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オタクおばさん転生する  作者: ゆるりこ
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 今日も、その姿は変わらない。


 暗黒の闇の中、翼を震わせる守護竜様の前で石となり、佇む愛する人。


 あなたは私を恨んでいるだろうか。


 いや、恨んでいてくれた方が、きっと私は救われるのだろう。


 封印石はもって百年と言われていたが、すでに二百年と経過している。

 どのような奇跡なのかわからないが、私にとっては僥倖であった。


 前夜、私が拙い言葉で愛を伝えたとき、あなたは頬を染めて、小さく頷いてくださったのに。

 知らなかったとはいえ、あなた方をこの地まで(いざな)って、封印石としてしまった……。

 あなたは、あの時、私が裏切ったと思われたのだろうか。


 目の前で愛する人がみるみるうちに石と変わり果てていく。

 何度みた悪夢だろう。

 深い瘴気の中、今日も姿を確認する。


 守護竜様も御身体が半分ほど石に包まれていらした。

 全てが石となったとき、この世界は瘴気に飲み込まれて滅んでしまうのだろう。


 その瞬間、石となったあなたを抱きしめて、一緒に滅ぶことが私の今のたったひとつの願いなのだ。

 だが、その前に、一際強くなってきた瘴気の前に、私のほうが先に逝ってしまいそうだけれど────






「あのぅ~、封印の場所って、みんなこんな感じで上から落ちていくものなんでしょうか~?」


『知らぬ。某はあの場所で生まれ育ったのだ。それよりも、ミユキ殿はなぜ背に乗らぬのだ?』


「いや~恐れ多いというか、高いところ、苦手なんですよね~」


『ふたば殿は乗っておられるぞ? 四足でしっかりと立っておわす』


 ふたばは白銀の背に、えらそうに立ったまま降下していた。


(おわすって……なぜ殿付けなのか……。呼び捨てでいいと言っているのに)

「はぁ、あ! 見えてきましたよ!」


『うむ、先に行っておるぞ』


 白銀の竜が背中にビーグル犬を乗せて翼をはためかせ、急降下していく(さま)を眺めながら、ミユキもとりあえず、手足をばたつかせてみた。が、ふわりふわりと落ちていく早さは変わらない。

 暗闇の中、薄ぼんやりと見える竜の黒い姿。

 周りに佇む白い石。

 上から見るとよく判った。何らかの陣形となっている。怜美も言っていた。


 竜を囲むように立つ位置を、かなり念入りに指導された、と。


 そして立った瞬間に、まず仁が石となり、解除の魔法を試す間もなく自分達も石になったらしい、と。

 石になっていた間の記憶はなる直前からぷっつりと、切り取られたかのように途切れている、と。

 その後、あの大嘘つきのおやじ共が! とぷんすか怒っていた。


(全身麻酔みたいな感じか……)


『ミユキ殿! お急ぎくだされ!』


 コウスケが再び上昇してきてミユキの真下に背中を持ってくる。


『某の背に!』


 ミユキが浮くことを中断すると、どさりとコウスケの背中に落ちる。ふたばに覆いかぶさるように這い這いの体勢になった。


(う、意外と乗り心地がいいかもしれない……)


 宙を滑るように弧を描き、地面に降り立つ。と同時にミユキはその背から飛び降りた。


『あそこにいるエルフが、息絶えそうなのだ。魔力が枯渇しておる』


 どういうわけだか、少し離れた場所にエルフがひとり、いるらしい。

 暗くてよく見えないので、とりあえず、回復をとばしてみることにする。

 手のひらを下に向け、呪文を唱えた。


「な~おれなおれ~ルルラララ~~~ 全快満タン、フルパワ~~あそこのエルフさんに届きますように~~~」


(あ~~~やっぱ一度はバトンをふりふりやってみたいわ~ はっ! 魔法少女に変身してやればおかしくないかもしれない)


「大丈夫そうですかね?」


『うむ。魔力が満ちたようだ。あれなら結界が張れるであろう』


「こっちの守護竜さんはいかがです?」


『……だいぶ……進んでおる』


『………誰じゃ…』


「あ、こんにちは。はじめまして。私はミユキと申します。こちらはソール帝国近くで封印をされてました守護竜さんです。そして私の相棒のふたばです」


『コウスケと申す』


「いやあの、コウスケさんってのは私が勝手に

『構わん。コウスケと申す』………だそうです」


『こんなところに、何をしに来た。封印石を連れてきたのでは、なさそうだな』


「え? ええ。そうですね。その、瘴気ってどの辺から出てますか?」


『待て、そなたはなぜ妾の言葉が通ずるのか?』


(やっぱ、まずそれだよね~)


「コウスケさん、すみませんが、説明お願いします」


 ミユキは闇の空を見上げ、渦を探した。


「でかっ!」


 思わず声に出るほど巨大な渦が収縮を始めている。あまりに大きすぎて判り難かったようだ。まとわりついてくる瘴気の不快感が半端ではない。


「は~らいたまえ~~~き~よめたまえ~~~~」


 念じながら手のひらに力を込めていく。先ほどの渦よりも遥かに大きく感じるので、力も相当必要だろう。


(この星のみんなよ!オラに力を~~なーんてね……えっ?)


 突如体に衝撃を感じるほどに力がたまり、手の周りに集まる白い光が強く輝きを増す。その輝きだけで辺りの空気が浄化されていく。


(ええええええええぇ?)


 すでに全身が白い光に覆われている状態のミユキに、上空を見据えていたコウスケが低く唸った。


『今だ。頼みます』


「はいっ!」


 掛け声と共に手のひらを渦に向ける。


「行けッ」


 音もなく渦に向かう白い光を、二体のドラゴンが、ただ見つめている。渦がもがき苦しむようにうねりだした。


「そうは問屋がおろさないわよぅ」


 言ってみたかった台詞を口に出してみたが、使いどころを間違ってしまったようだ。慣れないことはするものではない。やはり無言を貫くことにしよう。


「………」


 某国際的スナイパーのように、無言でただただ、たたきこむ。


『おおっ』


 どちらからともなく、感嘆の声が上がった。


「もうひとおしっ!」


 拳を握りしめ、一度開いて力をこめる。

 渦が消えた真っ暗な闇の空に、稲妻のような一本の亀裂が、走った。





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