マーリンさん、恐怖する
ユウ先生が串を構えたまま、ゆっくりとこちらに近づいて来る。
そして、先頭に立つレオの剣の間合いのギリギリ外で足をとめた。
「では、今から攻撃します。
なるべくゆっくり攻撃しますから、しっかりと見ていて下さい」
ユウ先生はそう告げると、レオの懐に一足で踏み込んだ。
「うぉ⁉︎」
一拍遅れてレオが反応する。
ユウ先生が大分スピードを落としてくれているお陰でレオのガードは間に合いそうだ。
しかし、剣を振ろうとしたレオの肩に水弾が命中した。
威力は有って無い様なものだったが、予想もしていなかったところに不意打ちを食らったレオは僅かにバランスを崩す。
結果、レオは間に合っていたはずのガードが間に合わず、串の一撃を受けた。
訓練用の革鎧の上に振り抜かれた細い串は折れたり欠けたりする事もなく、革鎧に大きな跡を残す。
レオの方は丈夫な革鎧に深い跡をつける様な攻撃の衝撃により、悶絶していた。
今の一瞬の攻防の中で多くの技術が使われていた。
始めの踏み込みは普段のレオなら反応出来ていたスピードだし、無詠唱で撃たれた水弾、ただの強化魔法では説明がつかない串の強化などだ。
その技術を身につける事が出来れば私達は更に強くなる事が出来るに違いない。
「じゃあ、次はマーリンさんで」
「え?」
「次はマーリンさんの番ですよ。
構えて下さい」
「れ、レオが受けたのを見て理解しましたので……だ、大丈夫ですよ?」
「ははは、遠慮する事はありませんよ」
「は、はは」
私……死ぬかも。
「皆さんお疲れ様です。
次の模擬戦の授業では今回の模擬戦で使用した技術を解説して行きます。
しっかり予習をしておいて下さい。
あ、あと皆さんも串焼きを食べて良いですよ。
このタレ、自作なんですが、かなりの自信作です」
ユウ先生は私達に串焼きを手渡すと竃をそのままマジックバックにしまい、次の授業の準備をすると言って去っていった。
「噂以上にとんでもない人だな」
レオがボヤいた一言に私達はみんな同時に頷いた。
私は体力を少しでも回復出来ればと、ユウ先生に貰った串焼きを食べた。
「美味い!」
「ど、どうした、マーリン?」
「美味いのよ、とんでもなく!」
串焼きを頬張る私を唖然として見ていたみんなだったが、気になったのだろう。
自分の串焼きを口にした。
「「「美味い!」」」
「なんだこのタレは⁉︎
こんなタレ、初めて食ったぞ!」
「甘じょっぱくてコクがあるタレが肉の味を何倍にも高めているみたいです!」
「タレも凄いけど、この肉もCランクの魔物であるバイコーンの肉だぞ。高級食材だ」
私達が高ランクの魔物の肉と食べた事のない深いコクを持つ謎のタレに驚いているなか、シアだけは串焼きを口にして唖然としていた。
目を見開き驚愕の表情を浮かべている。
「……で…………ゆが………………者……でも…………はず……なら………………の可能性が…………」
よく聞こえないが何かブツブツと呟いている。
「シア?」
「え、あ! はい」
「とうしたのよ」
「す、すみません。
これ程のタレならばかなりの規模で利益を出せる可能性が有るのではないかと考えてしまって…………ユウ先生、作り方を売って頂けないでしょうか?」
どうにかタレの作り方を知る事は出来ないか可愛く小首を傾げるシアだった。
先ほどのブツブツと呟いていた時の顔はとても同じ人物とは思えない。
商人って怖い。




