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「何をお召し上がりになりますか?」
シルーシスの問いにミユキは、はて? と首を傾げた。そもそも、こちらの世界の食文化からわからない。
「ありがとうございます。でも、ご都合がよろしければ、先にシルーシスさんのお願いをお聞かせ願いたいのですが」
「え? でもお食事は」
「遠いところでなければ、先に伺いたいのですが」
食べたら絶対に眠くなる。その自信はあった。
「シルーシス様のお屋敷ですか?」
ピンクブロンドの少年がにこやかに訊いてくる。いいかげん、名前を教えてもらわないとわかりにくくてしょうがない。
「あぁ、そうだ」
「そうですか。では、えーと、これも何かの縁ですので、皆さんお名前を教えて頂けますか?」
(魔道士6人と騎士2人、何とか覚えられたらいいけど、海外の推理小説ではカタカナの名前が覚えられず、何度も読み返してたんだよなぁ)
「僕サルモーです! そこの角を曲がった先で食堂付きの宿やってます!」
一番気になっていた、ピンクブロンドの美少女のような少年が自己紹介してくれた。瞳はエメラルドグリーンである。夕日の中なので正しいかどうかはわからないが。
「私はセーピアです」
黒の髪に深い緑の瞳。ひょろりとした背の高い子だ。
「僕はグラディウスです」
青灰色の髪に黒い瞳。浅黒い肌だ。
「アミアといいます」
金髪に、なんと紅い瞳である。夕日のせいではなさそうだ。
「スコンベルです。サルモーのうちの隣に住んでます」
こちらは青銅色の髪に青い瞳である。
「私はアングイラです。いきなり背後に立って申し訳なかった」
茶髪に濃い茶色の目をした騎士は申し訳なさそうに目を伏せた。
「いえいえいえ…… 私こそほんと、ご迷惑を」
ぺこぺこと頭を下げているとその隣の白魔道士が自己紹介をしてくれた。
「ロンブスです」
微笑む金髪に緑の瞳、怜悧な印象の美少年である。皆さん綺麗なお顔揃いで、何となく申し訳ないミユキであった。
「ミユキさん! シルーシス様のお願いが終わったら、うちに来てくださいよ! 宿もありますし、お泊まり下さい」
「え」
「異世界のお話を聞かせていただけたら、お代は頂きませんよ」
サルモーくんが輝かんばかりの笑顔で微笑んだのでミユキは絶句した。眩しいのは……若さなのか、髪の色なのか、夕日のせいなのか……
「う、ありがとうございます。泊まるところはどうしようかと思ってました。でも、この子も一緒で大丈夫でしょうか?」
「もちろんです」
「ありがとう…… 私にできることなら何でもしますので、よろしくお願いします。では、
サルモーさん、スコンベルさん、グラディウスさん、アミアさん、セーピアさん、アングイラさん、ロンブスさん、今日はありがとうございました。では、シルーシスさん、参りましょう」
深々と頭を下げるミユキに一同ギョッとしていたが、同じように頭を下げた。
ロンブスとアングイラはミユキ達の後から一緒に歩き出す。ミユキが振り返ると、ロンブスにこりと笑った。
「家が近いんですよ。幼馴染ですしね」
「は〜〜〜〜」
幼馴染の3人組……。
何だか生温い気分になって遠い目をしたミユキであった。
ぶらぶら歩いているうちに、住宅街のような地域に入っていた。と言っても、高級住宅街である。庭が広く、門から家までが遠いのは万国共通なのか?
「おまじないをして頂きたいのは妹なのです」
シルーシスは、道すがら説明した。
幼い頃、魔法で遊んでいて2人で火傷を負ったこと。
それが原因で、妹はひきこもっていること。
(何だかめっちゃ期待されてるけど、大丈夫なのかね? 失敗しても打首とかならないよね)
「あの、先程のはもしかしたら偶然できちゃっただけかもしれませんよ?」
保険は、かけておかねば。
「ええ。わかっています。これまで色々な方法を試してきましたが、うまくいったことはありませんでした。もう、諦めなくてはいけないと、わかっていたのですが……」
自分の掌を見つめ、唇を歪めた。
アングイラが黙ってそれを見つめていた。
(なんか、容易に人間関係が見えてきた気がする)
門の前でシルーシスが立ち止まった。
この一帯でも群を抜いた大きなお屋敷であった。
(おぼっちゃまだったのか〜〜!?)
玄関に居並ぶリアルメイドさん達に出迎えられ、平然と歩む3人に若干引きつつも、お屋敷の中に入ったミユキなのだった。