始 2
それからしばらくして目的地の港に着き、高校生たちはゾロゾロと船から降りるので僕もその後ろについて降り立つ。
おぉ……とか普通だったら感動のようなものを味わえるのかもしれない。でもそんな余裕ないので、船を繋ぎ止める時に使用するビットに座って気分を落ち着かせる。
揺れてないのにまだ揺れてるような感覚がある。ただ騒いでる声とかは聞こえないからマジで地震が起きているとかではないみたいだ。
「あの、大丈夫?」
声を掛けられ、ゆっくりと上を向く。みんなと同じ高校の制服を着た女の子が心配そうな顔で僕を見ていた。
「もしかして、船酔い?」
「うん……実は酔い止めを忘れちゃって」
「そうなんだ……あ、私持ってるよ酔い止め! ちょっと待ってね」
女生徒は持っていたバッグの中をガサゴソと漁り、酔い止めを探す。腫れ物には触らないって考えの人間が多いのにこんな風にしてくれるなんて……絶滅危惧種みたいなものだ。
「あった!」
そう言って女の子はゲームで重要アイテムを手に入れた主人公のように酔い止めの箱を握りしめ、天に掲げる。
だが掲げた時の勢いが強かったせいか、酔い止めの箱は手をすっぽ抜け、そのまま綺麗な弧を描いて生命のスープとも言える広い海に落ちた。
いや、うそやん?
「あぁ! 酔い止めがっ!!」
「わ、ちょいちょい!」
止めなければそのまま海に飛び込んでしまいそうな女の子の服を掴んで無理やり止める。一瞬だけど、焦りで酔いが消えたよ完全に。
「ごめんね、私のドジのせいだよね」
「あぁいや……気にしないで」
最近のドジって概念はすごいなぁ、って思う。家の鍵とかを天に掲げて今みたいなの起きたらそれこそドジじゃ済まないよね。
「えっと酔いは大丈夫?」
「まぁ少し落ち着けばね、幸い今は陸地だし」
「そっか、でも大丈夫? このまま徒歩だと学校に向かうのに時間かかるから、バスに乗って移動するってさっき船内アナウンスで言ってたよ?」
嘘だろう。そう言った希望的な考えを持ちつつ、港を見渡すと何台ものマイクロバスが待ち構えていた。なんなら既に他の生徒はそのバスに乗り始めている。
「バス、前の方に座らせてもらうように、私頼んでくるね?」
女の子は胸をポンと叩き、私に任せろ! というくらいの顔で走ってバスの方に向かう。
だけどここからマイクロバスの距離まで100m歩くか歩かないかくらいなのに、3回も転ぶってのはちょっとした才能なのかもしれない。
でも無事に女の子は話を通してくれたみたいで、僕は捕らえられた宇宙人の写真みたいに先生たちに連れられ、バスに乗り込み、学校へ向けて動き出した。
……名前、聞くの忘れた。ドジで酔い止めを海に投げたとはいえ、ここまで良くしてくれたのに。
まぁ、いずれまた会えるか。同じ船ってことは同じなわけだし。




