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突然のプロポーズ2

エイミがなにも答えられないでいるのを、ジークは拒絶と受け取ったようだ。大きく肩を落として、しゅんとしてしまった。

「……やはり、こんな怖い顔の男とでは嫌か? アルのように美しい顔ならなぁ」

「いえ! そういうことでは!」

エイミはあわてて、ジークの勘違いを訂正する。

「たしかにアルは物語の王子様みたいに格好いいですけど、ジーク様にはジーク様の魅力があります! ふさふさの銀髪も鋭い瞳も、ワイルドで素敵です!背も高くて、強そうですし」

「……それは女には嫌われるポイントでは?」

「他の人は知りませんけど、私は好きです!」

エイミは大声で宣言すると、はぁはぁと肩で息をした。


「では、どこがダメだ? お前の希望に沿えるよう、できる限り改善するから言ってくれ」

ジークは真剣な目でエイミを見つめた。彼の本気が伝わってくる。


(えぇ〜本気で言ってるの!)


エイミはパニックになりそうな頭を必死で落ち着かせて、懸命に言葉を選んだ。


「ジーク様ではなく、問題があるのは私です」

「どんな問題だ? 解決に向けて、尽力しよう」

ジークはどこまでも、いい人だ。

「まず、私は平民です。それも貧しい村のなかでも、もっとも貧乏な家の。公爵様の奥様になれるような身分ではないです」

「公爵家が平民を娶ってはならないという法律は我が国にはないぞ」

「法的に問題なくても、周囲がきっと反対します!」

「俺の両親はとうに亡くなっているし、密に付き合いのある親類もない。ハットオル家の当主は俺だから、俺がいいといえばそれで問題ない」

「でも、でも、あっ! アルが、アルがきっと反対します。公爵の身分にふさわしい女性でなくては〜なんて、言いそうです」

ジークははてと、首をかしげた。

「アルにはさっき伝えてきたぞ。俺の決めたことなら異論はないとのことだ」

「えぇ〜!」

「あれは賢い男だ。意味もなく反対などしない」


(それって……絶対、呆れて投げやりになったんだ)


「では身分は置いておいて。私のこの黒髪と黒い瞳をよく見てください!不吉ですよ!ノービルド領に良くないことが起こるかも」

エイミはまとめていた髪をほどいて、ジークに見せつけた。

が、ジークは嬉しそうに微笑んだ。

「……うん。やっぱりおろした方が似合うな。黒い瞳も黒曜石のようで、美しい。エイミは黒曜石を知ってるか? 異国ではとても価値のある宝石だ」


エイミはうーんと頭を抱えてしまった。いまのジークでは話が通じそうもない。

そもそも、なぜ唐突に結婚の話などが出たのだろうか。


「あの、なんで急に結婚をお考えになったのですか?」

ジークは三つ子達に視線を向けた。

「アンジェラや三つ子達はまだ幼い。しっかりしてるが、リーズやナットだってまだ子供だ。母親と呼べる存在が必要なのでは……とずっと考えてはいた」

「……そういうことだったんですね」


腑に落ちた、というようにエイミは頷いた。自分のためでなく、子供達のための結婚なのか。優しいジークらしい話だ。


「でも! それならなおさら、私なんかよりふさわしい方を探さなくては」

「エイミがふさわしいと俺は思った。だからプロポーズしたんだが」

「そんなあっさり決めたらダメですよ! そうだ、領内中の女性を集めて夜会でも開いたらどうですか? その中からジーク様が好みの女性を選ぶというのは?」

「以前、ゾフィーが似たようなことを画策したが……女達はこの城に近づくことすら嫌がったぞ」

「それは残虐公爵なんて、根も葉もない、どころか真逆の噂のせいですよー」


ジークはふぅと小さくため息をつくと、エイミの手を取った。

急に手を握られたものだから、エイミはあわてふためいてしまいジークから視線をそらした。

が、ジークはまっすぐにエイミを見つめている。


「他の女がどうとか、そんなことはどうでもいい。俺はエイミに結婚して欲しいと思っている。エイミの返事が聞きたい」

「で、でも、私、シェリンに怪我をさせてしまったし……母親になんて、とてもなれないです」

「……さっき、シェリンを守るために、躊躇いもなく素手で熱い鍋を持ち上げたお前を見て、子供達の母にふさわしいのはお前しかいないと思ったのだ」

ジークはエイミの前で膝をついた。そして、ぐるぐるに包帯が巻かれた彼女の手にそっと唇を寄せた。


怖い顔ではあるが、こういう仕草が様になるあたり、やはりジークは貴族なのだとエイミはおかしなところで関心してしまう。

自分の人生にはおとずれるはずがないと思っていたシチュエーションだったので、なんだか現実感が薄いのた。


「エイミ。どうか俺と結婚して、子供達の母親になって欲しい」

「よ、よろしくお願いします!」

それだけ言うのがエイミの精一杯だった。ジークは白い歯を見せて、くしゃりと笑った。こういう顔をすると、年相応の若者に見えるのだなと、エイミはまた、少しずれたことを考えていた。

幸せというものに不慣れ過ぎて、浸ったり、噛みしめたりということが上手くできないのだ。


翌朝。ジークは皆の前で、エイミとの結婚を発表した。

「ふぅん、そう」と、淡白に答えたのはアンジェラだ。エイミが見たところ、彼女は素直には表わさないがジークのことが大好きだから、きっと面白くないのだろう。

アンジェラのフォローはしっかりしなくては、エイミはそう心に刻んだ。


「別に、俺には関係ないし」

ジークにそんな憎まれ口を叩いたのはナットだ。彼は恥ずかしがっているだけのように見える。

リーズはとても喜んでくれた。

「わぁ、わあぁぁ〜! どうしよう、楽しみ過ぎるわ。結婚式をしないといけないわよね。ドレスを選んで、指輪も作らないといけないし……アル、早速街に出て腕のいい職人を探しに行きましょうよ」

まるで彼女が花嫁かのような、張り切りぶりだ。


「そもそもプロポーズなんて不要だと、僕は言ったんですけどねぇ。烏ちゃんはジーク様が買ったわけで、いわばジーク様の所有物なんだから」

アルに言われて初めて、エイミもその事実に気がついた。

「はっ。よく考えたら、その通りですね。私の意思確認なんて必要なかったのに」

ジークは怖い顔でアルに言う。

「俺は、この城で働いてくれる者を所有物などと思ってはいない。結婚は人生の一大事だ。エイミの意思を無視していいはずがない」

「だって、烏ちゃん、どうせ行き遅れだし。ジーク様を逃したら、次はないでしょ」

「アル!」

エイミは怒るジークを、まぁまぁとなだめた。

「いいんです。本当にアルの言う通りですし。結婚なんて、叶わない夢だと諦めていました。こんな私でも花嫁になれるなんて、ジーク様には感謝してもしきれません」

「……俺も、嫁に来てくれる女はいないと思っていた。エイミには感謝している」

ふふっと、ふたりは笑い合った。


「うざっ! なに朝っぱらから、見せつけてんですか。独身の僕へのあてつけですかね〜」

アルはいつも以上に怒りっぽい。

「アルも予想通りの小姑っぷりね。顔がいいだけじゃ、本当に誰もお嫁さんになってくれないわよ」

「うるさいぞ、リーズ」


エイミは疑問に思っていたことを、アルに聞いてみることにした。

「アルは絶対に反対すると思ってた。私なんかがジーク様の妻になって本当にいいの?」

アルはふんと鼻を鳴らす。

「僕はジーク様の側近だ。どんなことであれ、主の希望を叶えるのが仕事だからな。それに……」

「それに?」

「ジーク様はああ見えて、頑固だ。決めたことは絶対に譲らない。僕は時間の無駄がなにより嫌いだ」



こうして、エイミのお仕事は女中から公爵夫人へと、謎のステップアップをとげたのだった。










ようやく、夫婦編に突入です〜

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