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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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9

「あの… その服は、目立つと思います……」


 紫のローブを着た魔道士Aがおずおずと言ってきた。

 しかしやはりここは確かめねばなるまい。


「もしや、あなたは攻撃魔法がご専門?」


「え? はい」


(やったぁ 黒魔道士〜〜)


 頷く魔道士Aにガッツポーズをこっそりキメる。

 王道RPGの第9弾、黒魔道士にピンポンと名前をつけて育てまくり、最後に号泣したのは甘酸っぱい思い出である。


(ハッ)

 

「そういえば、皆さんは宴とやらに行かれなくてもよろしいのですか?」


 ビミョーな空気が辺りにひろがり、魔道士Bが咳払いを小さくして、言った。


「僕達は魔法学院の学生なんです。今回の儀式は魔力をお使い頂くために参加させていただきましたので、宴までは……」


「………なるほど」


(つまり、燃料みたいなものか……)


「あ、やはりこの服では目立ちますか?」


 ミユキの問いに全員が頷く。

 連れてこられたのは、いぬの散歩中である。紺色のTシャツにジーンズ、グレーのパーカーであった。


「そんではおまじないで……」


 パーカーを脱いで床に置く。あの漫画のイメージで、真理の扉は開いていないが、両手をパチンと合わせ、パーカーにかざしてあの主題歌を口ずさんでみた。(第1期)


「ふーん、ふ、ふ、ふんふーーん♪」


 ちょっぴり音痴だったが、判る者はいない。


「なっ!?」


 光に包まれて、パーカーの裾が伸びながら形を変えていく。袖口が広く、生地が厚く、たっぷりと……等価交換はどうなった! と勢いよく叱られそうだ。


 一同唖然と口を開いた中、ミユキはパーカーの肩の辺りをつまんで、ふむ、と袖に手を通してフードを頭から被って見せた。


「こんな感じでいかがでしょう?」


 頭から全身がロープで隠された。


「お……おまじないって」


「大丈夫ならお願いします」


 ぺこりと頭を下げていぬを抱え、出口に向かって歩き出す。さっさとここから抜け出したい。お腹も減ったし、ふたばのトイレもさせてあげたい。水だって飲みたいだろう。いぬの顔を覗き込むと、仔犬に戻ってしまったふたばは、のんきな表情でペロリと頬を舐めてきた。精神年齢は若返っていないような気がした。落ち着きがありすぎる。

 そこは後程確かめるとして、小さな扉を開くと廊下を挟んで更に扉があった。


「こちらです」


 シルーシスがその扉を開けると、小部屋があり、ロッカールームのようだった。


「すみませんが、少しお待ちください。こちらのローブは儀式用に支給されたもので返却しなくてはならないものですから」


「おぉ……」


 ローブを脱ぐと、皆お揃いのゆったりとしたこげ茶色の厚手の生地の上着とズボンを着ていた。制服のようだ。ロッカーから鞄を出して肩からかけていく。


「急ぎましょう」


 次々とローブを壁にかけ、出口に向かう。外に出てみると、まだ明るかった。出口は建物の裏側のようで、振り返ると、かなり大きな神殿のような屋根が見える。


「ミユキさん、こちらの出口は関係者用ですので、顔を上げずに気分が悪そうにしていてください」


「はい」


 ふたばをローブの懐に入れて腕で抱え込み、背中を丸めてとぼとぼと歩くと少年たちが支えるように囲んでくれた。


 ローブを被っていない少年達は、明るい場所で見ると、髪と瞳が色とりどりだった。びっくりだ。


 建物から離れてしばらく歩くと、高い3メートルほどのレンガの壁があり、小さな扉の前に門番が1人立っていた。


「お疲れ様です」


「おぉ、お疲れさま。儀式はうまくいったのかい?」


「えぇ。けれど1人魔力ぎれで酷い状態になってしまって」


 シルーシスが、やれやれといった風に肩を竦めた。

 騎士Jがニコニコと頷いている。


「みんな、頑張ってくれたんだな。お疲れさん」


 門番が重そうな扉を開けながら労った。


「ありがとうございます」


 人の良さそうな門番に口々に礼を言いながら扉を潜る。塀の幅は人がふたり分程だろうか。全員が潜るように外に出た後、シルーシスと騎士Jが最後に続いて出た後、背後で扉が閉められた。


(警備体制があまくないか……? いや、出口だからか…… いやいや入るだけ入って誰かが残って悪事を働くことも考えられるだろうに…… いや、もしかしたらものすごいセキュリティが作動するのかも知れない。魔法的な何かで……)


 塀から遠ざかると、数人が小さなため息を吐いて、お互いを見合わせて、笑いだした。


「悪いことしてるみたいだけど……これって悪いことなのかな?」


「何か、すみません」


 思わず謝ってしまうミユキだった。このせいでこの子達が罰せられたりしたらどう責任を取ればいいのか。


「いえ、私がお願いしましたので、責任は私にあります。みんな、後で何か言われたら、私に脅されてやったと言ってくれ」


 何だか暗い雲を背負ったようなシルーシスに、誰も何も言えずとぼとぼと歩いていく。

 公園のような広場を抜けると石畳の街並みが広がっていた。どうやらメインストリートのようで、道幅が広く、両側に店があり、行き交う人たちも忙しく動き回っているようだ。

 何の店だかわからないが、夕方だし、帰宅時間も重なっているのだろうか。

 夕焼けのオレンジめいた色が石畳と煉瓦の街並みを包み込んで、外国に来ている気分になった。


(そういえば、アジアから出たことなかったなぁ。新婚旅行はお隣の国だったし20年以上前だったからなぁ)


 映画でしか見たことのないような夕焼けの街の景色に、ついつい感慨深く見とれてしまっていた。





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