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三話続けて投稿の第二弾です
そもそもはキャサリンの一言で始まった。
「おぬしらは、まだまだじゃのぅ」
認識阻害の練習をしていた高校生達に、扇で口元を隠したキャサリンが、残念な子を見るようにダメ出しをしたのだ。
「くうぅぅぅっ」
「まぁ向き不向きがあるのは仕方がないのではないか? ふたば殿には才能がおわすからな」
地団駄を踏む怜美たちに、もはやふたばのお世話係となってしまったコウスケが無自覚の追い打ちをかける。ふたばの耳の付け根を撫でながら、心なしかドヤ顔だった。
「なれど、これではいつまでも先に進めぬのぅ。ミユキ殿、ほれ、あの呪いで皆の姿を変化させればよいではないか?」
「え?」
「妾とコウスケをヒトに変化させたアレじゃ。あれならば時間の経過にて解けることもない。ま、よほどの魔力がない限り自分で解くこともできぬがな」
「あれ、自分では戻れないんですか?」
ミユキの質問にキャサリンがうむ、と頷いた。おそらくミユキの術を解ける者はおらぬのではないか?とごにょごにょと少し悔しげに呟いているが誰も聞いていなかった。
「じゃあ、ミユキさん、やってくださいよ」
怜美がずんずんと鼻息荒くミユキに近づいてくる。夏光もちょこちょことやってきた。
「はぁ。では誰にします?」
「え? あ、そうか、じゃあ……あ、日本人じゃダメなんだよね」
「そうだな、ここのひとたち異常なくらい黒目黒髪に執着してたものな」
渋い顔の徳山に立花が頷いた。いつの間にかこゆみ以外の全員が一列に並んでいる。やはり全員王都に行くつもりなのか。
「外人! なら俺、あの、ロード○○○リングの、オーラン……」
「ずうずうしいわっ」
「立花……」
「──あのぅ」
申し訳なさそうに口を開いたミユキを全員がガン見した。
「え~~っとですね、なんとなくぼ~っとしかイメージがわかない方には変えられないみたいなんで……」
「「「……」」」
「私がはっきりと判るのは、その、あんまり若い方は判らないというか……」
ミユキの日本語が変になっていた。
「誰なら判るんですか?」
最初のコウスケを見ていた怜美は厭な予感しかしない。だって、誰にでも変身させられるのに、選んだのはあの人だったのである。このオバさんの趣味はかなり偏っているようだ。
「あなた方のご両親が若い頃ご覧になっていた洋画の方々ですかねぇ?」
高校生は全員首を傾げた。
そういえば親が見ていた映画なんて聞いたこともない。レンタルで借りて一緒にみたものなんて自分たちに合わせてアニメとかディズニーとか……。
でも映画に出てくるくらいの俳優だからそこまでおかしなことにはならないだろう!と考えた。(甘かったかもしれない)
そこへイークレスが付け加える。
「ミユキ様、街を歩かれるのでしたら強そうな男性がよろしいかと存じますが……」
「「え?」」
「ああ、そうかもしれませんね。綺麗な女性だとトラブルが起きてしまうかもしれません」
カケルが頷いて微笑んだ。ずっと封印してたくせに、なぜ俗世のことを知っているのか。
「なるほど、強そうな外人の方々なら……あっ! プ「プロレスラーは嫌だからなッ!」
「え……」
「あんた今、ブ○ーザー・ブロディとか、ス○ン・ハンセンとかタ○ガー・ジェットシンとか思い浮かべただろ?!」
「え……」
図星であった。ついでにいうならア○ドレ・ザ・ジャイアントも入っていた。
「ほら! 目をそらしたな! うちの父親がその辺のが好きでケーブルテレビでよく見てんだよ! 俺はそんなの嫌だからな!」
すごい勢いでまくし立ててきたのは北尾である。
「でも、強いし、かっこいいじゃないですか。けどミ○・マスカラスはマスクがあるので怪しいかな……」
「「「「「「いや(だ)です!」」」」」」
「誰が誰だかわかんないけど、プロレスラーはいやです!」
「……でも、今風のシュッとした若い外人さんの俳優とか、知らないんですけども……」
「………」
「すみません……」
心底申し訳なさそうなミユキに塩谷が言った。
「ま、まぁ、なんていうか、その、俺はミユキさんの知っている俳優さんでいいですよ。プ、プロレスラーはちょっとアレなんですけど、どうせ一時的なものなんだし、お任せしますのでお好きな俳優さんでお願いします」
「ちょ、仁、マジ?」
塩谷がにっこりと笑みながら頷いて、ミユキの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます! では! テク○クマヤ○ンテクマ○マヤコン、○○にな~~~れ」
「「「「………(なんだこのふざけた呪文)」」」」
塩谷が螺旋状の光に包まれていき、思わず歓声があがる。
「おっ!!」
「おおおおおおおお!」
光の中から現れた塩谷は──今の若者でもほぼ知っていると思われる、いつだってミッションを完璧にこなす甘いマスクのナイスガイであった。
「かっこいい! 仁! かっこいいよ!」
感動した夏光が両手を胸の前で握りしめ、目をうるうるとさせている。これなら、これならいけるかもしれない!と少年少女たちは思った。
「「「「「「じゃあ、お願いします」」」」」」
「承知しました!」
三分後、草原に微妙な叫び声が響き渡ったのだった。




