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※ここからは差別用語が入ります。物語の作風に一番そぐう言葉を選んでいるのでそれで嫌な気持ちになると云う方は閲覧を控えることをお勧めします。
生臭い風が吹く。風の中に悪臭が混じっている。人間どもの汚らしい臭いだ。
狼者の少年は、あまりの臭さに顔をしかめた。
ドンッと、足に何かがぶつかった。幼い雄の人間だった。
ボロボロに破れたつぎはぎだらけの埃っぽい服を身につけたこじきのような子供。ぶつかった衝撃で尻もちをついたままこちらを怯えたような目で見上げている。どことなく、幼少期の頃の少年に似ていた。
「ご、ごめんなさ…」
子供の開いた口から謝罪の言葉が溢れ出た。それとともに涙も落ちてきた。
「…」
少年が口を開いた。と、間髪入れずに他の声が遮る。
「申し訳ありません!」
「ほら、あんたもぼけっとしていないで早く謝りなさい!」
現れたのは殺伐としたこの場にそぐわない豪勢に着飾った大人の雌の人間だった。
(………卑族か。)
卑族と言うのは、過去のシミだらけの栄光に縋り付いて自分はまだ偉いと妄想している人間たちのことを指す。尤もいまは狼者たちが十分な餌を与えていないため、以前のような絢爛豪華な生活はおくれないだろうに、どう言うわけか豪華な衣服や装飾品を身につけているのであった。
一頻りペラペラと空っぽの謝罪を繰り返してから、雌は泣きじゃくる子供を無理やり引きずって帰っていった。どうやらあの子供はこの雌の奴隷だったらしい。雌の手には引きちぎれた鉄製の鎖が握られていた。
「…子供に謝りたかったな。」
二人が消えて行った路地裏の方にフッと視線を送り、ぼそりと少年は呟いた。