マーリンさん、乗り込む
「なに、地下の14階だと?」
「はい。カイト先生によると、地下14階に珍しい病に関する本が集められているらしいんです」
「なるほどな。事情は分かった。
だが図書館の地下は広く危険だ。
最近は妙な噂もあるしな。
付き添ってやるから、俺が居無い時は大人しく地上で調べ物しろ。
分かったか?」
「はい」
「3日後、放課後に時間が取れるからそれまで勝手に地下に行くんじゃ無いぞ」
「わかりました」
コーレル先生は噂の事を知っていたようだ。
先生が付き添ってくれるなら安心だろう……安心だと思いたい。
あのチャラピアスで大丈夫だろうか?
まぁ、元冒険者だと聞くし何とかなるだろう。
私達は3日間、地上で調べ物をしたが相変わらず成果は無かった。
そして、今日はコーレル先生と共に地下14階に来て居る。
流石にここまでは太陽の光も届かない。
カンテラに灯された頼りない灯を手に、奥のエリアを目指した。
地下14階の1番奥、薄暗い書架に積まれた本を確認して行く。
カイト先生の言う通り、ここには病気関連の本が沢山あった。
コーレル先生にも手伝って貰い、病や薬草などの本を抜き出していく。
私が一番上の段にある背表紙に何も書かれていない本を手に取った時、カチリと音が鳴ると突き当たりの書架が音を立てて、動き始めた。
「本当に隠し部屋があったとは」
「噂は本当だったのでしょうか?」
「じ、じゃあ中に入ったら2度と出られないのですか?」
「お前たち、危険だから下がれ。
この部屋は学院に報告して他の先生を呼んでから調査し……」
「きゃぁあぁ!助けてぇ!」
「……聞こえたか?」
「はい。聞こえましたわ」
「僕も」
「私も」
「ぼ、僕にも聞こえました」
「よし、いくぞ!」
「「はい」」
「あ、おい!まて、戻れ!」
私達は引き止めるコーレル先生の言葉を無視して、走り出した。
あの悲鳴は確かにこの奥から聞こえた。
カンテラを棄て、生活魔法の灯りを浮かべて走ること数分、奥に明かりが見えて来た。
私達は一旦立ち止まると各々マジックバッグから武器を取り出した。
念のため今日は武器を持って来ていたのだ。
クルスはマジックバッグを持って居なかったが、私が作ったマジックバッグ(あまり容量は大きく無い)をあげたのだ。
私が品質は低いとはいえ、マジックバッグを作れると知った時のシアの目は怖かった。
あれは完璧に商人の目だった。
私は自分のマジックバッグ(師匠に作って貰ったもので、容量も大きい)から愛用の杖を取り出した。
トレント製の魔杖だ。
皆んなの武器はレオが片手剣、シアがメイス、クルスが両手にナイフを持ち、アルがショートスピアを手にしている。
学院の授業では模擬戦なども行われる。
5人しか居ない私達Sクラスは当然同じパーティだ。
「みんな、いつもの陣形で進むぞ!」
「わかった」
私達のなかで1番索敵が上手いクルスを先頭にアルとレオが続き、私が魔法で援護、シアが私のガードと言う陣形だ。
「おい、お前たち!危険だ、直ぐに戻れ!」
コーレル先生が追いついてきた。
「しかし、助けを求める声が聞こえたではないですか!」
「それでも戻るんだ!
レオンハルト・フォン・ミルミット殿下、貴方の身にもしもが有ってはいけないのです!」
「この学院では俺は一生徒だ!」
「生徒なら教師である俺の指示に従え!」
「事は一刻を争うかも知れませんわ。
わたくし達も万が一の時はこの身に代えてもレオ様をお守りします。
ですからコーレル先生、どうかお許し下さい」
「もうここまで来てるんですからお願いします」
「……分かった。だが、危険だと判断したら直ぐに逃げるんだぞ」
コーレル先生を加えた私達は慎重に進み、大きな部屋に着いた。
「この部屋に誰か居る」
明かりが点いた大部屋には幾つかの扉が有り、そのうちの1つから人の気配がすると言う。
扉に耳を当てて中の様子を伺うとカチカチと言う金属音と唸り声のような音が聞こえて来る。
私達はお互いの顔を見合わせて頷き合うと、レオが扉を蹴り開けた。
「そこの者、此処で何をしている!」
そこは私達が入って来た部屋と同じくらい広い部屋だった。
部屋の中には椅子に縛り付けられ、恐怖で涙を流す猿轡を咬まされた女性と机にナイフや短剣、杭など恐ろしい凶器を並べていたローブを着た人物が居た。
「貴様!何者だ」
レオの誰何する声にフードを被ったローブの人物がこちらを振り向いた。
「ようやく来てくれたか。
さぁ、君たちの魂も邪神様に捧げようではないか」
そう言ってローブの人物はフードを取った。
「な、なんで貴方が……カイト先生!」
コーレル先生の驚愕の声が地下の部屋に響いた。