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アンジェラの反乱2

厩舎の奥、飼葉の山のなかで、うずくまって眠るアンジェラを発見したのはエイミだった。

後から追いついたジークも、それを見てふぅと大きく息を吐いた。

「よかった……」

「はい! 私はちょっと出ておくので、ジーク様起こしてあげてくださいね」

何故だ?という顔をするジークに、エイミはもうと頬をふくらませる。

「アンジェラはジーク様に抱きしめて欲しいんですよ! それが女心ってやつです」


エイミはジークを残して、そっと厩舎を出た。アルやリーズ達にもアンジェラの無事を伝えなければ。

目を覚ましたらしいアンジェラの、安堵の泣き声を背中に聞きつつ、エイミは足を速めた。


アンジェラのジークを見つめる瞳。あれは自分と同じだと、エイミは薄々気がついていた。アンジェラの寂しさは、父親をとられたせいではないだろう。

(アンジェラってものすごく可愛い顔してるのよね……) 

手強すぎるライバルの出現に、エイミはがくりと肩を落した。


厨房の隅に、エイミとアンジェラは並んで座り込んでいる。

ジークに連れられて戻ってきたアンジェラがエイミのスカートの裾を引っ張って、ここまで連れてきたのだ。

「……ありがと」

消え入りそうな小さな声で言うと、アンジェラはぷいと顔を背けた。エイミがはて?という顔をしたので、彼女は渋々ながら、もう一度口を開いた。

「あんたが見つけてくれたんだって、ジーク様が……お礼を言いなさいって」

「あぁ!」

エイミは納得した。いまのは捜索の礼だったのか。

「いえいえ。私のほうこそ、自分のことばっかりでごめんなさい」

アンジェラは露骨にむっとして、エイミを睨みつける。

「あんたの、そういういい人ぶったとこ、大嫌い!」

アンジェラの素直さに、エイミは苦笑してしまった。

「それなら、私がすっごく嫌な継母になってアンジェラを追い出したら、好きになってくれますか?」

「そんなことしたら、ジーク様に嫌われるわよ」

「でも、強力な恋敵を遠ざけることはできますね」

「恋敵?」

エイミはくすりと笑った。

「はい。私とアンジェラはジーク様をめぐっての、恋敵です」

『馬鹿みたい』

アンジェラの目がそう言っている。

「私、まだ五歳よ。それに、あんたはジーク様の妻になったじゃない」

「でもあと十年もしたら結婚できる歳ですよ。アンジェラはきっと絶世の美女になりますし、そのころの私は……」

「いまよりずっとオバちゃんになってるわね」

エイミが避けた言葉を、アンジェラはズバリと言ってくる。シミとかシワとか気になってくるお年頃だろうか。いまよりずっと丸くなっているかもしれない。

「うっ。そうなんですけど、でも! 美貌はアンジェラに負けちゃうと思いますけど、大人の女としての内面を磨いたり、私なりになんとか頑張りますから」

アンジェラはふんと鼻を鳴らす。

「心配ないわよ。ジーク様はオバちゃんになったからって、あんたを捨てたりしないから。……そんな人じゃない」

「えっ? あぁ、たしかに! そうですよね。ジーク様はそんな人じゃないですね」

エイミは嬉しそうに、ふふっと口元を緩ませた。

「なによ、それ! なんかムカつくわね」

「えへへ」


その夜。ジークがエイミの部屋を訪ねてきた。

「どうしたんですか?」

ジークが部屋を訪ねてくるなんて初めてのことで、エイミは少し驚いた。

「いや。その、急に、エイミと話したくなってな。入ってもいいか?」

「は、はい! 少し散らかってますけど」

今日はアンジェラ行方不明事件でバタバタしていて、部屋の掃除は全くできていなかった。


(わ〜ん。明日でいいかなんて考えずに、ちゃんとしておくべきだった)


ジークの部屋とは違って、ソファなどは置いてないので、エイミはベッドに座るようジークを促した。が、ジークは床にどかりと座り込んだ。

「お尻が痛くなりませんか?」

「問題ない。ここで大丈夫だ」

「そうですか。じゃあ、私も」

エイミは言いながら、ジークの隣に腰をおろした。

「エイミはベッドに座っていいんだぞ」

「いえいえ。床に座るのは、私のほうが慣れてますから」

とは言ったものの、肩が触れ合うその距離にエイミはなんだか緊張してしまった。

そういえば、ジークは朝もこうしてエイミの部屋を訪ねてきたのだ。なにかあるのだろうか。

ジークはなにやら難しい顔をしているように見える。

「エイミ」

「は、はい!」

ジークはエイミに向き直ると、神妙な顔で頭を下げた。

「アンジェラのこと、本当にありがとう。アンジェラを見つけられたのは、エイミのおかげだ」

「いやいや、私はなにも……」

むしろ、母親代わりとして子供達のケアをできていなかった自分の責任は重い。エイミはジークにそう言って、侘びた。

「いや、子供達に向き合えていなかったのは俺の方だ。引き取って、衣食住の世話をするだけじゃ父親にはなれないんだな。怖がられているからとか余計なことを考えずに、これからはもう少し話をしたり一緒にいる時間を増やそうと思う」

ジークはアンジェラの家出がかなりこたえたらしい。反省点もたくさん見つかったようだ。エイミはジークのこういう素直でまっすぐなところが、とても好きだと強く思った。

「はい。子供達はみんなジーク様が大好きですから。一緒に過ごす時間が増えたら、きっと喜びますよ」

「うむ。そんなわけで、次の休みには家族みんなで少し遠出をしてみようと考えているんだが……エイミも付き合ってくれるか?」

「もちろんです!」

エイミが満面の笑みで答えると、ジークは少し恥ずかしそうに目を伏せた。

「ありがとう。それからな、エイミ」

「はい」

「子供達の母親になって欲しいという気持ちと同じくらいの重さで、俺は……妻としてエイミを必要としている」

「は、はい。えーと」

エイミは一生懸命、ジークの言葉を噛み砕いた。

「あっ。公爵夫人としてのお仕事ですね。ゾフィーさんから聞いています! 社交界でのマナーや領地のこと、自信はあまりないのですが、頑張りたいと思って……」

「違う。そうじゃなくて……」

「はい?」

エイミがジークの顔をのぞきこむと、彼の顔はみるみる赤く染まっていく。

(なんだか、ジーク様が可愛く見える)

エイミの胸がドキドキと早鐘を打つ。

ジークが熱のこもった瞳で、エイミを見据えた。

「そうじゃないんだ。俺が言いたいのは、男としてエイミが好きだって

ことだ」

「えっーー」

ジークの告白はこれ以上ないほどストレートだったにも関わらず、エイミは頭が真っ白になってしまい、なにを言われたのかすぐには理解できなかった。身体中が熱くなって、鼓動はどんどん大きく、速くなっていく。このままじゃ、心臓が弾けてしまうんじゃないか。エイミは半ば本気でそんなことを思った。

「俺がそんな風に思ってたら、嫌か?」

エイミは間髪いれずに、ぶんぶんと首を横に振った。

「い、嫌なわけない。嬉しい。嬉しいに決まってます」

「そうか」

ジークは心の底から安堵したという表情で、白い歯を見せた。

その笑顔に、エイミの心臓はまた弾け飛びそうになる。

(うぅ。ジーク様に殺されちゃう)


「なら、もう遠慮はしないことにする」

「え、遠慮?」

「うむ。昨夜は遠慮したが、もう自分の気持ちに正直になることにした。エイミ、俺の部屋においで」

そう言うと、ジークはエイミをふわりと抱き上げだ。

「やはり夫婦は同じ部屋で眠るべきだと俺は思う」

『私もそう思います!』

エイミはそう言いたかったが、ジークの腕の中があまりにも心地よく、幸せで、なにも言葉にできなかった。



















珍しく積極的なジークのお話でした!

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