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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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7

「クレーディトよ、お呼びしたのは勇者殿ではなかったのかな?」


「はい…… しかし、これは……私にも……」


「ふむ……」


 王様は召喚された面々を見回し、顎髭をひと撫でして、みゆきを一瞥した。


「勇者殿方には、とにかくご寛ぎ頂こうではないか。詳しい話も宴の席でお聞き願おう」


「かしこまりましてございます。皆さま、こちらへお願い致します」


 神官のクレーディトの一声で騎士達が高校生達を囲むように移動を促した。帯刀した騎士達は高校生達よりも圧倒的に体格もよく、動きにも隙がない。おどおどとしながらも、高校生達は歩きだした。数人はみゆきをちらちらと伺っている。

 しかし、屈強な騎士が間を阻み、視界から隠すように広間から出て行った。そして、煌びやかな衣装の人々も口々に笑みを浮かべながら追随する。


【何もない】みゆきはその輪から除外されたらしく、取り残されていた。だだっ広い、召喚陣のある広間に、騎士E(シルールス?)とみゆきに飛ばされて意識を失ったままの騎士J、介護する騎士ではない白いローブを着た男が一人と、紫のローブを着た男が5人いた。


(このままとんずらしてもいいのかな?)


 みゆきとしては、早くここから抜け出して、森に籠って修行をしたくてたまらないのである。


 腕立てをしてみたい…….。

 何だか50回はいけそうである。


「ダメです。意識が戻りません」


 白いローブの男が静かに告げた。騎士Eが弾かれたようにみゆきを睨みつけると同時に掴みかかってきた。


「貴様ッ!」


 伸ばされた右手を右手で払い除けてしまった……。しかも、ごく自然に。

 騎士Eの目が信じられないかのように見開かれる。

 数秒、騎士Eとみゆきは見つめあう形になった。

 騎士Eは睨んでいるが、みゆきは見ているだけだったので。

 沈黙を破ったのは白いローブの男である。


「毒は使用されましたか?」


 騎士Fの側に膝をついたまま、みゆきを見上げてきた。ローブのフードが頭から落ち、金髪を短く刈り上げた首が……細い! と妙なことが気になった。


「いえ、そんなもの持ってないですし……」


「ですよね…… ではなぜ意識が戻らないのでしょう? 呼吸はしているのですが……」


「……あのう……側に寄ってもよろしいでしょうか?」


「なんだと「どうぞ」


 怒鳴りかけた騎士Eを見事に無視して白ローブの男──もしかしたら少年かも知れない──が言った。

 小走りに近づき膝をついて顔を覗き込む。


(悪いことしたかなぁ……)


 頭頂部に手をかざし、白ローブの少年に訊いてみた。


「あなた、魔法使いですか?」


「え?」


「いえ、ね? 私のいた国の本には魔法使いがでてきたりするのですが、たいていローブを着ているんですよ。実際に魔法を使えるひとには会ったことありませんでしたがね」


「え、魔法を見たことがないのですか?」


「はい。白いローブは回復魔法ご専門?」


 少年は小さく頷いた。


「戦の時には着ることはありませんが、儀式ですので……」


(おおおおぉ! 白魔道士!)

 心の中でガッツポーズである。


「この方は魔法では意識が戻らなかったのですか?」


「王国の専属魔道士は回復魔法を勝手に使うことは禁じられておる」


 騎士Eが唸るように答えてきた。


「それもありますが、先程の召喚の儀でほぼ使い果たしてしまったのです」


 確かに、見回すと全員顔色が悪い気がする。


「はぁ。それでは、私の家系に伝わるおまじないをやってみてもよろしいですか?」


「なに?」


「ちょいとおまちを」


 ビーグル犬を床におろし両手を頭にかざしてみる。

 30年程前に見た魔法少女の呪文がついつい口をついてでる。何だか言ってみたかったのである。


(何だかわからないけど、治りますように〜〜 見習い天使様、忘れずにいてくださいませ〜〜)


「ぴん○るぱん○る○むぽっぷん」


(おおおおおぉ⁈ 掌が温かい!)


「○んぷるぴんぷる○むぽっぷん」


 うろ覚えである。だって高校生の頃見てたアニメだもの。ビデオデッキも持ってなかったし、夕方5時半に帰宅するのは大変だったわ〜。

 しかし、やはりこのフレーズは何だか恥ずかしかった。よし、次からはこの呪文はやめよう。


 遠い目をして決心すると、視界が淡く緑色に輝きだした。騎士Jの表情が穏やかになってくる。


「なーおる なおるーー ルルラララ〜」


 適当に節をつけて言ってみると、緑色の淡い光がどんどんと広がってゆき、広間にいる全員をやわやわと包み込んだ。


「はい、おしまい」


 光が全員に吸い込まれたと同時に、騎士Jが瞼を開けた。視線の先には白魔道士の少年である。おばさんは視界に入らないらしい。何だか二人の世界が始まったようなので、立ち上がって騎士Eシルーシスに会釈した。


 シルーシスは固まっている。


 紫のローブの男たちも固まっていた。


(やはり、呪文がマズかったか……)


 それらしい呪文は浮かばないし、なにも言わないのはなんだかな〜だし、唱えてみたかったのよぉ〜 おばさんはね! 魔法少女が大活躍する時代に育ったの〜! コンパクトとか、ペンダントとか、バトンとか……みんなクルクルまわってたのよぉ〜〜


 羞恥に打ち震えていると、いつのまにやらその場にいた全員に囲まれていた。


(ヤバい? 何かやらかした?)


 やらかしている。とっくに。


「……今のは……魔法ではないのですか?」


「いえ、我が家に伝わる一子相伝のオマジナイデゴザイマース」


 日曜夜6時半から始まる国民的アニメの次回予告編の自己紹介を真似て言ってみた。しかし……


 嘘をつけ────────‼︎


 全員の心の叫びは、妙な沈黙となって広間に蔓延したのあった。







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