アルベルトさん、手紙が届く
僕達が図書館でカイト先生と戦ってから4日が経った。
僕達は衛兵から事情聴取を受けたり、先生方から怒られたりしたが、皆んな大した怪我が無くて良かった。
コーレル先生は僕達を止められ無かったとして、かなりマズイ立場になって居たがレオが何とか取り持ち、事なきを得たようだ。
僕達が無茶をした所為でコーレル先生がクビにでもなったら大変だ。
捕らわれていた女性は学院の生徒では無く、最近王都に出稼ぎに来た村娘だった。
あの部屋は街の地下水道に続いていたらしい。
カイト先生は街から出稼ぎなどに来た、居なくなっても気づかれにくい人を狙ってあの部屋に攫い、邪神への供物として殺していたらしい。
邪神とは魔族が信奉する邪悪な神だ。
人間にも一部、邪神を信奉する者がいる。
彼らは各地でテロを起こしたり、無差別に人々を攻撃したりと様々な事件を起こしている。
学院はあれから臨時休校となっていた。
その間僕達は寮の談話室で図書館の地下14階から持って来た本を調べていた。
「あ!ねぇ、ちょとこれ見て」
マーリンは読んでいた本を皆んなが見えるように広げた。
マーリンが読んでいたのは大陸を旅して回った旅人の手記で各地の風土病などが記録されていた。
『私がその家を訪ねると彼の家族が迎えてくれた。
しかし、彼の息子の1人は歩けないようだった。
彼によると身体がだんだんと石になっているのだと言う。
彼は息子は大地の精霊様に呪われたのだと涙を流した。
私は彼に息子は精霊様に呪われてなどいない事、身体の石化はメデューサ症候群と言う魔力障害であると説明した。
そして、私が調合した薬を飲んだ彼の息子は見事完治し、彼は私にしきりに感謝した』
「これ、アルの妹さんと同じ病気なんじゃ無い?」
「メデューサ症候群、聞いた事ない病気ですわね?」
「ガスタ辺境伯に連絡したほうが良いな」
「そうだね。病名が分かればなにか分かるかも知れないし、この手記によれば不治の病では無く、薬で治す事が出来るみたいだ。
これで少し希望が見えて来た。
早速手紙を書くよ」
僕が紙を取り出しペンにインクをつけた時、談話室の扉が開き、寮監のサマンサさんが入ってきた。
「アルベルトさん、貴方にお父上から緊急のお手紙が届いています」
「え!父上からですか?」
僕は立ち上がりサマンサさんの所に向かった。
サマンサさんは父上からの手紙を僕に渡すと談話室を出ていった。
あの人はなんだか苦手だ。
「なんの手紙だろう?」
「は!まさか、間に合わなかったとか?」
「ちょっと、マーリンさん!縁起でもない事を言わないでくさいまし」
まさか、そんな、でもマーリンの言う事も一理ある。
何時もの近況報告ならわざわざ緊急で送ってくる必要などない。
手紙を握りしめて唖然としている僕の肩をレオが叩いた事で意識が戻った。
「とにかく、ガスタ辺境伯からの手紙を読んで見たほうが良い」
「そ、そうだね」
僕は座るのも忘れ、父上からの手紙に目を通した。
父上からの手紙を読み終えた僕はあまりの急展開に言葉が出ず、ソファに力なく腰掛けた。
「ど、どうした?」
「なんと書いてあったのですか?」
レオとシアの言葉に僕は涙を流しながら手紙を2人に渡した。
「こ、これは!」
「まぁ!」
「な、なにがかかれているの?」
「ぼ、僕にも教えてください」
手紙には妹の病がメデューサ症候群と呼ばれる魔力障害である事、事故により大陸の外の国からやってきた凄腕の薬師によって治療され、先日無事完治した事が書かれていた。
「よかったじゃないか!アル」
「おめでとうございます、アルさん」
「私達が調べたのはムダになっちゃたわね」
「良いじゃないですかマーリンさん。
アルさんの妹さんが無事完治したのですから」
「それもそうね。図書館に篭るのもなかなか面白かったし」
「皆んな、ありがとう。本当に、ありがとう」
「なんだ~アル、泣いてんのか?」
「あぁ、泣いたって良いじゃないか」
「もう、レオ様!意地悪はいけませんわ」
「い、いや、俺はそう言う積もりでは……その、すまんアル」
僕は涙を拭うと戸惑っている皆んなにもう一度お礼を言った。
「皆んな、本当にありがとう」