マーリンさん、躊躇う
「引き裂け 突風 【ウインドスラッシュ】」
「焼き払え 火炎 【バーストフレイム】」
シアとレオが放った魔法がコーレルに直撃する。
火属性魔法に風属性魔法が飲み込まれ、巨大な火柱が上がる。
「水よ 我が身を包め 【アクアベール】」
火属性に対する耐性付与魔法を使い、炎の中から現れたコーレルには火傷1つ無かった。
「ちっ、これでは時期に人が来るな。
さっさと終わらせるか」
そう言ってコーレルが腰に着けていたマジックバックから取り出したのは5体の死体だった。
「屍よ 今一度仮初めの魂を与えよう
汝の魂は我のモノ その身朽ちるまで【リーンカーネーション】」
コーレルが呪文を詠唱すると5体の死体が起き上がる。
「あぁぁあァあ!」
「イタイ、いタイ、いタい」
「うぅぅゥうゥ」
「殺す、殺す、コロス!」
「ママぁどコ?まマぁあ!」
死霊術によって操られている死体には無数の傷が見て取れる。
恐らく地下で拷問し殺した人間の死体に死霊術で魂を縛り付けて操っているのだろう。
「貴様ぁぁあ‼︎」
レオの怒号が夜の帳を引き裂く様に響き渡る。
私も目の前の凄惨な光景に吐き気が込み上げて来る。
「行け! 亡者共、奴らを殺せ」
5体の亡者達がこちらへと駆けて来た。
亡者の1体が手にした剣が、レオの頭を狙い振るわれる。
直撃する寸前、クルスの短剣が剣を受け止める。
剣を止められ、動きが止まった亡者をアルの槍が払い飛ばす。
「我が民よ すまない。
お前達の苦しみに気づいてやれなかった。
最早、お前達を助けてやる事は出来ない。
せめて、その魂を解放してやる」
「癒しと光を司る者よ 我らに力を 【セイクリッドエンチェント】」
光属性の上位属性である神聖属性を皆んなの武器に付加する。
神聖属性はアンデッドや闇の属性を持つ魔物に高い効果のある属性だ。
「憎い、コロス、殺ォす!」
「はっ!」
レオが切りつけた亡者は剣に付加された神聖属性の魔力によって浄化され、膝から崩れ落ちた。
「うゥううゥ」
「イタぁあい、いタイよぉぉお!」
「風よ 捕らえよ 【ウインドバインド】」
「光よ 囚われし魂に救いを 【バニッシュ】」
シアが風属性の拘束魔法で動きを止め、私の神聖属性魔法で浄化する。
「カイト先生に比べるとかなり弱いですわね」
「【リーンカーネーション】で操られる亡者の力は生前の能力と肉体の損傷に大きく左右されるのよ。
カイト先生は生前、魔術の達人だったし、冒険者としての経験もあった。
それにカイト先生の場合は死んだばかりで肉体の損傷も少なかったのよ。
ただの市民の亡者とは比べ物にならないわ」
「ではこの亡者達は……」
「ええ、時間稼ぎよ。
なにか企んでるに違いないわ」
「あぁぁあぁァあ!」
「やぁ!」
神聖属性を付加された短剣により浄化された亡者は地面へと崩れ落ちる。
私達はコーレルの元に向かい駆け出した。
「マまにあイだぃイイ!」
「⁉︎」
しまった! 一瞬だけだが躊躇ってしまった。
私に襲い掛かってきた亡者は、まだ年端も行かない少女だったのだ。
囚われた魂を解放するしか、少女を救う方法は無いと理解していたが、私は動きを止めてしまった。
亡者の少女が持つナイフが私に迫る。
ゆっくりと進む時間の中でレオの剣が亡者の少女を一刀の元に切り捨てる。
「マーリン、躊躇うな」
「…………ごめん、ありがと」
魂を浄化された亡者の少女が崩れ落ちる。
私にはその顔が微笑んだ様に見えた。
「コーレル! 亡者は全て浄化された。
幾ら貴様でも俺たち5人を同時に相手出来まい!
貴様は多くの人々の命を奪っただけでなく、死者の魂を弄んだ!
その罪は最早、貴様の命を以てしても償えるものでは無い!
貴様は既に人ではない!外道だ!
覚悟するがいい!」
「ははは、覚悟か、面白い事を言うではないか。では、これならどうする?」
コーレルは懐から短剣を取り出した。
その短剣には精緻な魔方陣が刻まれており一目で実戦用の武器ではなく、儀式などで使用する祭具の類いであることが分かる。
コーレルは短剣に魔力を込め始める。
魔力を注がれた短剣は薄暗い光を帯びている。
その光に照らされる様にコーレルの足元に刻まれた複雑な魔方陣が浮き上がる。
亡者を使って時間を稼いだのはこの魔方陣を描くためだったに違いない。
「な、何をする気だ?」
「何を? こうするんだよ」
そう言うと、コーレルは短剣を自らの胸に深々と突き立てるのだった。




