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「どうもすみませんでした!」
勢いよく頭を下げられては対応に困るしかない。
相手はどうみてもサラリーマン、しかも新人っぽかった。
いったいどこから湧いてきたのか。謎である。
みゆきは抱えていたビーグル犬を降ろしてみた。
…あくびをしている。やはり、のんきだった。
「あのう、わたし、死んじゃったんでしょうか?」
新人サラリーマンは目を逸らした。
「いえ、そうと決まったわけでは…」
(嘘くせぇ)
「やっぱり、バレてますよね?」
「……」
「すみません。これでも天使(見習い)でして、心は読めてしまうのです」
天使(見習い)は申し訳なさそうに言った。
紺のスーツに黒の革靴、新人はどこの世界も同じなのか?
みゆきは勤めている会社に春になると回ってくる不慣れな営業マン達を思い出した。
「そんじゃ、単刀直入にお尋ねします。
…死んじゃいました?」
「はぁ… すみません」
「で、天使さんがいらっしゃったということは、これから天国か地獄に案内していただくということですかね? 昔ト○とジェリーでみたでっかいエスカレーターは、やっぱりないんですかね?死んだら現世のマンガは読めないんですかね?お墓に供えてもらったら読めるんですかね?それとも作者さんがこちらに来られるまで待ったりできないんですかね?はっ?池○正○郎先生はどちらにいらっしゃるかご存じですか?」
「あっ! あのぅ」
新人サラリーマンが思い切ったように口を開いた。
「お亡くなりになりましたので、漫画の続きは諦めてください」
(ガーーーーン!軽く言いやがった!)
「それから、今回は天国も地獄もエスカレーターもございません」
「え? 今回はってことは…「それから世界が移動しますので、地球でお亡くなりになった方とはまだお会いできません」
(かぶせてきたよ、この新人…)
「あれ? 天国でも地獄でもないなら、どこに行けばいいの? はっ!無の世界?消えちゃうんですか?」
「何か…軽くおっしゃいますね。怖いとか寂しいとか、悲しいとか、心残りとかないのでしょうか?」
「えーと、天使さんは心が読めるのですから、聞くまでもないのでは?」
天使(見習い)は眉尻を下げてみせた。
「愚問でした。申し訳ございません」
「いえいえ。ではこれから先の予定についてご説明願えますか?」
「畏まりました。では、説明致します。長くなりますのでそちらにおかけください」
椅子があった。突然だが、もう、驚くこともない。
ここは何でもありなのだろう。
天使(見習い)は、情けない笑顔を浮かべた。
「全ては此方側の手違いにございます」
あぁ、こりゃ、巻き込まれ型だな、とみゆきはため息を吐いた。




