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「アメリアは、私のおばあさまです」
町の中心地、広場まで来た俺たちは、人だかりの中で、事件の詳細を聞いていた。
俺たちが入手した情報は以下の通り。
三十分ほど前、突如盗賊集団が襲撃をかけ、ミアの祖母であるアメリアさんの宅から、『神の篇帙』という宝具を盗んでいったらしい。
どうやら怪我人も出ているようだ。
犯行はドアを爆破しての突入──家は町の中程に位置しているし、爆破の音を聞いて住民の対応があったはずだが、手際よく盗まれたってことは、その道のプロなのかもしれない。
犯行は三人で、内二人は全身迷彩に身を包んでいたが、一人は黒い祭服──聖職者の格好をしていた。
犯行が三人なだけで、そのグループが三人とは限らないが。
そして、魔法。
迷彩服の片割れが魔法を使っていたらしい──なんでも、パッと消えてパッと現れる不思議な魔法だそうだ。
意味わからん。
そして、問題はここからだ。
奴らから『神の篇帙』を奪還できるかどうか。
宝具と呼ばれているくらいだし、その価値は、きっと俺が思っている以上に高い。
そんなものがいとも容易く盗まれた時点で、この町の住人は一度完敗している。
まともに戦うこともなく。
おそらくこの町には、盗賊と張り合える人はひとりもいない。
みんなそれがわかっているから、誰も奪還することを言い出せないでいる。
ミアなら戦えるか?
いや──彼女の魔法はきっと強力だけど、相手は盗賊だ。
それだけの相手だ。
だから、多分。
俺がやらなきゃいけないんだと思う。
なにができるかわからないけど。
俺にはなにもできないけど。
魔法も持たない、ここにいる誰よりも弱い俺が、それでもここに来たのは──偶然じゃないと思う。
ミアは、俯いている。
俯いているけど、その小さな拳は、固く握られていた。
「そういえば──」
と、そこで町の婦人が切り出した。
「そういえば、祭服を着ていた奴の目元に、花に刃物が刺さったような刺青があったわよ」
途端に、ミアは表情を変えた──その顔には、畏怖と、絶望と。
そして、抑えきれない怒りがあった。
「待って」
瞬時に駆け出したミアの細い腕を、俺は掴んだ。
「俺も行く」
こんな表情のミアを、ほっとけるわけがなかった。