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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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 ところ変わってギルドの酒場である。


「───ということは、そのミユキさんというのが僕たちと一緒に召喚されたあのオバさんなのかな」


 秋月が確認すると、全員が口をへの字にして頷き返す。


「でも、一昨日だったよね? ていうか、あのオバさん魔法使えたの? あの時、ステータスに何もないって置きざりに……」


 怜美(運び屋J)が冷ややかに睨みつけてきたので、柿崎は口を噤む。


「置き去りにされたんだ、ミユキさん」

「───面目ない」

「なんかすみません」

「ごめんなさい」

「いえいえ、別に責めてるわけじゃないよ? いきなりこんなところに連れてこられて、わけわかんない武器持った連中に囲まれて、仕方がないよね。私が怒ってるのは呼び出した人たちの方! 何それ………って……あ、そうか」

「?」


 考え込んだ怜美に秋月が首を傾げた。


「あぁ、認識阻害か、うんうん」


 塩谷(ナイスガイT)が自分で言って頷いた。怜美も頷く。


「ミユキさんとふたばちゃん、なんか、気にならなくなるおまじないを自分にかけてるってキャサリンさんが言ってたからさ。だからみんな、気にしなかったんだ。王様も、他の人も」

「なにそれ、キャサリン?」

「まぁ、それはともかく、そっちはみんな日本に戻るのかな?」

「え?」

「そのミユキさんね、今それを聞きにお城に行っちゃったの。入れ違いだよね?」

「「ええええ?!」」

「ひとりで?」


 肩をすくめ、唇の端を上げて眉尻を上げた運び屋Jは、拍手したいほどかっこよかった。帰れたら三部作をじっくり観ようと心に誓う柿崎である。


「じゃあ、とりあえず僕達は城に戻らないと、だね。あ、あっちに戻るか戻らないかは、僕達の方は戻るの一択だよ」


 秋月がにこりと微笑んだ。


「まだ三日目だ。こちらの人に情などわかないし、わいたとしても、よく考えれば向こうの家族や友人達に勝るものはないだろうしね」

「こっちの誰かに一目で恋に落ちたとかは?」


 にやりと笑った運び屋Jに、秋月も笑う。


「戻ってから揉めたり責められたりするのは面倒だから僕が説得して一緒に帰ってもらうよ。そっちはどうなの?」

「あ、うーん、ひとり、どうするかわかんない子がいるかな。ここには来てないけど」

「残るの? ここに?!」

「うん……。かもしれないな」

「あんたらだけで帰ったら、面倒なことになるんじゃね? その子の親とかに責められたり」

「うーん、あいつんち、複雑なんだよな」


 驚いた笹神に、ムキムキの腕を組んだ徳山(コマンドーA)が眉間に皺を寄せて言いにくそうに答えた。絶対腹筋割れてるよな、と思わず腹を見てしまう笹神である。


「まぁ、そういうのは帰ってからで、こゆみが決めることだし」

「女子なんだ」

「うん。おんなのこだからねぇ」

「ま、そもそも二年前に戻れるかどうかもはっきりしないしね」

「……二年かぁ」

「でもなんか、なんとかしてくれそうなんだよね。あのオバさん」


 そこでやはり、全員が眉間に皺を寄せて無言で頷いている。あのオバさんはいったい何をしたのだろうか。


「そのミユキさんなんだけど……」


 秋月が言いかけた時、扉から数人の男達がなだれ込んできた。男達はすでに剣を抜き構えている。

 元祖勇者達は顔色も変えず、ゆらりと立ち上がり、秋月達三人を背に囲んだ。

 なだれ込んできた、白銀の鎧で身を包んだ兵士の一人が、大声で叫んだ。


「勇者殿を返してもらおう!!」


「………なんのことだ?」


 唸るような低い声で、腕を組んだシルさん(夏光)が返す。ノリノリでやっているようにしか見えない。はち切れんばかりの筋肉に、兵士が口ごもったが、それを恥じたのか更に大声でまくし立てる。


「し、しらばっくれるな! 勇者様が三人、ここに入られたのは確認済みだ! おとなしくこちらに渡せば手荒なことはしないッ! 早く渡せッ!」


「………手荒なことだと? ──やってみるか?」


 沈黙の男Sが吹き替え版低音ボイスで、薄く笑った。小馬鹿にした感じがにじみ出るのは沈黙のシリーズ仕様なのか。


「それより、あんたら、なんで髪の毛あんの?」

「「「え?」」」

「ね? おかしくない? だって前の時はどこに行っても薄毛の人ばっかだったよね? なんでみんなふさふさなの? 200年でDNAが変わったの? それとも育毛技術が進化したの?」

「怜美、言葉使い、オネェっぽいよ」(小声)

「あ、エヘン、その、キミ達、その頭はどうしたんだい? ふさふさぢゃないか」


「「「「「………(なぜここまで毛髪を気にするんだろう?」」」」」(by同級生一同)


「ハッ! おまえらは勇者様の奇跡の光を浴びなかったのか? あの時、この国にいなかったということだな!」

「勇者様の奇跡?」

「なに、それ」

「なんだそれ」

「なんなのそれ」


 振り返ったムッキー達に柿崎がぶんぶんと頭を振った。


「ふふん、貴様らはその恩恵を受けられなかったということか」


 個性的なハリウッドスター達の頭を見て、ほくそ笑む兵士達である。


「勇者様が降臨された夜、緑色の神々しい光が我ら全体を包み込み、全ての者の病を治し、四肢の欠損を復活させ、我々の頭髪に恵みをもたらし、更に全ての魔石の力を蘇られてくださったのだ」


 胸を張り、ドヤ顔で報告をしてくる兵士に、二百年前に降臨した勇者達は開いた口が塞がらない。


 しかしそしてその数人の脳裏にはあの、やけにのんびりした呪文が浮かんできた。




 《ぴん○るぱん○る○むぽっぷん》




 奇跡じゃねーよ、あのオバさんだよ───。



 遠い目をする男たちであった。

(中身は女子の二名を含む)








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