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三話続けて投稿の第三弾です
扉を開けると、そこはアメリカだったので、笹神は回れ右して背にした扉をバタンと閉めた。
「どうしたんだ? 早く入ろうぜ」
「そうだよ、早く入らないと」
訝しげな柿崎と呆れたような秋月を前に笹神はぶんぶんと首を振った。
「だって……ここって異世界だよな? ファンタジーの世界だったよな? 剣と魔法の世界なんだよな?」
「そうだよ。ここに来る間に獣人さんとかドワーフさんとか見てきたじゃん!」
「でもでもでも……」
口をぱくぱくと動かすだけの笹神に、埒があかないと思ったのか、笹神を脇に柿崎が扉を開いた。そして、扉を閉めた。そして、首を傾げて呟いた。
「……アメリカ?」
「だろ? だろ?」
「───っ、いいから入るの」
秋月に背中を押されて入った先は、冒険者ギルド兼酒場である。すでの酒の匂いが充満しているようだ。
(こんな時間……まだお昼すぎくらいだよね? からお酒呑んで……狩りに行かないのかな?)
秋月が唯一やっていたゲームはモン○ンであった。そしてまさしくこの場はモン○ンの酒場のようであり、秋月は無表情ながらにも心躍っていた。が、
(アメリカ……というかハリウッド?)
入ってすぐの目につくテーブルには、筋肉ムッキーでタレ目のアメリカンが座っていた。確か彼はボクサーであり、山岳救助隊としてロッキー山脈で跳びはねまくってたり、最近では傭兵を率いて暴れまくっていた男Sだった。その向かい側にはその傭兵集団でナイフを投げまくったり、ルールを守れば何でも運ぶ几帳面な運び屋をやっていた男Jが座っていて、その横には若い頃はアメリカ軍の艦上戦闘機F-14を乗りこなしていたり、最近は超ベテラン工作員だったりするナイスガイ、甘いマスクの男Tがグラスを傾けながらニヒルな笑みを浮かべている。
「「「………」」」
「おっと、ごめんなさい」
「あ、すみません」
柿崎達三人の後ろから扉を開け入ってきた男二人がぶつかりそうになって謝ってきた。
「いえ……えええええ?」
見上げるほどの筋肉ムッキー男の顔を見て、柿崎が悲鳴に近い声を上げてしまったのは仕方がないことだった。だってそこには、どこまでも追ってくる殺人アンドロイドであり、誘拐された娘を取り戻すために人間武器庫と化して敵地に乗り込み武装集団を全滅させた男Aと戦艦のコック長でありながらその戦艦を乗っ取ったテロリスト達を単独で全滅させた沈黙の男Sが仲良く並んでいたのだから。ほぼ見ることのないツーショットであった。
「あれ? 日本人?」
コマンドーAがまじまじと見下ろしてきた。
「え? あの……俺たちは、その……って、日本人?!」
こっちにきてからは勇者様とは呼ばれたりしたが、日本人と言われたことはなかった。やはりここはアメリカなのか? しかしこのアメリカン達は全員こっち側のファンタジックな衣装に身を包んでいる。ドッキリ? ドッキリなの? いやいや一般人な俺たちをこんな手の込んだ方法で騙す必要ないよね? パニックになりかけている笹神に後方から更に声が続く。
「おまえらでっけーし、邪魔! 早く進めって、お? 日本人?」
コマンドーAの後ろから顔を出したのは、偏屈な名探偵でありながら、巨大企業の社長にして自らが開発した剛鉄の武装スーツを装着し、地球外生物や巨悪と闘う男トニー……じゃなくてRととあるクリスマスにテロ活動に巻き込まれて一人ビルの中で戦い勝利したのを皮切りに何度かクリスマスにテロに巻き込まれつつも、地球を守るために巨大隕石に立ち向かったり、エージェントを引退後、ヤバい引退仲間と共に悪い組織と戦ったりしているスキンヘッドの男Bと地球にやってくる宇宙人を取りしまる組織で働きつつ、日本で缶コーヒーの普及にいそしむ男T、そして特殊部隊Aチームの大佐でありつつ、娘を誘拐されたら96時間で悪鬼のごとく犯人グループを追い詰めていき組織を壊滅させた男Lの三人だった。
もはや笹神達の頭はパンク寸前である。
「な、な、な……」
「あ、もしかして、一昨日召喚されたひとたちですか?」
正面のテーブルから立ち上がった運び屋Jが笑みを浮かべて歩いてくる。やはり足が長い。そして何故?言葉遣いがめちゃ丁寧だし!? 口をぱくぱくさせる笹神の前に、秋月がすっと間に入った。
「失礼ですが、あなた方は?」
単なるそっくりさんなのか、いやいやこんな組み合わせの偶然とかあり得ないし!と笹神は心の中でツッコミをいれる。
「わたしたちは──あぁ、こんな格好でなんなんですけども、中身は日本人で」
フードがついた僧侶のような服を着た運び屋Jは薄い唇を少し上げた。安心させようとしているのか優しげな笑みを浮かべているがうさんくさい。その後ろからやってきた筋肉ムッキーでタレ目の消耗品軍団のリーダーSが、右手人差し指を立てながら後を続ける。
「なんと! 二〇〇年前に召喚された──日本で言うと二年前なんだけど、はい、勇者様ご一行です。あははっ 実はついさっきまで邪悪な竜の封印のため石にされてました~! テヘっ」
「「…~~~~~ッ」」
言葉もないほどのショックをうけまくっている柿崎と笹神の脇で、容姿と仕草と口調と声がまるで合ってないじゃないか──と秋月がぶつぶつ言いながら小さなため息を吐いたのだった。




