マーリンさん、叩きのめされる
「はぁ、はぁ、も、もうダメですわ」
シアが崩れ落ち、荒い息を吐きながら汗が地面を濡らすのを見つめる。
「シアさんが今のところ1番筋が良いですね。
それでも、やはり実戦不足です。
簡単なフェイントや視線による誘導などを使いこなせる様になればもっと強くなれますよ」
私達の中で1番強いシアが手も足も出なかった。
でも、おかしい。
いくら実力に差があるとは言え、私達もこれまできちんと訓練を積み、鍛えて来たはずだ。
全力で武器を振るったとしても、5分くらいで崩れ落ちる程疲労するのはあり得ない。
「最後はマーリンさんですね。
始めましょう」
私の番になりユウ先生から声が掛かる。
私はユウ先生が1つ目の肉を口に入れると同時に無詠唱で【ファイアーボール】を放つ。
私が放った魔法はユウ先生が振るった串であっさりと打ち消された。
確かに熟練の剣士なら魔法を形作る核を見抜き、斬りはらう事が出来るらしい。
しかし、まさかそれを串でやる人がいるとは思わなかった。
「大地よ 貫け 【アースニードル】」
大地から突き上げる様に飛び出したトゲ(訓練用に先は丸めている)はわずかに身体をズラしただけでかわされる。
「風よ 逆巻け 【エアショット】」
打ち出した風の弾丸は全て串で打ち消された。
それも、串に刺さった肉を食べながらだ。
私はもう1度、【ファイアーボール】を作り出すと、今度は直ぐに放つ事なく更に魔力を込める。
拳大だったファイアーボールは私の顔くらいの大きさとなった。
このサイズなら魔法の中心部に有る核を斬ることは出来ないはずだ。
ファイアーボールの半径は、串よりも明らかに大きいのだから当然だ。
「【ファイアーボール】」
「なかなか考えましたね」
ファイアーボールがユウ先生にせまる。
ユウ先生は魔力を串に集めている様だけど、あの串の長さでは核が破壊されるよりも早く、肉を焼き尽くすはずだ。
「【断空】」
ユウ先生が串を振るうと特大のファイアーボールが真っ二つになり消えて行った。
あり得ない!
ユウ先生は魔力を飛ばしたのだ。
無属性魔法に見えるかも知れないが違う!
無属性とはただの魔力ではなく、無の属性に変換された魔力の事だ。
あれが無属性の魔法なら分かるが、魔力を無属性に変換していた様には見えなかった。
「惜しかったですね」
「いえ、まだまだです」
私は前に師匠から聞いた戦法を試す事にした。
「【ファイアーボール】」
【ファイアーボール】を少し遅めに打ち出す。
そして、ユウ先生の視線が【ファイアーボール】に向いた瞬間、一気に踏み込み杖を振りかぶる。
「狙いは悪くないです。素晴らしいですよ、マーリンさん」
ユウ先生はそう言うと【ファイアーボール】を素手で打ち消すと同時に、串で私の杖を空高くはねあげたのだった。
「ここまでです。惜しかったですね」
ユウ先生が終了を告げる。
そこで、私は自分が極度の疲労状態である事に気がつく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
私は地面に座り込みながら荒い息を必死に整える。
「みなさんの実力を見せて頂きました。
個人での戦闘力は冒険者で言うとCランクよりのDランクくらいですね。
更に強くなるためには、魔法と武器の使い方ももっと磨かなければ行けません。
皆さんは今は、まだ、武器と魔法が使えるだけです。
では、武器と魔法を使いこなすにはどうすれば良いのか?
レオさん分かりますか?」
「武器と魔法を『使いこなす』ですか。
俺は魔法はあまり得意では無いのですが、やはり魔法を鍛え、剣技と魔法をバランスよくつかえる様にした方が良いと言う事ですか?」
「いいえ、魔法は個人の資質が大きく影響します。
苦手な人が無理に鍛えたところで中途半端な物になるでしょう」
「ふむ、では一体?」
「アルさんには前に教えましたよね」
「はい。『魔法と剣技を組み合わせた戦い方』ですよね」
「そうです。
剣が使える魔法使い、魔法が使える剣士になれば戦闘での対応力が跳ね上がります」
「それは、今のわたくし達とどう違うのでしょうか?」
「そうですね。では少しお見せします。
皆さん、構えて下さい」
私達は武器を構えた。
そして、ユウ先生が私達に対峙する様に立つ。
緊張感が高まる訓練所で私はユウ先生の動きを見逃さない様にしっかりと見据える。
そして、ユウ先生はゆっくりと構えた。
…………………串を。




