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イセカイノベル  作者: Rerona
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■ 0 0 5 ■

 俺とミアは、町を出て、とある洞窟へ向かっていた。

 町の住人の中に、嗅覚が鋭くなるという警察犬的な魔法を使うおじさんがいたので、『神の篇帙』の匂いをたどり、犯人の居場所を特定することができた。

 それと、この世界に来てからずっと裸足だったので、町の人に靴をもらった──これは大きな成果だ!

 町を出るとき、レバルムさんには止められると思ったけど、

「お待ちしております」

 と、一言だけ告げて、俺たちを見送ってくれた。

「レバルムは家の執事です。私が生まれた時からずっと一緒で、私がやると決めたことは、いつも反対せずに見守ってくれます」

 ミアを信頼してるからこその、あの言葉か。

「それで、犯人にアテがありそうだったけど」

 ミアが血相を変えたキーワード──『花に刃物が刺さったような刺青』。

 それに心当たりがあるから、彼女は飛び出したんだと思う。

「はい。犯人はおそらく、千刃教会(せんじんきょうかい)のメンバーです」

 千刃教会?

 確かに、犯人のひとりが祭服を着ていたという情報があるから、教祖かもしれないと思っていたけど、他の二人──迷彩服を来た教徒がいるものかと、その可能性は捨てていたのだけれど。

 しかし、本当に宗教団体だとすれば、今回の事件は、もうテロに近い。

 他の宗教を弾圧するための行いだとしてもおかしくないだろう。

「いえ、他の宗教の弾圧というよりは、ただ、己の目的のための行いだという方が正しいと思います。千刃教会は、そういう組織です──その行動理念、なにを正義としているかはわかりませんが、世界各地で、その裏で暗躍してるようです。主に、盗むことで」

「宗教というより、もはや盗賊集団だと思った方がいいのか…奴らは完全に敵っていう認識でいいんだな?」

「はい。なんのために盗みを働いているかはわかりませんが、何かを盗む、そしてそのために人々に危害を加えていることは間違いありません」

 だったら多少強引に行くくらいが丁度いいかも知れない。

 無論、奪還の手立ては慎重に考えないといけないけれど──と。

 洞窟の入り口が見えてきたところで、その洞窟の中から三人が出てきた。

 黒い祭服に、迷彩服が二人。

 まさしくそれは、俺たちが追っていた犯人だった。

 やばい──鉢合わせ。

 完全に予定外。

 どうする。

 焦ってる、頭が混乱してる。

 考えろ──考えろ考えろ考えろ。

 あたふたしてるうちに、ミアは弓を開いて、いつでも戦えるという体勢になっていた。

 なんでそんな戦慣れしてるんだ。

 対する盗賊集団は、構えるでもなく、棒立ちでこちらを見ていた。

「あー」

 と、迷彩服の片割れが口を開いた。

「グラボさん、これどうする?やっちゃう?」

「いや、ジグ兄さん、あいつら、これの鍵持ってるかもしれないよ」

 迷彩服のもう片方が言う。

 その手に持っているのは、広辞苑のような大きさの分厚い書物だった。

 その外側にはチェーンが巻かれており、鍵がかかっている。

 あれが『神の篇帙』か。

「ふむ…そうですね。しかし、『神の篇帙』の鍵を解く術は、いずれ我々の力で見つけることができるでしょうから、ジグ、ザグ、ここは逃げるとしましょう」

 黒い祭服の男──グラボが言う。

 迷彩服の名前はジグとザグ──兄弟か。

「りょーかい。じゃあほどほどにしてさっさとトンズラこくか。とりあえず、俺の『爆弾魔(ボマー)』の威力を思い知れや」

 ぽいっ──と、ジグが俺たちの足元に何かを投げた。

 何かというより、それは明らかに爆弾だった。

 そうか、アメリアさん宅のドアを爆破したのはこいつの魔法か。

 死ぬ?

「うおおおおおあああ!」

 思いきりジャンプからの思いきりダイビング──さながらモンスターハンターの緊急回避だ。

 緊急回避したところでこの距離じゃ無傷では済まないだろうなあ。

 しかし。

 突っ伏してビクビクしていても、一向に爆発する気配がない。

 あれ?

 不発ですか?

 地面に這いつくばったまま恐る恐る振り返ると、地面に転がっている爆弾は、ぷしゅ〜、と音を立てて、白い煙を吐き出した。

 スモークグレネードかよ!

 まんまと引っかかった──まずいな、逃げられてしまう。

 すばやく起き上がろうとした矢先、横から凄まじい風切り音が鳴った。

 ミアの弓から放たれた矢が煙を切り裂く──威力が半端じゃない、想像以上すぎる。

 晴れた煙からジグとザグの姿が見えた。

 グラボがいない──逃げ足の早いやつだ。

 だが、『神の篇帙』を持っているのはザグだし、敵が減ったのは好都合だ。

「次は当てます」

 ミアがもう一度弓を引く。

「え、当てたら殺しちゃうんじゃ」

「大丈夫です、アルテミスは命を奪いません」

 一閃。

 放たれた矢がジグを射貫く。

「『月の血統(アルテミスト)』は狩猟の魔法。獲物の鮮度を高く保つために、生命は維持したままに狩る──アルテミスの矢は気絶させるだけです」

 目を瞑りたい衝撃映像ではあったけれど、ミアがそういうなら安全な魔法なのだろう。

 さて、あと一人。

 ザグの方は、射貫かれた兄を助けに行くでもなく、ただ、こっちを見て身構えていた──次に狙われるのは自分だとわかっていて、それでも、なにか策があるかのように。

 そういえば、ジグの方は爆弾の魔法だったけれど、ザグの魔法はまだわかっていなかった。

 確か町の人が、『パッと消えてパッと現れる』魔法を使うやつがいたって言ってたよな。

 ザグがその魔法を使うとしたら。

 使うとしたら──逃げられる!

「待てっ…!」

 俺はザグのいる方へ走り出した。

 ザグの元にたどり着くまでに、ミアの放った二本目の矢が俺を追い越して、ザグを目掛けて飛んでいく。

 そして案の定──ザグはパッと消えた。

 ザグを射貫くはずだった矢は、空を切り地面に刺さった。

 本当に消えた。

 消えたというか、粉のように、散り散りに。

 パッと。

 だけど、見えなくなっただけで、いなくなったわけじゃない、かもしれない。

 まだそこにいるかもしれない。

 走る勢いをそのまま、俺は先までザグが立っていた付近を思いきり蹴り上げた。

 空振り──そりゃそうか。

 粉は蹴っても舞い散るだけだ。

 土埃だけを上げて、蹴った勢いで後ろに倒れてしまった。

 運動音痴がバレる。

 だが。

「げほっ…砂がっ」

 見えなくなっていたザグの姿がかすかに見えるようになっていた。

 尻餅をついたまま唖然とする。

 結果オーライ?

「なんでっ、『雲散霧消(ミスティクローク)』が使えない!」

雲散霧消(ミスティクローク)』、それがザグの魔法。

 文字通り、霧になる魔法だとすれば──なるほど、霧と砂じゃあ、相性は悪かったな。

「ミア!」

「はい!」

 ミアが弓を構え、うずくまるザグを狙う。

 これで終わりだ。

「まあいいや──『神の篇帙』なんて興味ないし。でも、グラボさんはきっと取り返しにくるよ、ミア・リタリエル」

「この名にかけて、『神の篇帙』は誰にも渡しません、必ず」

 そして、ミア放った矢に射貫かれ、ザグは気を失った。

 …なんとか終わった。

 と言っても、ミアの力で勝ったんだけど。

 さっさと『神の篇帙』を取り返して帰ろう。

 グラボや、他の増援が来るかもしれない。

 そういえば。

 ザグが最後に、『ミア・リタリエル』って言ってたけど、それがミアのフルネームか?

「ミア・リタリエルって…ワールド・リタリアニスと関係ある?」

「はい、リタリエル家は、ワールド・リタリアニスの王家です」

 え、それって、つまり。

「私は、現在の王、ディディエル・リタリエル第六国王の娘です」

「つまり、お姫様?」

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