び、老人はあくびをするのであった。


  すると、周りの者たちがすかさず文句を言う。


  「ちょっと! バルス様ひまなら私たちの手伝いをしてくださいよ!!」


  「そうですよ〜。僕たち、毎日仕事ばかりで大変なんですから……」


  そんな声を聞き、老人は顔をしかめる。

  そして、言葉を言い直す。


  「いや〜、今日も忙しくて大変じゃなぁ」


  せっせと働く者たちを眺め、バルスと呼ばれた老人は一人つぶやく。


  それに対し、やはり周りの者たちが文句を言う。


  「ちょっと! 大変なのはバルス様ではなく、我々天使じゃないですか!」


  「そうですよ〜。バルス様が僕たちに仕事を押しつけなければこんなに忙しくはないのに……」



  そう、ここは天界と呼ばれる神々と天使が暮らす世界。


  このバルスという神は幾つもの人間たちの世界を統べる者であり、人間たちの命と魂を管理していた。

  だが、この通り仕事は部下である天使たちに任せてダラダラとした日常を送っているのであった。



  そんないつもと変わらぬ一日を過ごそうとしていたバルスだったが、今日はイレギュラーな出来事が起きたのであった。



  「バッ、バルス様! 緊急事態です!」



  一人の天使が騒ぎ立てる。


  正直、緊急事態だろうが何だろうが天使たちだけで対処しろとバルスは思う。

  だが、そんなことをすれば神である自分は他の神々に怒られてしまう。

  ダルい身体を起こしてバルスは聞き返す。


  「どうした。何が起きたんじゃ?」


  すると、そんなバルスに天使が慌てて説明をする。


  「地球で死んだ一人の男の魂が暴走しています! 異様なまでの(せい)への執念を持っているのか、とてもじゃありませんが自力では成仏できそうもありません!!」


  そう報告してくる天使。


  それを聞いたバルスは地球の魂の流れを調べる。

  すると……。


「なっ!? なんじゃこれは!!」


  初めて見るような魂の暴走状態にバルスは驚く。


  死んだ魂には成仏して新たな肉体に宿ってもらわないと困る。


  魂は、いつまでも成仏できないと劣化したり、他の成仏できない魂と反応を起こしたりする。

  時にはそれで魂が消滅してしまうこともあるのだ。


  バルスが管理している魂の総量は決められており、魂が減ってしまうと創造神という存在に怒られてしまう。

  自分がせっかく創ったモノを大切に管理できないのかと。



  そこで、バルスは神の力で強引に成仏させようとした。

  自力で成仏するのは無理でも神のチカラを持ってすればチョチョイのチョイだ!


  そして、バルスは天界に魂を召喚する。



  「ここにその姿を現せ! 魂召喚(サモンソウル)!!」



  バルスのかけ声とともに一人の人間が姿を現した。


  黒目黒髪で身長は日本人の平均よりやや低め、体型は普通であり、その瞳は少し鋭く見る人によっては恐がりそうである。


  地球で死んだタチバナ マサトという少年が召喚されたのだった。


  ちなみに、人間の姿をしているがその肉体は既になく、魂を具現化しているに過ぎない。


  そして、バルスは少年を成仏させようとするのであった……。



 ---



  〜〜マサト視点〜〜



  一体、ここはどこなんだ?


  イノシシに襲われて意識を失ったところまでは覚えている。

  だが、それ以降の記憶はまるでない。


  そして、おれは自分の身体を見て驚く。


  あれだけの傷を負ったはずなのにケガをしていない!?

  まるで、最初から何事もなかったかのように綺麗な身体をしていた。


  イノシシの牙が食い込んだ腹を触っても痛くない。

  肌には打ち身の痕一つなく、血色のいい肌色をしていた。


  そんな風に驚いていると、突然声をかけられる。



  「おい、お主! 聞いておるのか?」



  おれは声をかけてきた人物を見る。

  すると、白衣を着たじいさんが目の前にはいた。


  じいさんの周りには複数の男女がいるが、いずれも白衣を着ている。

  そこでおれは気づく。


  この人たちは医者と看護師でおれを助けてくれたのだと。

  そして、おれは数週間意識不明だったに違いない。

  そうすれば、完治した傷にも理解ができる。


  「じいさん、ありがとう! おれ、本当に死ぬかと思ったよ!!」


  おれはじいさんの手を握ってぶんぶん上下に振る。

  おれなりの感謝のシェイクハンドだ。


  だが、じいさんはそんなおれを哀れそうに見つめて口を開く。



  「いや……お主はつい先ほど死んだんじゃよ」



  じいさんの無機質な声がおれに耳に響く。



  おれが……死んだだと?



  確かに、おれは自分でも死んだと思ったよ。

  だけど、今こうしておれは……。


  そこで、おれはふと気づく。


  白衣だと思っていたじいさんたちの格好はただの白い服であり、じいさんたちの背中には翼が生えていることに……。



  そして、辺りを見回す。


  すると、そこには地球とは到底思えない幻想的な空間が広がっていた。


  足下には見たこともない花々が咲いており、遠くには巨大な大木がそびえ立っている。

  あんな大木、地球上にあったらエベレストやグランドキャニオンといったように名前くらい知っているはずだ。


  もしかして、本当におれは死んでおり、ここは死後の世界なのではないだろうか。

  そんな思考が頭を駆け巡る。


  「理解したか? お主は死んだのだ。大人しく成仏するが良い……」


  じいさんは静かにそう告げると、おれに向かって手をかざして何かを始めた。


  すると、突然おれの身体が急に苦しくなる。


  「くっ……。てめぇ……何しやがる」


  これがじいさんの仕業だということはすぐにわかった。


  成仏しろ?

  ふざけるな!


  なんでおれが死ななきゃならねぇんだ!

  おれは彼女を作るためにこれから有名人にならなきゃなんだよ!!



  おれはじいさんのチカラに抵抗しようとした。

  すると、じいさんが突然声を上げる。


  「なっ、なんじゃと!? お主、わしのチカラを跳ね返すのは何者じゃ!!」


  さっきまで苦しかったのに急に楽になった。

  おれは深呼吸を一度してからじいさんに文句を言う。


  「おい! ジジィ、てめぇおれに何をしやがった!?」


  信じられないような目でおれを見て黙り込むじいさん。


  すると、じいさんの周りにいたやつらが口を挟む。


  「キサマ! バルス様に向かって何という口の聞きようだ!」


  どうやら、このじいさんはそこそこ偉い人のようだ。

  だが、そんなこと知ったことか。


  ん?

  待てよ、このじいさんが変なチカラを持つ偉いやつだってことは……。



  「おい、ジジィ! お前、神様みたいなモンなんだろ? だったらおれを生き返らせろ!」



  おれはじいさんに命令する。



  こいつはおれを再び殺そうとした敵だ。

  だが、どうやらそのチカラもおれには効かないらしい。


  つまり、おれより弱い神様ということだ。

  ならば、これは存分に利用するしかないだろう。


  「なっ、キサマ! 人間の分際で何を言っている!?」


  周りの者たちの反感を買う。

  しかし、こいつらはみるからにじいさんよりは格下。

  じいさんより強いおれに敵うはずがない。



  すると、じいさんも観念したのか諦めて降参する。



  「よかろう……。お主に再び人生をやり直すチャンスを与えよう」



  じいさんがそう告げる。


  「バルス様!? どうしてです!」


  周りの者たちは納得ができないようだった。


  だが、じいさんは割と物分かりが良いようだ。



  「だが、お主を再び元の地球に送り返すということはできない。これは決まりなのじゃ……」



  「はぁ? なら、どうするっていうんだよ!」



  おれはじいさんに文句を言う。


  おれはどうしても戻らないといけないんだよ!

  有名動画配信者となってファンの女の子と付き合うんだ!



  「まあ、待て。これからお主を送るのは地球ではないが人間たちが暮らす世界じゃ。そこには地球以上に美女たちが多く暮らしておるぞ?」



  じいさんがおれの目を見てそう告げる。


  美女がたくさん?

  なんだよ、それは最高じゃないか!!



  「その世界は剣の腕前が一種とステータスとなっていてな。『剣王』ともなれば好きなだけ美女たちを(はべ)らかすこともできるのじゃ」



  「おい! ちょっと待て! おれは剣なんて使ったことはないぞ」



  途中まではおいしい話に聞こえていたが、聞きづてならない部分があったぞ!


  剣の腕前がものをいうだ?

  こいつはおれを戦国時代にでも送ろうとしているのか。



  「まあ、安心せぇ。お主には特別に転生特典でスキルをやろう。これでお主は剣の扱いがわかるはずじゃ」


  「お主なら、このスキルで異世界最強の剣王にだってなれると思うぞ」



  転生特典?

  スキル?


  なんだよそれ。



  「それって最初からおれは強いってことか?」



  「そうじゃとも! 最初から強いのもそうじゃが、お主はどんどんと強くなるじゃろう。神であるわしが言っておるのじゃ。心配するでない!」



  どうやらおれはこのじいさんのチカラによって美女がたくさんいる世界でモテモテになれるらしい。



  うっひょ〜!!


  すっげー、楽しみだぜ!!



  おれはめちゃくちゃテンションが上がる。


  正直、地球の女どもはおれの良さがわからないやつが多すぎて困ってたんだ。

  行ってやろうじゃないか、異世界ってやつに!!


  そして、じいさんから幾つか要望を聞かれる。



  「赤ん坊からやり直すのと今の姿からやり直すの、どちらが良いかの?」



  「んなもん、この体のままに決まってるだろ!」



  一からやり直していたら彼女を作るまで何年かかるかわからん。

  って取り早く彼女を作るためにもこの体のままがいい。


  それに、今のおれはイケメンだしな。

  赤ん坊からやり直して顔面偏差値ランダムとか勘弁だぜ。


 

  「好きな(おなご)のタイプはいるか? 年上系とか清楚系とか、ギャル系でもいいぞ!」



  「特にないな。ただ、ロリ系だけは無理だ! おれは幼女は好かん」



  好きなタイプを聞くということはあれか?

  そういう女たちにモテる特典みたいなのも付けてくれるのか?


  すると、じいさんは一本の剣を取り出す。



  「よし、完成じゃ! それではこれを渡そう」



  じいさんに剣を渡された。


  だが、何が完成なんだ?



  「それでは新たな人生を歩むがよい。お主の健闘を祈るぞ」



  じいさんのその言葉を最後に、おれの視界がぼやけだす。



  まるで車酔いをしているようだ。

  視界がグニャグニャと混ざる。



  そして、最後に聞こえたじいさんの言葉は……。



  「新たなる人生で……。マサト、いや……ソードマスターよ」



  所々よく聞こえない。


  もっとはっきり言ってくれよ!




  だが、それ以降じいさんの声を含めて何も聞こえることはなかった。




  そして、視界から完全にじいさんたちが消えた。


  次の瞬間、おれは一人で森の中にいたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がこの先どう動いていくかなど今後の展開が楽しみです。ブックマークに登録させていただきました。今後とも執筆頑張って下さいませ。
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