蔵書目録 ページ1
更新頑張ります。
昔々のその昔、グリム国に住んでいた少年が、お菓子の家山にパンのかけらを拾いに行って帰ってきたら、グリム国が滅んでいた。というよりグリム国内の人間が滅んでいた。みんなは異常発生した大量の狼に喰われていたのだ。その少年は人間が全て滅んでしまったのかを確かめるために世界を旅した。わかったことは、残念ながらまだ人間は滅んではいなかったが、生き残りはごく少数で常に狼に怯えて暮らしていたという事だった。
やがて数百年が立ち、世界を我が物顔に闊歩していた狼どもは進化して人に近い姿となった。しかし尻尾と耳は残っているのでそのものたちは世界共通で「狼者」と呼ばれることになった。そしてもともと彼らの中で組み立てていた社会を意思が通じるようになったのをいいことに人間どもにも課したのだ。その社会では人間は不健康で文化的じゃない最低限度よりちょい下の生活を強いられた。しかし人間はそんな圧力に屈することはなく、心の中でメラメラと反撃の炎を燃やしていたのだ…と信じたい。
少年グレーテルは人間国の中でも外れの方にある7人の小人山とお菓子の家山と薔薇の城山に囲まれた毒林檎村に生まれた平凡な心優しい少年だ。この毒林檎村は昔から中立地帯として有名で、この世の中で唯一人間と狼者が仲良く暮らしているところだった。そしてグレーテルの家はこの村一の医者として有名で彼もまた医師になるための努力を怠らなかった。父親が死んでからは彼が村で一番、そして唯一の医者となった。まあまだ見習いではあったが。それゆえに周りからの信頼も厚く、「みんな」で「仲良く」暮らしていた。
特に彼は同年代と仲が良く、仕事をしていないときは彼らとよく一緒に遊んでいた。そしてその中でも仲がよかったのは隣の家に住むチルチルとミチルという二人の狼者の兄妹で、この二人とは小さい時から一緒に遊んでいた、いわゆる「幼馴染」というものだった。彼らは医者になりたいというグレーテルの夢を応援してくれ、また、グレーテルも彼らの「青い鳥を見つける」という世間的にみれば「馬鹿げている」夢をばかにせず応援した。
ある日、グレーテルが突然こう言った。
「ねえミチル。グリム国って本当にあったのかなあ。」
「グリム国?何それ?」
「母さんから聞いたんだ。ミチルはかつてこの世界を人間が治めていたことを知っているだろう?グリム国っていうのはその人間が治めていた国の名前だよ。そこでは、好きなだけご飯が食べられたり、好きなだけお水が飲めたりしたんだって。」
「そんな夢のような国が、本当にあったの?」
「それがあったんだよ!僕はね、いつか人間と狼者がこの村みたいに共存できるようになったら、新しい『グリム国』を創りたいんだ!そうすれば好きなだけ薬の研究とかもできるし、何よりみんなで幸せに暮らせる!」
「グレーテルは素敵なことを考えるわね。ねぇ、私にも、その夢応援させてくれない?」
「もちのろんだよ、ありがとう!」
そうして健全なグレーテル少年は、それが実現すると信じて疑わずに幸せそうに毎日を過ごしていた。
しかし、世界はそう甘くはない。あるとき彼が薬草採集の為におかゆ村に呼ばれることがあった。しかも新種の薬草が見つかったのでどんな薬に使えるか、検分してほしいということだった。この知らせにとても喜んだグレーテルはすぐに行くことにした。
おかゆ村は7人の小人山を超えた渓谷にある村だった。なのでグレーテルは日の出もまだという時間帯に毒林檎村を出た。そんなに早く出る必要は特になかったのだが、一刻も早くその薬草を調べたかった。
(もしかしたら母さんの病気を直せるかもしれない。)
彼の母親は父親が死んでから、あまりの悲しみに病を患ってしまった。それは村一番の名医グレーテルでも直せないほど深刻なものだった。そして余命いくばくもないというところにまで病床は悪化していたのだった。だから、今回が最後の望みということもあり、急いでいたのだ。
道中で不吉な噂を聞いた。この辺りの村人の姿を最近見かけなくなった、というものだった。
グレーテルが帰ってきて一番に目に入ったのは、惨状と化した毒林檎村だった。種類を問わずあらゆる生物がズタズタになり、村が血の海だった。
(っそうだ、家は!?)
慌てて彼の家の方向に走る。しかしそこは周りと同じ血の海で、彼の家族が無残な状態で倒れていた。
「母さんっ!」
そして彼の家の壁には大きく「駆逐完了」と血で書かれていた。
(なんで…なんでこんなことになったんだ!僕が悪い子だから?天罰が…くだったのか?)
彼は村中を生存者を求めて走り回った。
「だれかっ!誰か、生き残った人はいないのか!」
「チルチル!ミチル!」
しかし、壁の血文字が示すようにこの村の住人たちは皆「駆逐」されてしまっていた。人間も狼者も分け隔てなく皆肉塊と化していた。
(僕がっ!僕がおかゆ村でのうのうと薬草を取っていた間にっ!みんな…みんなこんな、酷い事にっ!」
(僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ!
(医者見習いの僕がいれば救えた命もあったかもしれないのに!
(せめてあと半刻早く帰っていれば…こんなっ、ことには…)
「うわああああああああああああああああああああああああああっ!」
読んでくれてありがとうございます。