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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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「では、今回の勇者を見つけたらさっきの部屋に集合と言うことで、散開!」

「「「「おう!」」」」


 怜美のかけ声で、日本人……元の姿に戻った勇者たちは一斉に駆けだした。その姿を見守るミユキは腕組みをしてうんうんと頷いてみる。何だか子供の成長を見守る親のような気分であった。


「で、ミユキさんは? 行かないの?」

「あ、私ですね。ちょっと気になることができたので確認に行こうかと思ってます。すぐすみますので」

「……それって、私たちが戻ることに関係あること?」


 なぜか怜美が押し殺した声で問うてきた。


「そうですね。最初、でっかい魔法陣の上に喚びだされたので、その逆はできないのかなと思いましてね」


 のんきな声で答えるミユキを怜美は黙って見つめていた。


「どうしました?」

「……ううん、その、ありがとうございます」

「いやいやいや、まだ二年前に戻れるかも確実じゃないし、できなかったらこちらこそすみませんです」


 赤くなって首を振るミユキに怜美が笑った。


「ミユキさん、私はね、二年経っていても戻れればいいって思ってるから。お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、きっと喜んでくれると思う。最初は驚くかもしれないけど、生きていれば、それだけで喜んでくれるって思いたい……だから…大丈夫」

「そうですね。生きていれば──。でもまぁ、できるものなら元のところに戻った方がいいし、あ、でもこっちで半年成長した分までは元に戻れない……待てよ? タイ○ふろしきで成長したの○太が子供に戻った話があったから……」


 ぶつぶつ言い出したミユキをみて、クスリと笑った怜美が優しく肩に手を乗せた。


「じゃあ、私も探しに行ってきます。またあとで」

「はい! 気をつけていってらっしゃい!」


 駆けだした怜美を少しだけ見送ってから、ミユキの姿がその場から消える。

 静まりかえった広間では遠くから走り回る勇者たちの足音と、ドアを開け閉めする音だけが微かに聞こえるだけだった。






「なるほど」


 最初の広間でミユキは呟いた。

 犬や猫を飼っていると独り言が増えると思う。というか、本人は犬や猫に話しかけているつもりなのだが、端から見るとそうではないらしい。


「さてさて、えーと、ステイタス?」


 魔法陣のど真ん中で呟くと、次の瞬間には真っ白な空間に突っ立っていた。


「ご正解です」


 振り返ると、やはりどこから湧いてきたのか謎だったが、あの男が立っていた。何だか偉そうだが。


「正解ですか?」


 天使(見習い)は、にこりと笑った。


「ええ。この魔法陣は、この世界で最もあの子供たちの世界とつながりやすい場所なのです」

「──ということは、ここからなら?」

「ええ。あの子供たちを元の場所に還せます」

「でもこの文字はあっちからこっちに喚ぶためのものですよね」

「まぁ、そうですけど、みゆきさんにはあまり意味がないものですね。この地点が重要なので」


 鼻で笑うように答える天使(見習い)である。しかしみゆきは、それはそれということでもう一つ質問をした。


「時間は? 二年間はどうなんでしょうか? 戻せますか?」


 天使(見習い)が片眉を上げ、更に口の端を器用に上げた。営業がしていい笑顔じゃないぞ、とみゆきが思うと見習い天使の口は左右均等にきれいな弧を描き、ちゃんとした笑顔になった。


(……このひと笑顔がこわいよ)

「失礼ですね。ええ、条件がございますが」

「何です? 条件って」

「相変わらずストレートですね。はい、順番です」

「はい?」

「先に、現代から戻っていただかないと、現代の子供たちが同じ世界に重複して存在することになってしまうので」

(いやいや、すでにこんなめちゃくちゃなことになってんだから、そこに今更こだわるのもなんだかなぁ)

「大事なことなんです」


 ちょっとむっとした感じの天使(見習い)に思わず、すみませんね、と愛想笑いをしたみゆきに更に眉間に皺を寄せる天使(見習い)であった。


「でも、先に現代に戻っちゃったらそこから二年前に移動なんてできないのではないですか? 二回に分けて行くとか?」

「どうしてです?」

「え、だって、あっちに魔法陣ないですし」

「この魔法陣は、あの子供たちの世界とつながりやすい場所であって、時を遡る力はございません」

「え、じゃあどうやって……?」


 質問しながらみゆきの背中をこちらに来てから何度目かの嫌な汗が落ちてゆく。


「申し上げたはずですが?」

「え……」

(ま……、まさかだよね……)

「時を遡る呪文は、ご存じですよね?」

「う……」

「まぁ、判ってらっしゃるかと思いますが、呪文は意味がないので唱えられなくても不都合はないのです。気分が盛り上がるというか、使い分けというか、ほぼそれだけですからね」

「で、でもあっちは魔法とかない世界ですよね? そんなとこでやっちゃっていいものなんですか? そもそもできるものなんですか?」


 何だか焦ってしまったみゆきに、天使(見習い)は不思議そうな表情で繰り返した。


「申し上げたはずですが? みゆきさんの行動に制限はありません。お好きなことをお好きなように、なんでもなさってください」

「う、うそーん……」


 あちらの世界で魔法が使えるとは信じがたいことである。目を見開いているみゆきに、天使(見習い)は思い出したように人差し指を立てた。ほら、やっぱり……


「ひとつだけ、お願いがあります」

(え、条件じゃないのかい?)

「ええ。終わったら、必ずこちらにお戻りください」

「はい?」

「ああ、もうひとつありました。すみません、こちらは条件です」

(そうだよね、とんとん拍子にいきすぎだよね)

「大変申し訳ないのですが、ふたばさんはこちらに残して行ってください」

「え、なぜ?」


 天使(見習い)は眉をハの字に下げ、申し訳なさそうに頭を下げた。

 訳がわからないが、これだけは決定事項のようだ。みゆきは白い空間を仰ぎ見て、ため息をついた。


「──わかりました。必ず戻りますので、ふたばをよろしくお願いします」

「承知いたしました」


 深く頭を下げたみゆきが徐々に消えていくのを、天使(見習い)は静かに見つめている。そして小さく呟いた。



 大団円が好きで、小心者の彼女は、どこまでやってくれるだろうか。







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