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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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8

 妙な沈黙が続いていたので、みゆきは話を切り出してみた。


「用は終わったみたいですので、お暇させていただいてよろしいでしょうか?」


「え?」


 我に返って弾かれたように顔を上げる魔道士達。


「ほら、何もなかったらしいし…… 長居しても……ゴニョゴニョ……」


 早くトンズラしたい、と日本人らしく、言葉尻を濁して訴えてみると、指を開いたり閉じたりしていたシルーシスが、ボソリと呟いた。


「……おまじないというのは」


「はい?」


 手袋をとり、自ら確かめた右の掌をみゆきに向けて問うてくる。


「火傷の痕も消すのですか? それも昔のものをっ!」


「え……」


「魔力が……?」


「戻っています!」


「僕もだ!」


 堰を切ったように皆が報告し始めた。


「ありゃ」


 全員から再び凝視され、みゆきの背中をイヤな汗が伝ってゆく。今まで生きてきて(一回死んだけど)こんなに注目されたことは結婚式以来ではないだろうか?

 いや、式の時だって、みんな披露宴の自分の出し物に集中してたから、気もそぞろだったよね…… そういえば、お葬式の写真はどれ使ったのかなぁ。ここ数年はロクなものなかった気がするけど……

 そもそもお葬式……やったのかなぁ?

 どんな死に方かよく聞かなかったから、保険がおりたかも不明だし……見習い天使さんにあっちの方もきちんと頼むべきだったよね。


 しかし……


(大サービスはホントだったのか? いやいやいや結構無茶振りした気がするけど……まさか、否定されなかったやつ、全部叶えられたとか? 私、何をお願いしたっけ?)


 回復魔法のこと以外、ほぼ覚えていないみゆきであった。


「あ」


(M16は断られたんだよなぁ…… 森の中で 遠くの空き缶を撃ち抜いてみたかったのに。あぁでも、この世界に空き缶ってなさそうだわ)


「神官様に報告を……」


 紫のローブの魔道士が広間の出口に向かう。


「ち! ちょいとお待ちを!」


 焦りすぎて、つい江戸っ子っぽい口調になってしまった。江戸っ子ではないのに。


「……なんでしょう?」


 訝しげにみゆきを見る魔道士は、少年に見えた。そういえば、他の魔道士も皆少年のようだ。そう、さっき召喚された高校生達と同じくらいでは?


「さっき、見てましたよね? ……ステイタス?っていうの?」


「……」


「何も出なかったんですよね?

 シルーシスさんも御覧になりましたね?」


「……」


 なぜ出なかったのかはわからないが、そこを利用するしかあるまい。


「これはただのおまじないです。 まじないごときで勇者様達と何やら成し遂げられるとは思いませんし、できません。足を引っ張ってしまうのが関の山です。あの方達は大変なことを成し遂げるために召喚されたのでしょう? 若くて、才気溢れる元気な方々のようです。それにひきかえ私はきっと間違えて巻き込まれただけに過ぎない、しがない中年の女です。皆様の貴重な魔力を消耗したというのに、大変申し訳ないのですが……」


「……おまじない……」


 シルーシスが掌を見ながら呟いた。


「ええ。ですから勇者様達にご迷惑をかけぬよう、このままこちらを出ようと思っています。王様も神官様も私のことは忘れていらっしゃるでしょうし…… では、お世話になりました。出口はこちらで?」


 畳み掛けるようにまくし立てて、頭を下げながらいぬを抱えつつ、王様達が入っていった扉とは別の小さな扉に向かう。

 服から何とかしないとなぁ。魔法少女のように変身とかできるのかな? コンパクトがないからムリか〜


「お待ちください」


「チッ」(はっ! しまった! 今の舌打ち聞こえてないよね?)


 恐る恐る振り返ると、シルーシスが眉間にしわを寄せて睨みつけていた。


「な、なんでしょう?」


「お願いがあります」


 この男は今まで他人にお願いしたことなんて、なさそうだなぁ…… みゆきは何となく生温かい気持ちで次の言葉を待った。


「……さっきの……おまじないをしていただきたい者がおりますッ! お願いします! 私にできることなら何でもしますからッ!」


 いきなり床に手をついて頭を下げられ、う、と言葉を飲み込んだ。周りの魔道士と騎士Jも困った顔でシルーシスを見つめている。


「なんでも……?」


「はい! 下僕でも何でもなります」


「……下僕って、何だかわからないけど、いりません」


「えっ⁈」


 なぜここまで驚かれるのかわからない。

 下僕って必要なものなのか?


「とりあえず、外に連れていっていただけますか?

 なんか食べものをいただけるのでしたら、おまじないでも何でもやりますよ。こちらの世界のお金ないですし」


 目を丸くする騎士2人と魔道士6人。


「異世界に呼び出されて、こちとら右も左もわからないんです。だいたい、今は昼なんですか? 夜なんですか?」


 窓のない広間は電気でもなく、不自然に明るかった。


「あ、おそらく夕方です。儀式は15時からでしたので」


(おぉ! 異世界も時間は同じなのね! これも見習い天使さんの補正効果かも知れないけれど、判りやすくて助かるわ〜〜)


「では、お願い致します。シルーシスさん」


「……あの、ご婦人。今更ですが、お名前は?」


 確かに、今更だった。

 名乗らなくても、話は進むものなのである。


(名前…… さすがにデュー○東郷とか名乗っちゃダメだよね〜。ゴル○みゆきとか、もっとダメか。13をもじって東郷ヒトミとかどうだろう? いやいやサーティンからサチコ? はあぁ やっぱダメだよね)


「ミユキといいます」


 知ってるひとが一人もいない世界でも詐称はできない、小心者のミユキであった。



















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