三島悠の悩み
説明回になってしまいました。すみません...
翌日、桜井さんは学校にいなかった。
...
「最近は『崩壊』がよく進んでるよなぁ。」
今日は太陽が照りつける真夏日だった。
今は11月である。
「なぁ、田中。」
「んあ?」
「...。あ、いや、アイス、買いに行こうぜ。」
昼休み
いつもの騒がしい教室だ。
そう、いつもの、実に平和なものだ。
教育の必要性がなくなった学校の実に平和な昼休みだった。
それはそうだろう。高校なんて専門知識に近いものを習うところだし、なにより義務教育じゃない。もう世界が終わるのだ。学んでも生かせる場所がない、そんなところだろう。
日本の政府は中学以下の義務教育を除くすべての教育機関の停止を言い渡していた。
だが学生にとって学校は安心の象徴でもあった。これからどうなるかもわからない我が身の不安を少しでも無くすために学校に集まっていた。
それは先生にとってもそうであったのだろう。学校に来て、ちゃんと職員室にいる。
授業の時間になればみんな席につく。だが何をするでもなく駄弁っているだけだ。
模試とかそういった類いのものは予備校が生きているのでまだ辛うじて存在していた。俺は他になにもすることがないのでたまに受けていた。
そう、もって数年早くて数ヵ月と余命宣告をされた世界において人は何もかも投げ出すことすら『飽きた』のであった。
だから俺たちはこうして生きていけて、町や県や国は回っている。
なにもしないより、普段通りの生活を送ることを人は選んだのだった。
「日本は運がいいよなぁ。」
「そうだなぁ、イタリアだったかな先週『無くなった』のって。」
「まぁ南部の辺だけだがな。」
少しだけ溶け始めたバニラ味の甘いアイスで喉を潤す。
「日本もいつポッカリ消えちまうかわからないなぁ。」
「そうだなぁ。.....あ、お前そういや桜井さんにお呼ばれされたんだって?」
「げ、そんな情報どっから流れるんだよ。」
溶けていないところをほじくり返しながら答える。
「バカか、なんか堂々と車でお迎えがあったらしいじゃないか。そんな堂々としてたら誰でも知ってるわ!!...で、どうだったの。」
「どうって...何も、お礼言われただけ。」
「おいおい!お近づきになれたんじゃないか!そこら辺の一般ピーポーよりは多少だがちょびーっとばかしランクは上がったと思うぞ?」
人差し指と親指の間に隙間を作ってそこから片目で田中が覗き込んでくる。
うぜぇ。
「うぜぇ。」
「あ、お前今思ったことそのまま口にしただろ!?ひでー、親しき仲にも礼儀ありって言葉知らねぇのか!?」
仏頂面の田中である。
「べつになにもねぇよ。」
気になる節ならあった。
桜井さんは俺のことを何も知らないと言った。
私の何でもないとも。
でもなんだか、それはただただお友達未満って意味じゃなくて、
あの表情はなんというか
助けてほしい、そう言っているような気がしたのだった。
思い込みかもしれない。女性の気持ちなんてわからないものだ。
でも、なんだか胸騒ぎがして仕方がなかった。
結局この一週間、桜井さんが学校に来ることはなかった。