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アンジェラの反乱

シーツにくるまりながら、エイミは迷っていた。空はすでに明るくなり始めている。いっそのこと、もう起床してしまおうか。でも、あんまり早起きしてジークとふたりきりにでもなってしまったら、とても気まずい。

「あ〜もう〜」

ごろん、ごろんと布団の上を転がる。

と、そこに、ドンドンと大きなノックの音が響いた。

こんな朝方に何事だろうか。

エイミは飛び起きた。と、同時に扉が開いて、ジークが顔をのぞかせた。

「エイミ!」

「わっ。ジーク様? どうしたんですか?」

エイミはまだ夜着のままだ。あわてて、近くにあったローブをひっぱりくるまった。だが、彼の方はエイミのそんな恥じらいは気にも留めていないようで、ズカズカと近づいてくる。

エイミは上目遣いにジークを見る。

「な、なにか?」

「あのな、エイミ」

ジークはなにやら真剣な顔をしている。なにを言われるのだろうかと、エイミは少し身構えた。

が、そのとき、ジークの声をかき消す大声が飛び込んできた。

「エイミ! アンジェラが来てない?」

血相を変えたリーズだった。彼女らしくもなく、落ち着きのない様子だ。リーズに続いて、アルも飛んできた。

「ニ階は全部屋見たが、どこにもいないぞ」

アルもずいぶんと慌てた様子だ。


「アンジェラがどうかしたのか?」

ジークが問うた。答えたのはリーズだ。

「アンジェラがいないの!昨夜は私と一緒に寝てたはずなのに、朝起きたらどこにもいなくて……」

「ナットとトマス爺が庭を探してくれたけど、見つからない。ふたりはいま屋敷の外も回ってます」

アルの言葉にジークが眉根を寄せた。

「城の敷地外に出たのか? このあたりは人気がないし、すぐに森に入ってしまうぞ」

「はい。外は危険です」

「手分けして、もう一度よく探そう。必要ならば、人も手配しよう」


エイミが呆然としているあいだに、ジークとアルはテキパキと捜索範囲を決め、動き出していた。

「エイミ。お前は屋敷の中をもう一度よく探してくれ。頼んだぞ」

「はい! ジーク様もお気をつけて」

エイミは走り去っていく彼の背中に向かって、叫んだ。

「じゃ、エイミは一階と屋敷まわりをもう一度お願い! 私は二階を見てくるね」

リーズに言われて、エイミは大きく頷いた。


エイミは手足が埃でまっ黒になるまで、屋敷中を這いつくばってアンジェラを探したが見つからなかった。


(どうしんだろう。どこに行っちゃったの)


アンジェラは五歳という年齢のわりには聞き分けのよい賢い子だ。エイミの知る限り、ひとりで勝手に出歩くことなどなかったし、意味もなく大人の手を煩わせるようなこともしない。


(やっぱり……)


エイミには思いあたることがあった。

「エイミ、アンジェラいた?」

二階から戻ってきたリーズがエイミに声をかけた。お互いの顔を見れば、状況は察せられる。ふたりは揃って、肩を落とした。

「どこに行っちゃったのかしら? まさか誘拐とか」

こんな人気のない場所に都合よく誘拐犯があらわれるものだろうか。計画的な犯行ならありえるのかも知れないが、ジークは残虐公爵として人々から恐れられている存在だ。

なんとなくだが、誘拐ではないような気がする。エイミはそう思ったが、憶測を口にする気にはなれず黙っていた。


ちょうどそのとき、ジークとアルが外から戻ってきた。思ったより早く帰ってきたので、エイミはアンジェラが見つかったのかと期待したが、残念ながらそうではなかった。


ジークは憔悴しきった顔で、首を横に振った。

「どこにもいない。本格的に森を捜索するとなれば、色々と準備が必要

だから一度戻った」

「あの、ジーク様!」

ジークは慌ただしく準備を進めようとしていたところだが、エイミは思いきって声をかけた。

「なんだ? 急ぎでなければ後で……」

ジークは気が急いているようだ。

「アンジェラとの思い出の場所とか、印象深い出来事とか、そういうの、なにかないですか?」


ジークとエイミの結婚が決まって以来、アンジェラはどこか寂しそうにしていた。ジークをとられてしまうような、自分の居場所がなくなるような……そんな心許ない気持ち、エイミは誰よりも知っているはずだったのに。


(それなのに、自分のことばかり考えて浮かれて……一番大切な母親代わりという役目をほったらかして……最低だわ)


ジークとの結婚が嬉しくて、幸せで、彼のことばかりで頭が一杯になっていた。アンジェラが怒るのも、当然だろう。


(ダメダメ! 自己嫌悪するのはアンジェラを見つけてからよ)


「どういうことだ?」

「誘拐とかではなく、アンジェラが自分で出て行ったなら、きっとジーク様に見つけて欲しいと思ってるはず。だから、ジーク様にしかわからない場所に隠れてるはずです」

「俺との思い出? と言われても、アンジェラは俺を怖がっていたようだから、どこかに連れて行ってやったこともないし」

「も〜ジーク様は鈍すぎます! どっからどう見ても、アンジェラはジーク様が大好きですよ」


アンジェラはいつも恥ずかしそうに、でも心底嬉しそうに、ジークの背中を見つめていた。あれのどこが、怖がっていたというのだろうか。エイミは初めて、ジークに苛立ちを覚えた。

「ささいなことでもいいんです! なにかアンジェラに関することを」

「あぁ」

ジークはなにかを思いついたという顔をした。

「なんですか?」

エイミはジークにつかみかからんばかりの勢いだ。

「アンジェラはシュクが大好きだったな。俺がシュクの世話をしていると、よく厩舎にやってきてシュクを眺めてたぞ」

シュクはジークの愛馬の名だ。黒毛の大きな馬で、ものすごく力持ちだ。

エイミは思わず歯噛みした。

(それって絶対、大好きなのは馬じゃなくて、ジーク様だわ)


「厩舎なら私がさっき見たけど……といっても、あんなところにはいないと思ってたからさっとのぞいただけだけど」

リーズが言い終わらないうちに、エイミは部屋を飛び出した。

「もう一度見てくる!」

「待て、エイミ。俺も」

ジークがバタバタと後を追いかけて行く。


「……エイミって、普段はウジウジ、ジメジメしてるくせに、子供のことになると急に肝っ玉母さんみたいになるわよね。いま、ジーク様に舌打ちしてなかった?」

リーズがつぶやくと、アルも頷いた。

「うん。ジーク様の妻としてはどうかと思うが、子供達の母親には適任だと僕も思う」

「ほんと面白い子だわ」

「……というか、リーズ。君も烏ちゃんの子供だということを忘れるなよ」

「え〜。ナットはともかく、私はもう大人だわ」

リーズの不満を無視して、アルはテキパキと森に入る準備を整えていく。

「烏ちゃんの推理があたって、この作業が無駄骨になるといいんだけどね」

アルは小さくぼやいた。この城をぐるりと囲む森には、狼が多く生息している。子供が何時間も無傷で過ごせるとは、到底思えなかった。















ほのぼの系のお話なので、ラブシーン的なのはさらっと流そうかと思ってますが……読みたいというご希望があれば番外編として書くかも知れないです! 希望の方はコメントでもください〜

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