マーリンさん、お姉さんに会う
「さっきから何を読んでいるんだ?」
寮の談話室で本を読んでいた私にレオが問いかけてきた。
「コレよ」
私は、タイトルがレオに見える様に、自分が読んでいた本を掲げる。
「ん? 『邪神崇拝と狂信者』か。
例の黒幕について調べてるのか?」
「まぁね。一応、調べられるだけ調べようかなって思って。
今の所、過去の邪教徒が起こした事件やテロなんかを当たってるんだけど、特に手掛かりになりそうな物は無いわ」
「わたくしも不可解な事件だと思いますが、カイトが犯人ではないと決まったわけではないですからね」
「そうだね、全てカイトの犯行で、王太子であるレオを狙ったりしたのは邪教徒故の狂った思想、と言って仕舞えばそれまでだからね」
「別にそれならそれで良いのよ」
「でも、カイトの死亡時刻の謎が残りますよ?」
「それこそ、単なる診断ミスと言う可能性だってあるじゃない」
「まぁ、王宮医師も完璧では有りませんからね」
「まぁ、これは単なる私の自己満足よ」
私はそう言うとまた読書に戻るのだった。
翌日の昼休み。
私達は食堂で昼食を食べた後、食後のお茶を飲みながら無駄話に花を咲かせていた。
「昨日の夜に手紙が来たんだけど先週、妹が産まれたらしいんだ」
「あら、おめでとう」
「おめでとうございます、アルさん」
「うむ、目出度いな」
「おめでとう、アルくん」
「はは、まるで僕の子が産まれたみたいな扱いだね。ありがとう」
「妹には優しくしないと駄目よ」
「そうだぞ、兄として妹を守らなければならないぞ。
上が奔放だと下が苦労するからな」
「「「ははは」」」
「あら、その言い方だと私が奔放で貴方に苦労を掛けている様に聞こえるわよ」
突如、声を掛けられ、振り向くと、美しい金髪をセミロングにした美人が立っていた。
目立たないがよく見るととても上質な生地で出来ている服を着ている。
「あ、姉上、なぜここに⁉︎」
「あら、私はこの学園の出資者よ。
視察のついでに弟の様子を見に来たのよ」
どうやらこの美人はレオのお姉さんらしい…………という事は彼女はこの国の第1王女テスタロッサ様か!
私と同じ思考に至ったのかクルスが緊張で真っ青になっている。
私とアル、そして真っ青になったクルスは起立して、礼を取る。
学院生のレオと違い彼女は正真正銘の王族だ。
いや、レオも王族だけど。
「あぁ、そう言うのは良いわよ。
公の場では無いんだから。
座って頂戴、みんなには弟がお世話になっているわね。
私はレオの姉のテスタロッサよ。
テレサって呼んでね」
「は、はい」
この国の王族はフランクな人が多いのかしら?
テレサ様は後ろにいた無表情なメイドさんが引いた椅子に腰を下ろした。
「お久しぶりですわ、義姉様」
「久しぶりね、シアちゃん、アル君も」
「お久しぶりです、テレサ様」
「先日、例の怪盗にしてやられたとお聞きしましたが、お怪我はありませんか?」
「えぇ、大丈夫よ。
奴は捕まえられなかったけど不正を働いていた貴族は告発できたからね。怪盗様々ね」
「怪盗?」
「ん? マーリンは知らないのか? 最近、王都を中心に騒がれている義賊の話だ」
「知らないわね、義賊なの?」
「そうよ、奴は不正を働いて私腹を肥やしていた貴族や商人から不正の証拠と私財を盗み、証拠を公開し、盗み出した財を孤児院や教会などに秘密裏に寄付して回るのよ」
「孤児院や教会も盗み出された金だと分かっているのだが……まぁ公然の秘密という奴だな」
「私としては不正貴族なんかどうなっても構わないんだけど、クズでも貴族は貴族だからね。
王族としては、庇護しなければいけないのよ。
今回も私が私兵をだして……まぁ雇った冒険者なんだけど警備を手伝ったんだけどね。
まぁ、低ランクの冒険者がほとんどだったから簡単に蹴散らされちゃったのよ。
1人だけ、唯一のAランク冒険者がかなり粘ってくれたけど怪盗の方が1枚上手でね、宿の私の部屋に不正の証拠を投げ込み、姿を消したわ」
「そんなことが有ったのですね」
「マーリンはあまり噂とかに興味が無いからね。
盗みの前に予告状を出したり、盗みの際誰も殺さない様にしたりと、まるで歌劇の主人公の様だと学院でもかなり騒がれていたよ?」
「まったく気づかなかったわ」
「まぁ、まんまとしてやられて悔しいからね。
今度は必ず捕まえて見せるわ。
あの怪盗……『怪盗108面相』を」
テレサ様の決意を聴きながら私達の昼休みは過ぎていった。




