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命短し、恋せよ人魚  作者: ますみ
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第二章 命短し、恋せよ転校生

第二章 命短し、恋せよ転校生


「まず、私が学校とやらで気をつけなければいけないのは、水には絶対触らないことですわね。すぐバレてしまいますもの」

「……あぁ、そうだな」

「一応、魔女と一緒に人間界のことは勉強したつもりですけれど、まさきが昨日飲ませようとしたこうひぃみたいに、まだまだ知らないことがいっぱいですの。助けてくださいね」

「……善処する」

「それから、私の基本的な食事についてですが……」

「なぁ⁉︎ そんなことより言いたいことが山ほどあるんだが!」


出来れば昨日の出来事は全て夢で、また普通の毎日が帰ってこないかなぁなんて期待もむなしく、次の日の早朝セリアは俺の家にやって来た。


しかもなぜか俺んちの風呂に水をためて、気持ち良さそうに浸かっている。

ちなみに服は着たままだ。……残念だとか、そんなことは思っていない。断じて!


「なんで俺の家で風呂浸かってんだよ! 自分の部屋にもあるんだろ⁉︎」

「だって、今日から学校に行けると思うと……緊張してしまって話し相手が欲しくなるんですの。それに、やっぱり定期的に尻尾に戻りたくなるのが人魚心ってものですわ」

「知らねぇよ人魚心なんて!」


湯船に浮かぶ、コイツの銀色の尻尾を見るたびに思い知らされてしまう。

嗚呼、これは夢なんかじゃなかったんだなぁと。


「本当に俺の高校に来るんだな……」

「えぇ。しかもまさきと同じクラスですわっ」


ニコ! とでも効果音がつきそうな笑顔で笑うセリアだが、俺は知っている。

きっと、あらゆる手段を使って高校転入を果たしたんだ、コイツは。 

マジで恐ろしい。


「じゃあ、俺先行ってるからな。道は知ってんだろ?」

「え! 一緒に入らないんですの⁉︎ 私、まさきをシモベに出来たらやりたいことベスト5に入ってたことが「一緒に水に浸かる」ですのに」

「なんだよそのランキング! 嫌に決まってんだろ! じゃあな!」


朝から、まるでフルマラソン完走後のように疲れ果ててしまった俺は、セリアを置いて家を出た。

これからの高校生活のことを考えると、頭が痛くてしょうがない。


(頼むから、学校では大人しくしててくれねぇかなアイツ)


まぁ皆さんの予想通り、この願いはあっけなく砕け散ることになるのですけど。


私立海風高校。その名の通り海から近い場所にある高校だ。

ロケーションに恵まれていることもあって、たまにドラマの撮影に使われることもあるのが唯一の自慢だったりする。


ちなみに制服だが、男子は爽やかな白シャツに赤いチェックのズボン。女子はこのシャツに、チェックのリボンとスカートだ。冬はこれがブレザーに変わる。


高校三年生である俺は、この高校とももうすぐオサラバだ。セリアに言われた通り、恋愛も青春もしてこなかった俺にとっては、なんの未練もない。


今日も今日とて、自分のクラスである3年1組へと足を踏み入れる。

クラスでの俺の立ち位置は、目立ちもしないし浮いてもいない。友人は、小学生の頃からの付き合いのヤツが二人。

つまり、幼なじみってヤツだ。


「あ! まさきおはよう! 今日はいつもより遅かったね」


いつものように、俺の幼なじみその1が話しかけて来た。

彼女の名前は星野優。絵に描いたような優等生で、今時珍しい三つ編みスタイル。

この髪型は小さい頃から変わっていない。おまけに身長も、小学生の時からあまり変わっていない。

俺の半分くらいの高さしかないのだ。


「はよ。色々あってな」

「え? なぁに色々って」

「別になんでもねぇよ」


いくら幼なじみであろうと、昨日人魚のシモベにされたんだ! なんて口が裂けても言えやしない。頭がおかしくなったと思われること確実だからだ。


「それはそうとさ、お前……。また口になんかついてるぞ」

「ふぇ?」

 

優の口の端にはご飯粒がついていた。

コイツはしっかりしてるようで、ちょっと抜けてるとこがある。


「ほら、ここだよ」

 

ワタワタしている優のかわりに取ってやると、まるでユデダコみたいに真っ赤になった。


「うぅ、恥ずかしい。朝からごめんね」

「バーカ。いつものことだろ」

「いつもじゃないもん! そんなこと言うと、今日のお弁当あげないからね!」


 一人暮らしをスタートさせた頃から、優は毎日俺の弁当まで一緒に作ってくれている。お節介焼きだが、こういうところは感謝している。


「今日のメニューは?」

「え? えっとねぇ、卵焼きでしょ、肉団子でしょ、鮭の塩焼きでしょ! デザートはね、今日はリンゴをたくさん詰めたんだぁ」

「いいな、僕もぜひ食べたい。おはよう、まさき、優」

「はよ、メガネ」

 

優との会話に入り込んで来たコイツは、俺の幼ななじみ・その2の上杉翔。

デカイ黒ブチのメガネをかけているせいで、あだ名は昔からずっとメガネ。

それ以上紹介することは別にない。ちなみにメガネをかけているが、別に頭が良いキャラでもない。

あ。ただひとつコイツに関して不思議なのが、優と同じくらいの付き合いのはずなのにメガネと共に写っている写真が一枚もないことだ。

どうやら写真嫌いらしい。魂が抜かれるから嫌だとかなんとかわけわかんねぇことを言っている。

これだけで、コイツがいかに謎キャラなのかお分かりいただけるであろう。


「まさき。たまには僕のこと、翔と呼んでくれてもいいじゃないか」

「嫌だっつーの気持ちわりぃ」

「あははっ! 確かに、メガネは翔って名前の感じしないもんね! メガネって感じしかしない」

「優……。それは何気に一番傷つく」

 

昔は家が近いこともあって、俺らは三人でよく遊んでいた。

今は俺だけ家を出てしまったが、こうして同じクラスになれたことは腐れ縁というかなんというか。


「ん? まさき。お前眼目の下にクマができているぞ。昨日眠れなかったのか?」

「本当だ! 大きなクマさん!」

「……まぁ、色々あってな」

「あ! まさき私たちに隠し事してるでしょう!」


優がクリクリした目を近づけて来る。

コイツは小さい頃から、とても澄んだキレイな瞳をしている。きっと純粋なんだろう。

そして俺のことをよく気にかけてくれるおかげで、隠し事をしてもすぐバレてしまうのだ。


「ダメでしょ! 私たち幼なじみには隠し事は禁止だよっ」

「そんなルールねぇよ!」

「そうだよまさきー。隠し事は禁止だよー」

「メガネ……。淡々とした声で優の口真似すんじゃねぇ。気持ちが悪い」


相談したいのは山々だが、上手に説明できる自信がない。

と言うか、バカ正直に説明したところで頭がおかしいと思われて終わりだ。

と、その時。

タイミングよく、ホームルーム開始を告げるチャイムが響き渡った。


「ホラ。とっとと自分の席につけよ」

「御意」

「もう。すぐはぐらかすんだから。……ねえまさき」

 

席へと向かいかけていた優が、くるりとこちらを振り向いた。

小さな三つ編みがぴょこんと揺れる。


「本当に、何かあるんだったら相談してよね? 心配なんだから。はい」

 

ピンク色のハンカチで包まれた、弁当箱を手渡される。

優は、本当におせっかいで人が良い。


「……あいよ」

 

だからって、言えるかっつーの。人魚が家に来たんだーなんて。


いつも通りのつまらないホームルームが一変したのは、我がクラスの担任の放った言葉がきっかけだった。


「では最後に、今日からこのクラスに転校生が来ることになりました。喜べ男子。来たのは女子だ」


 男子生徒の、野太い奇声が響き渡る。


(来やがった……)


アイツ、本当にこのクラスに乗り込んで来やがった。


(本当に大丈夫なのかよ……)


あんなキャラのまま登場したら、クラスで浮くこと確実だ。

あんなキャラの濃ゆい女子高生、少なくとも日本にはいない。


(まぁ、でも……ある程度勉強して来たって言ってたから大丈夫か……)


「ごきげんようですわ人間界の皆様!」

(おいふざけんなぁぁぁぁぁ!)

 

真新しい制服を身につけて、セリアは颯爽とクラスへと入場して来た。


(アイツそのままのキャラ来やがったぞ! 何考えてんだよ!)


案の定、クラスの全員があっけにとられている。


「え、えーっと。とりあえず自己紹介してくれるか」

 

我が担任までもが困惑しているようだ。当たり前だ。

俺が担任だったとしたら、こんな電波女絶対関わりたくない。


「わかりましたわ。皆様、お初にお目にかかります。わたくし、セリアと申しますわ。今日からこのクラスの一員にならせていただきます。どうぞよろしくですわ」

 

サラリと、金色の髪をかきあげながらセリアは笑った。

そして、一番前の席に座っていた俺と目が合うと――。

むかつくほどのドヤ顔でウィンクしやがった。


(なんのウィンクだよ!)

 

アイツの頭の中では、全てがうまくいってるんだろう。なんておめでたい奴なんだ。


「あー、悪いがセリア。フルネームでお願いできるか?」

「……フルネーム?」

 

担任の言葉に、セリアは頭を傾げている。


(これはマズいんじゃないか……!)


きっと、奴の住む人魚の国には(苗字)に当たるものが存在しないんだろう。

これはヤバい。ほっといたらアイツ、何を言い出すかわからない。

そう思った俺は、思わず立ち上がって叫んでしまった。


「あ、あの! ソイツ俺の親戚なんすよ! だから苗字は朝倉! 朝倉セリアです!」

「えっ、違いますわよ」

(空気を読めよお願いだからぁぁぁぁぁぁ!)

 

何をキリッとした顔で否定してんだこのバカ人魚は! 


「違くないだろセリア! 俺とお前は親戚だよな!」

「何を言っているのです? まさき、あなたは私のシモ」

「親戚だよな!」

「だからシモベ」

「し・ん・せ・きだよなあぁぁぁぁぁ」

「し、親戚ですわぁぁぁぁぁ!」

 

俺、このままなんかの漫画のように手からビームでも出せるんじゃないか。

そんな形相で叫んでようやく、セリアは空気を読むということに成功した。


「ま、まさきの親戚の朝倉セリアと申します。どうぞよろしくですわ」

 

ようやく何とか誤魔化すことが出来た。

まるで戦場から帰って来た兵士のような顔で席に着いた俺のことを


「まさき? だ、大丈夫? 顔すごいよ!」


優が心配して、後ろの席から声をかけてくれている。

全然大丈夫じゃねぇ。これから先、毎日こんな感じが続くのか?

そう思ったら、寿命がゴリゴリなくなっていくような気がした。


「何だ、まさきの親戚だったのか。じゃあ、席はまさきの隣にするか」

「はい! わかりましたわ!」

(まじかよ!)


そしてどうやら逃げ場もない。

この先俺がもし急死とかしたら、犯人はコイツだ間違いない。

そんな俺の気持ちなんかつゆ知らず、馬鹿人魚は機嫌よく笑っていたのだった。


「ねぇセリアちゃん! すごく綺麗な金髪だね。ハーフなの?」

「よかったら校舎案内してあげるよ!」

「あっ! お前ずるいぞ! 俺だって案内出来るから!」

「俺も俺も!」


(バカ人魚がモテている……)

 

休み時間。セリアはクラスの奴らに囲まれていた。それもほぼ男子。 

あの言葉使いさえ目をつむれば、確かに奴は美少女転校生。

クラスの男子がお近づきになりたい気持ちも、わからんではない。


「ふわぁー! セリアちゃん、さっそくモテモテだねぇ」

「……あれだけ容姿がよければ、まぁ無理もないだろうな」

 

優とメガネが、さっそく俺のところへとやって来た。

休み時間は基本この三人でしゃべってはいるのだが、今日はそれだけの理由ではないだろう。


「で、まさき! 私、あんな可愛い親戚の子がいるなんて知らなかったよ!」

「僕もだ」


そう。きっとこっちが本命。

そりゃそうだ。俺らは古くからの幼なじみ。お互いの家庭環境なんかも知りつくしている。明らかに、二人にとってもセリアは謎の存在だ。


「は、はは。悪ぃ。なかなか紹介する時間がなかったんだよ」

「私、まさきのことなら何でも知ってるつもりでいたのになぁ」

 

優は、明らかに落ち込んでいるようだった。


「何だよ優。そんなにヘコむことじゃないだろ?」

 

眉をへの字に曲げる優をフォローしようとしていると……。


「何の話ですの? 私も混ぜてくださいですわ!」

 

男子に囲まれていたはずのセリアが乗り込んで来た。


「うわぁ! お前なんでこっちに来るんだよ!」

「だって、あの人達ピーチクパーチクうるさいんですもの」

 

セリアに鳥扱いされてしまった不憫な男子達は、皆一斉に硬直した。


「初めましてセリアさん。僕はまさきの幼なじみの、上杉翔です。あだ名はメガネ。好きな食べ物はするめイカ。以後お見知り置きを」


(何キャラなんだよメガネ……)


メガネがここぞとばかりにメガネを光らせて挨拶をしている。メガネのくせに。なんか興奮しているようだ。メガネのくせに。


「えぇ、まさきの幼なじみなら存じでおりますわ。なんて言ったって私は海の中から全てを見てきたのですから。でもおかしいですわね。私の記憶だと、あなたのような……」

「初めましてだよな! セリア!」

「な、何をするんですのまさき! この手を離しなさい!」

「初めましてだよな! コイツらと会うのは!」

 

なにがおもしろくてコイツはわざわざ自分から正体をバラすようなことをしているのだ本当バカ。

俺の言いたいことが伝わったんだろう。

突然俺に口を押さえられて、まるで暴れ牛のように暴れていたセリアはようやく大人しくなった。


「そ、そうでしたわね! 初めましてですわ」

「私も……初めまして! 星野優です。メガネと同じ、まさきの小さい頃からの幼なじみだよ。女同士仲良くしてね?」

 

さすが優等生の優。これが模範的な初対面での対応というやつだ。

しかし、なぜかセリアは優の差し出した手を取ろうとしない。


「あなた……嘘をついてますでしょう?」

「え?」

「優。あなたは私と仲良くなんて思っていないはずですわ」

「!」

「お、お前何を失礼なこと言ってんだよ! せっかく優が友達になろうって言ってくれてんのによ! ちょっと面貸せ!」


だめだ。コイツ一回ガツンと言ってやんねぇと調子乗りすぎだ。

俺は無理やりセリアの手を引き教室を飛び出した。


「な、何するんですのまさき!」

「うるせぇ! いいからちょっと来い!」


「……ねぇメガネ。私、そんな顔してたかなぁ?」

「いや、僕にはいつも通りの優に見えたが?」

「そう、だよねぇ。よかった」

「……」


「そりゃあ、まさきに迷惑をかけてしまったのは悪いと思っていますわよ? でも、夢に見た人間界に来れて嬉しかったんですもの」

「浮かれる気持ちはわからんでもない。でもよ! もう少し危機感持ってくれねぇと、お前人魚なの即バレだぞ!」


イン屋上。

俺に雷を落とされて、セリアはしおらしく正座している。


「とりあえず! 自分の言動にはくれぐれも気をつけること! いいな?」

「わかりましたわ。そんなことより!」

「そんなことよりじゃねぇよ! 全然わかってねぇじゃねぇかよ!」


数秒前のしおらしさはどこへやら。

セリアは屋上のフェンスへと駆け出して行く。


「お、おい! 気をつけろよ! あんまり身を乗り出すと危ねぇぞ」

「大丈夫ですわ。……これが人間界なのですわね」


グラウンドで動いている人間達。

爽やかに吹く夏の風。

揺れる木々。

きっと、その全てがコイツにとっては初めてのものなのだ。


「……私、ココに来れて本当によかった」


セリアの金色の髪が揺れている。

その横顔は、なぜだか寂しそうに見えた。


「何言ってんだよ。これからが大変なんだろ? その、恋の相手とやらを探さなきゃいけねぇんだし」

「……そうですわね。でも、私この学校に来てから思ったのですけれど」

「あ?」

「この人数から探すのって、すごく大変ですわよね」

「今さらかよ!」


学校に来ればなんとかなるとでも思っていたのだろうか。

どんだけお気楽なんだコイツは。


「魔女の力でも使えば一発だろ?」


イヤミったらしく言ってやる。

コイツに俺の大切なマイホームは人質にとられているのだから。


「だから最初に言ったでしょう! 自分の力で探すことが大切なのです!」

「またそれかよ……」

「それにほら、まさきに青春と恋愛をおしえてあげたいですし‥‥ってうあ!」

「なんだよ!」

「いいこと思いつきましたわ!」


――俺は知っている。

このバカが思いつくことは、きっとロクでもねぇということを。


「やっぱりロクでもなかった……」


昼休み。

俺はバカ人魚に屋上に呼び出された。(ちなみにコイツは授業中、全て爆睡して過ごしている)

しかも、呼び出されたのは俺だけではない。


「びっくりしたよぉ。いきなり手引っ張られて……。ねぇ、メガネ」

「あぁ。愛の告白でもされるのかと思った」

「ふふ。それはないでしょ絶対に」


そう。なぜか優とメガネまでセリアに連れて来られているのだ。


「何だよセリア。こいつらまで呼び出して」

「協力していただきたいんですわ!」

「はぁ?」

「お二人にも協力していただきたいんですの! 私の運命の人を探すのを!」


優とメガネは目が点になっている。

そりゃそうだろう。二人には、一体何の話をしているのかわからないのだから。


(いいことってこういうことかよ……)


つまり、自分の仲間を増やしたいのだコイツは。


「運命の人って、セリアちゃんの好きな人ってこと?」

「そうですわ! この学校にいるはずなんですけど、名前も顔も覚えていないんですの」

「まさか、君はその人を探すためにこの学校に転校して来たのか……?」


メガネがメガネを光らせながら呟いた。

さすがメガネ。頭は悪いが飲み込みが早い。


「そうですわネクラ!」

「メガネです」

「まさきに協力してもらって探す予定なのですけれど、人数は多い方がいいでしょう? だから、もしよかったら優とネクラにも協力していただきたんですの」

「メガネです」


確かに人数は多い方がいいに決まっている。

でも、コイツは優達に自分が人魚だということを隠し通せるのか……?


「おい、大丈夫なのかよ。こいつらにバレないようにしねぇといけないんだぞ」


優とメガネに聞こえないように囁いた。


「大丈夫ですわ。どんと大船に乗ったつもりでかまえていなさいですわ」

「何だよそれ、意味わかんねぇ」


しかし、優達に手伝ってもらうことは俺にもメリットがある。

早くコイツの探し人が見つかれば、俺もコイツからとっとと卒業できるのだから。


「すごいね! 好きな人を探すためにこの高校まで来るなんて……! 素敵!」


今まで静かにしていた優が、急に立ち上がった。

何だか目がキラキラしている。


「名前も顔もわからない中探すなんて、なんてロマンチックなの!」

「お、おい優。大丈夫か?」


しまった。優はこういうのに弱いのだ。

昔から、おとぎ話の王子様だの、アニメのヒーローなどに熱を上げていた。


「ぜひ協力させて! セリアちゃんの王子様探し!」

「もちろんですわ!」

優とセリアがお互い手を取り合っている。


「何だアレ」

「うむ。僕にもわからない」


完全に、俺とメガネは蚊帳の外という感じだ。

女同士、何かが通じあったのだろう。


「……しかし、何の手がかりもないんじゃ探しようがないんじゃないか」

「いいえネクラ! 手がかりはありますわ!」

「メガネです」

「彼は、オレンジ色のネックレスをつけていましたの。だからひとまず、オレンジ色のネックレスをつけている男子を探すのですわ!」

「オッケーセリアちゃん! 善は急げよね。さっそく今日の放課後から始めましょ!」

「うむ。さしずめ、セリアのドキドキ王子様探しの会だな」

「ノリノリじゃねぇかメガネ」


こうしてバカ人魚は初めての学校で、見事仲間を得ることに成功したのだった。


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