第一章 命短し、恋せよシモベ
第一章 命短し、恋せよシモベ
命短し、恋せよ乙女。
そんな歌詞の歌を歌っていたのは誰だったか。古い蓄音機から流れていたフレーズだったような気がするが、記憶は定かじゃない。
俺の予想だと、クラスの大半の女子がそんな気分なんだろう。休み時間になると、彼氏が出来ただの出来ないだの、アイツがカッコイイだのイケメンだの、そんな会話ばっかりだ。
そして当然のように俺、朝倉まさきの名前は聞こえてこない。そりゃそうだ。俺は自分の顔面偏差値を自覚している。たぶん十人並み。普通、平凡、漫画の世界だったらモブキャラか通行人の立ち位置だ。嗚呼、無情。
反抗期がピークの中坊の時は、我が母になぜもっとイケメンに生んでくれなかったんだと食ってかかった時期もあった。もちろん、自分のアホさ加減は自覚している。
そんな尖ったナイフみたいだった俺も、もう十八。諦めや理想と現実を知り、まるでお玉みたいになってしまった。つまり、丸くなったということだ。性格が。
夢や希望なんて別にない。とりあえず、この平凡でつまらない毎日が続いてくれればいいと思っているのだ。いや、違う。いたの、だ。
高校に入った俺は、諸事情により一人暮らしをしていた。
自由気ままなスクールライフというヤツだ。
今日も今日とて、いつものように授業を受け、いつものように帰宅し、今日は近くのスーパーでサンマが安かったから、買いに走るかと考えていた時だ。
部屋に鳴り響いた、来客を知らせる呼び出しチャイム。
そして、そいつは現れた。
「隣に引っ越して来たものですわ。挨拶をしに参りました」
「……は?」
てっきり新聞の勧誘か何かだと思って開けたドアの向こうには、金髪の美少女が立っていた。
夕日を受けてキラキラ輝く金色の髪は、肩までの長さで緩やかにカーブを描いている。
俺をしっかりと見つめる瞳は、爽やかな夏の海のように青く、綺麗だ。これが金髪碧眼というヤツか。
まるでフランス人形みてぇだな。
が。
そんなことよりも、真っ先にツッコミたい所が別にある。
(……ですわ?)
美少女の、奇妙な言葉使いだ。こんなセリフ、どこぞのアニメのお嬢様キャラくらいしか言わないだろう。
「あ、あの、外国の方ですかね?」
思わず聞いてみた。
「外国……? えぇ、まぁそうですわね。外国と言われれば外国ですわね」
「あぁ、やっぱり」
だとしたら、まだ納得ができる。きっとこの美少女は日本のアニメや漫画が大好きで、これが標準語なんだと思い込んでるんだろう。
まぁなんにせよ、俺には関係ないことだ。
「ご丁寧にありがとうございました。それじゃ」
そう言って、ドアを閉めようとした時だった。
「待ってくださいですわ! あなたにお願いがあるんですの」
「え?」
「私の……お友達になってくれないかしら?」
「……は?」
「あ、違うわごめんなさい。いきなり友達なんて失礼ですわよね」
「あ、あぁびっくりした」
会ってすぐに友達――なんて、これこそアニメや漫画の世界だ。
きっと、日本語を言い間違ったんだろう。そう思っていた俺は、次の瞬間美少女を前に叫び散らすことになる。
「私のシモベになってくれないかしら?」
「は……」
「あなたは、私のシモベになるにふさわしい人間なんですの。私はセリア。よろしくですわ」
「はぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
この可愛い顔をしている女は、どうやら頭の中まで可愛い可愛いお花畑のようだ。
俺は女が差し出してきた右手を無視して、勢いよく扉を閉めた。
「ち、ちょっと! 人の話は最後まで聞かないと失礼ですわよ!」
「初対面の人間にシモベになれって言うヤツのほうが失礼だろ!」
「いいからちょっと、このドア開けていただけないかしら!」
確かに俺は平凡な人間だ。そのことは自覚している。
が、見ず知らずの人間にシモベ扱いされるほどの人間ではないはずだ!
金髪美少女は、俺が怒りに任せて閉めたドアをバコンバコン叩いて抗議している。
(なんだよコイツ、頭おかしいんじゃねぇの)
いくら可愛い顔をしていようとも、話が通じないのでは意味がない。
「なぁ! いい加減にしないと警察呼ぶぞ!」
「……」
「ん?」
急に静かになった。諦めてくれたのだろうか。
恐る恐るドアを開けた、その瞬間。
「お願いいいいい! 話を聞いてええええ!」
「うおぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
まるでホラー映画のように扉に入り込んで来た美少女に、俺の寿命は縮まった。
「お前なんなんだよ怖すぎるだろ!」
「お願いいいいいい! 五分だけでいいからぁぁぁぁ」
「わ、わかったから! わかったからその顔やめて!」
――いくら凶悪なストーカーだって、こんな手段は使わない
これ以上寿命を縮ませるわけにもいかず、俺は観念して美少女の話を聞いてあげることにしたのだった。
そしてこの日をきっかけに……俺の平凡な毎日は崩壊することになる。
「……あーまじで怖かった。絶対夢に出るわアレ」
アレとは、俺の目の前に座っているこの女のことだ。
「……もう忘れていただきたいのですけれど。それほど必死だったですわ!」
長い金髪を振り乱し、目は真っ赤に血走っていて、俺がホラー映画の監督だったら思わずスカウトするレベルだった。
結局俺は、この怪しさマックスの女を家の中に招き入れた。
もちろん、下心があるとか、甘い展開を期待しているとか、そういうことではない。断じてない。理由は簡単。
こんな女と話をしている所を見られたら、俺まで不審者扱いされると思ったからだ。
「とりあえず、ホラ。コーヒーでも飲めよ」
落ち着いて話をしようと淹れたコーヒーに、なぜか女は手をつけない。
「……」
「なんだよ。嫌いなのか?」
「これは何かしら?」
「は? だからコーヒーだってば」
「こぅひぃ? この色……イカの墨か何か?」
「何言ってんのお前」
しかし、女の顔は冗談を言っているようには見えない。大きな瞳をクリクリさせて、コーヒーを不思議そうに眺めている。
「まさか、お前の国にはなかったのか?」
「えぇ。初めて見ましたわ」
「まじかよ! そんな国があるんだな。とりあえず飲んでみろよ。気にいるかもしれないだろ?」
俺がそう促すと、女はカップを恐る恐る口に近づけ……そして。
「いただきますわまずぅえ」
吐いた。
「お、お前!」
俺のお気に入りだった真っ白のカーペットが、どんどん漆黒に染まっていく。
「なんですのこれは! 毒! 毒なのね⁉︎」
「そういう味なんだよ‼︎ ああ! 俺のカーペットが……」
ガキの頃から貯めてたお年玉貯金で、ちょっと奮発して買ったんだっけ。
「あら、汚れてしまいましたのね? ごめんなさい、弁償しますわ」
「何言ってんだよ、コレ高かったんだぞ? お前なんかに弁償できるはず」
「これで足りるかしら?」
「は」
そう言って女が取り出した現金は、俺の小遣い一年分ほどの金額だった。
「え……? お前んち金持ちなの? ていうか、お前何者?」
まさかこいつは、本当にどこかの国のお姫様だったりするのだろうか?
そうだったらヤバい。俺、プリンセス閉め出したわ。
とりあえず俺も落ち着こうと、自分の分のコーヒーを口に含んだ。そして。
「私はセリア。歳は十八。これでも人魚なんですわ」
「ブフゥ!」
吐いた。
俺のお気に入りだった真っ白のカーペットは、立派なホルスタイン柄へ変化した。
さようなら。君のことは忘れない。
「何……? 何だって? 人魚?」
「そう、人魚ですの」
この女は、女芸人でも目指しているのだろうか?
そして、俺はさっきからコントでも見せられているのだろうか。
「あのなぁ。いきなり現れて、人魚ですって言われてさぁ。はいそうですかってなるわけないだろ?」
「だったら、どうしたら信用してくれますの」
「そ、そうだな。仮にお前が本当の人魚だとしたら……。魚の足とか見せてみろよ」
「いいですわ」
「えっ、即答?」
「このお部屋にお水はあります?」
「え……、水だったらここに……」
俺は、置きっぱなしにしていたペットボトルの水を女に差し出した。
「さぁ、とくとご覧あれですわ」
――冗談抜きで、自分の呼吸が止まってしまったかと思った。
俺が手渡した水を、女は頭からかぶった。無数の水滴が、彼女の金色の髪や白いワンピースを湿らせていく。
水滴は、そのまま彼女の体を下へ下へ移動し、そして白い足に差し掛かった時――。
「……なんだ、これ」
俺は目を奪われてしまった。彼女の細長い足が、銀色のウロコを持つ魚の尻尾へと進化していったのだ。
人は、自分の想定外のことがおきると言葉が出なくなるということは本当だった。現に、今俺はバカみたいに口を開けている。
放心状態というヤツだ。
「これで少しは信用してくれる気になってくれたかしら」
「…‥っ」
金髪少女……セリアは、本当に正真正銘の人魚だったのだ。
「私たち人魚は、普段人間には見つからないように暮らしているんですの」
「じ、じゃあ何でここに?」
俺の問いに、セリアは待ってましたとばかりに目を輝かせて言った。
「私、恋をしたんですわ!」
「はっ? 恋?」
「えぇ、そうですの! 自分とは違う種族……、人間に恋をしてしまったんですの!」
(こ、こんな漫画みたいなこと本当にあるのかよ)
しかも、人魚が人間に恋をするなんて、まんまどこぞの絵本の話じゃないか。
(夢じゃねえよな)
そう思って頬をつねってみた。普通に痛い。残念ながら現実のようだ。
「はぁ。やっぱり地上でこの姿は辛いですわ。もう戻ってもいいかしら」
「ど、どうぞ……」
「ふぅ」
セリアが目をつむり深呼吸すると、銀色の尻尾は瞬く間に人間の生足へと変化した。どうやら、尻尾に戻るのは水が必要だが、人間の足になるのは気合いでどうにかなるらしい。
「便利な足だな……」
「あぁ、コレは海の魔女が魔法をかけてくれたんですわ。素敵な足でしょう? 水がかかると人魚の尻尾に戻ってしまうところだけが難点ですけれど」
ウットリと自分の足を眺めるコイツは、どっからどうみてもヤベェ奴だ。
「この白さこの細さ……ずっと憧れてた生足そのものですわ」
「変態かよお前……。つーか、それで何で俺のトコに来てんの? まさか恋の相手が俺ってワケでもねぇんだろ?」
「ええ」
「即答かよ」
ますますワケがわからない。じゃあ何故コイツは今ここにいるのだ。だんだん頭が混乱して来た。
「じゃあ、とっととそいつのトコに行けばいいだろ。何でここにいるんだよ」
「……えっと、わからないんですの」
「は?」
「だから、わからないんですの! その恋の相手が!」
「はぁぁ? 俺だってその説明じゃわっかんねえよ! どういうことだよ!」
「気になります? 気になりますわよね! では、とくとお聞きくださいですわ! 私と彼の衝撃的な出会い!」
「あ……」
しまった。またコイツのペースに乗せられた。そう思った時はもう遅かった。
(俺……今日厄日じゃね?)
「あれは……そう、三年ほど前のこと。私はいつものように海から顔を出して、人間界を眺めていたんですわ」
「えっ、ちょっと待てよ。海ってどこの海だよ?」
「そこの海に決まってますわ」
セリアが指差したのは、この部屋の窓から見える海。
そう。俺のアパートは、海から徒歩十分の場所にある。
「まじかよ! あの海人魚住んでんのかよ!」
「わりとどこの海にもいますわよ」
「そんなコンビニみたいな感覚で言うな」
何だか夢が壊れたような気分だ。もちろん、人魚を信じてたワケじゃない。だけど、まさか俺の日常のすぐ近くに、非日常があるなんて思わなかった。
「人魚はみんな、人間界に憧れているんですわ。だけど、本当は人間との接触は禁じられているんですの。だけど、私はどうしても諦められなくて……。誰にも見つからないように、毎日海から地上を眺めていましたわ」
「そんなにいいもんじゃねえよ、人間なんて」
「それは、あなたが人間だから言えるんですわ」
「そりゃそうだけど……。でもな、人間だってキレイなトコばっかりじゃない。醜い争いだって」
「そんな時でした」
「聞けよ」
何でコイツ人の話全然聞かねえんだ。もしかして、人魚はみんなこんなんなのか。
「あろうことか私、海の中で尻尾を挫いてしまいましたの」
「本当にあろうことかだなおい!」
何だよ尻尾を挫くって! そもそも挫くもんなのかよ尻尾って!
思わず心の中でつっこみを入れてしまう。
「私はそのまま溺れてしまったのですわ」
「人魚なのにか」
「人魚なのにですわ。海の波は私の体をいとも簡単にさらってしまって……か弱い私になすすべはありませんでした」
「人魚なのにか」
「人魚なのにですわ」
わかった。さっきの言葉は訂正だ。きっと人魚がみんなこんな感じなんじゃない。コイツがバカなだけだ。
「そんな時に助けてくれたのが、人間の男の人だったのですわ。どうやら私は意識が朦朧としていたようで、その時の記憶がないために顔は覚えていませんけれど」
「そんなんじゃ探しようがねぇじゃん」
「でも、一つだけ手がかりがありますの!」
「うわぁ!」
セリアが急に顔を近づけて来たもんだから、思わず心臓が音を立てた。ムカつくことに、コイツ顔だけはいいのだ顔だけは。
「な、何だよ手がかりって」
「その男の人のことで、覚えていることが一つだけありますの。彼はオレンジ色のネックレスをしていたんですわ」
「そ、それだけかよ!」
オレンジ色のネックレスなんて、誰がつけていてもおかしくはないものだ。手がかりとしてはあまりにも頼りなさすぎる。
「どんな形だったかとか、覚えてねぇのかよ?」
「ええ、残念ながら。でも、一つわかっていることはあるんですわ」
「何だよ」
「その男の人は……。今は、海風高校の三年生ということ」
「……何だって?」
海風高校。聞き覚えありまくりだ。
その高校は、俺の住んでるアパートから徒歩二十分の場所にある。
しかも、俺の通学している高校なのだ。
「同じ高校で、しかも同い年かよ! てゆーか、よくそこまでわかったな!」
「海の魔女が占いで教えてくれたんですの」
「チート! てゆうか、もう海の魔女に全部やらせりゃいいじゃん!」
「それじゃ、恋愛の醍醐味を味わうことは出来ませんもの」
「醍醐味?」
「ええ」
セリアの青い瞳は、まるで宝石みたいにキラキラしている。死んだような眼をして、毎日死んだように生きている俺とは大違いだ。
「俺にはわからんね。恋愛とか、青春とか」
「……それはもったいないですわよ。あなたもまだ十八なんでしょう?」
「……つーか、その人間探しと、俺がお前のシモベになることに何の繋がりがあるんだよ」
俺がそう尋ねると、セリアは意を決したように立ち上がった。
体が少しふらついている。まだ人間の足には慣れきっていないようだ。
そこまでして、よく知りもしない奴と恋愛をしたいと言うコイツの気持ちは理解出来ない。
「私の恋愛に、協力してもらう人間を探していましたの。そしたら、あなたが一番あの海からも近くて、そしてあの学校からも近かった。最初は交通の便が一番いいから選んだのですけど……」
「こ、交通の便……」
「でも、魔女の力であなたのことを知れば知るほど、ぜひ協力をして差し上げたいと思うようになりましたの!」
「は? 協力? 何の?」
「あなたに恋愛と、そして青春を教えて差し上げるのですわ!」
「……は?」
意味がわからない。もう一度言う。意味がわからない。なぜそうなってしまうのか。そして、なぜセリアはこんなにドヤ顔をして俺に人差し指を突きつけているのか。
「明日から私もあの高校に通うことになりますの。だから、あなたは私のシモベとして協力なさい。そのかわり、私があなたの恋と青春をサポートしてあげます。これでウィンウィンの関係ですわよね」
「いや、全然ウィンウィンじゃねえよ! 俺はそんなこと望んでねぇ!」
「そうかしら?」
「……」
セリアの体がぐんと近づいた。かすかに潮の匂いがする。
「僭越ながら、しばらくあなたの生活を見させていただきましたわ。もちろん、海の中からですけれど。あなたは今、恋愛や青春にわざと踏み込もうとしていない。そうでしょう?」
まさに、図星だ。
それもそうか。コイツはきっと、例の魔女の力か何かで俺の毎日をのぞいてたんだ。
平凡で平坦で、つまらない毎日。
でもそれは、俺がわざとそうさせていたからだ。
「……めんどくせぇだろ、誰が好きとか、嫌いとか。青春とか何か知らねぇけど、そういう臭いモンももう二度とゴメンだ」
「二度と、ということは……前は感じていたのでしょう?」
「……」
確かにまだガキだった頃は、そんな青春ってのを感じていた時もあった。
いや、誰が好きとか嫌いとか……そういう恋愛系は全く持ってわかんねぇ。だけど、何かにバカみたいに夢中になってたことは確かにある。
「やりましょうよ! 私と一緒に、恋と青春を探すんですわ!」
だから、私のシモベになりなさい!
そう言って、お騒がせ人魚は右手を差し出した。
「嫌なこった!」
「あぁ、ちなみにもし、万が一、拒否をするつもりなら……。このアパート、破壊させていただきますわ」
「拒否権ねぇじゃねえかよ!」
何てこった。こんなの、凶悪なヤクザと一緒じゃないか。デッドオアアライブだ。
「心配は無用ですわ! 魔女から少し魔力を分けてもらっていますから、大抵のことは可能ですの。人間界で必須のお金も……ほら」
セリアが右手の指をパチンと鳴らすと、テーブルの上に札束が現れた。
「うわぁ……」
もうここまで来ると、驚く以前に引いてしまう。
「まさか、ここのアパートに引っ越して来れたのも……」
「ええ。これで何とかなりましたわ」
どう何とかなったのかなんて、知りたくもない。つまりコイツは、本当に俺の住処を破壊出来るだけの魔力を持っているということになるのだ。
「本当に拒否権ねぇじゃねぇかよ……」
自分が選んで歩いて来た、平凡でつまらない毎日。
それが、まさか海からやって来たコイツに奪われることになるなんて。
「……わかったよ。協力してやる」
「やったぁですわ!」
「ただし! お前の言う、その俺の恋だの青春だのの協力はいらねぇから!」
「え? 何か言いまして?」
「何でもありません。ぜひ協力してください。だから、その右手の指を鳴らそうとするのはおやめください」
「ふふ。では、これからよろしくお願いしますわ。私のシモベ……えっと、名前は?」
「朝倉まさき、だ」
「まさき……、いい名前ですわ。では、まさやんとでも」
「まさきでいい!」
セリアの右手を力強く掴む。
契約の握手ですわね、とセリアは笑った。
こうして俺は今日から、この人魚の恋路を応援するシモベになったのだった。
さようなら、平凡だったけど平穏だった毎日よ。