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ジークの事情 その2

更新遅くなりました!

少し短め、ジーク目線です。

ジークはそのたくましい外見に似合わず、酒に弱い。そのため滅多に飲むことはないのだが……エイミを送り出した後、珍しくひとりで酒をあおった。はぁ、と大きなため息も出る。

ひとりで飲んでいても、鬱々とするばかりだ。アルでも誘おうかと思いついたところに、ちょうどよく扉の向こうからアルが声をかけてきた。


「ジーク様。入ってもいいですかね?」

ジークは扉を開けて、アルをまねきいれた。

「あぁ、ちょうどお前を呼ぼうかと思っていたところだ」

アルはテーブルの上の酒瓶とジークを見比べだ。大した量は飲んでいないようだが、結構酔いが回っているみたいだ。

「弱いんだから、無理しないでくださいね」

「お前は強いんだから、付き合え」

ジークはグラスになみなみと酒を注ぐとアルに手渡した。彼はけろりとした顔で、それを飲み干した。


テーブルを挟んで、ジークの対面にアルは腰をおろした。

「で、なんで烏ちゃん追い返したんですか? さすがに不憫で、この僕ですらちょっと心が痛みましたよ」

新婚初夜に部屋から追い出される花嫁なんて、聞いたこともない。ジークのことだから、またしょうもない理由なのだろうと思いながらアルは聞いた。

「同じ部屋で一晩過ごすのは……ちょっときついものがある」

ジークは両手で顔を覆って、天井を仰いだ。

アルははて?と、首を傾げた。ジークの言っていることがさっぱりわからない。

「えーと、あの黒髪はジーク様的にはありなんですよね? じゃ、身体が貧相だから?」

ジークが答えないので、アルは続けた。

「まぁ同じ男として気持ちはよーくわかりますけどね。烏ちゃんは貧乏庶民暮らしだったわけで、こればっかりは言っても仕方のないことかと。もうちょい太れば、胸の方もマシになるかもしれませんし、数年後に期待ってことで……」

「違う! エイミは魅力的だ。魅力的だから困ってるんだ」

アルの言葉に、ジークは大きく首を横に振った。

「じゃ、なんですか? いびきがうるさいとか寝相が悪いとか?」

「違う! いや、まぁ、寝相とかは知らないが」

アルはしびれを切らして、ドンとテーブルを叩いた。

「面倒くさい! はっきり言いましょう、はっきり」

「だからな……」

ジークは言いにくそうに口をもごもごさせている。アルはずいと身を乗り出して、語気を強めた。

「は・や・く、言え!」

「だから、その、ずっと部屋にいられたら……手を出したくなるだろう」

「…………ん?」

沈黙。ふたりの間を天使だか、妖精だかが通り過ぎて行った。

アルは頭を抱えた。ジークのことだから、しょうもない理由だろうとは思っていたが予想の斜め上をいくしょうもなさだった。

「出せばいいじゃないですか。ていうか、この場合出すのが礼儀ですよ」

「いや、もちろん普通の結婚ならそうだろうが……俺はエイミに子供達の母親になってくれと頼んだだけだ」

アルははぁ〜と、これみよがしなため息をジークに聞かせた。

「あのですね、きっかけはそうかも知れないですけど、烏ちゃんだって子供じゃないんだ。ていうか花嫁としては年増の部類じゃないすか。妻になることの意味くらい、理解してるでしょうよ」

むしろさっきの落ち込みぶりは、理解しているからこそだろう。アルはほんの少し、エイミに同情した。


「けど、エイミはひどく怯えていた。嫌がるようなことはしたくない」

アルはちっと舌打ちしそうになったが、かろうじて我慢した。

「いやいや、女性のそういう素振りはそれもまたマナーというか、様式美みたいなもんでして……」

「怯えるのがマナー?」

ジークは心底不思議そうな目で、アルを見る。

アルは心の中では『面倒見きれん』とぼやきつつも、結局ジークに事細かに説明してやった。

「つまり、可愛らしく見せようという計算。この言い方が世の女性に失礼ならば、男性へのサービス心と言い替えましょうか。なんだかんだ、女性は初心なほうが喜ぶ男は多いですからね」

「ほぅ……そういうものか」

「ま、烏ちゃんレベルでこういう駆け引きができるとは思えないですけどね」

アルはうっかり口を滑らせた。ジークは途端に落ち込んでしまう。

「……そうだよな。エイミはそんなことしない。と、なると、やはり単純に俺が嫌だったとしか」

「あ〜鬱陶しい! そりゃ、緊張とか恐怖とか、烏ちゃんにも色々あるでしょうよ。けど、そういうのを全部受け止めてやるのが夫の役目ってもんですよ」

ジークははっとして、顔をあげた。まじまじとアルを見つめる。

「たしかに、その通りだ。アルは格好いいな。お前のような男が夫だったら、エイミも幸せだったろうに」

自分のような未熟者が夫でいいのだろうかと、ジークはまた頭を抱えてしまった。

「……んじゃ、僕が烏ちゃんをもらってあげましょうか? いまからでも、彼女の部屋に言ってそう伝えますよ」

アルがそう言って立ち上がると、ジークは必死の形相でアルを止めた。

「いや、ダメだ。エイミは譲れん。エイミは俺よりアルの方がいいかも知れんが……俺にはエイミしかいない。エイミじゃないとダメだ」

なぜ、熱烈な愛の告白を自分が聞いてやらねばならないのだろうか。解せないと、アルは肩をすくめた。

「じゃ、それをきちんと本人に伝えたらいいじゃないですか。母親役じゃなくて、妻として必要だって」

「その通りだ。アルは格好いいうえに、賢い。完璧じゃないか。……俺はエイミのところに行ってくる」

ジークはくるりと踵を返すと、ものすごいスピードで部屋を出て行ってしまった。


「……いてて。ほんとに馬鹿力なんだから」

アルはジークの指の跡がくっきりと残っている腕をさすった。

そして、窓の外に目を向ける。空はすっかり白み始めていた。

「……行ってくるって、こんな明け方に? ま、あの様子だと烏ちゃんも起きてるか」

アルはふわぁと大きな欠伸をした。

「ほんと、あのふたりには付き合いきれないよなー。大体、僕の方がいいのかもって、ジーク様はどこに目をつけてるんだ? 烏ちゃん、いつだって僕のことなんか素通りで、ジーク様しか見ていないじゃないか」

素直で、駆け引きなんてできない、似たもの同士のふたりだ。好意の矢印なんて、当人達以外には丸わかりだった。あのふたりの行く末は、どう転がってもハッピーエンドだろう。

「馬鹿馬鹿しい。さっさと寝よ」

アルはぽつりとこぼすと、ジークの部屋を出て行った。












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