彼女の秘密
桜井さん回です。お待たせしました。
次の日、昼休みに呼ばれたので桜井さんのクラスに行ってみた。
「お、悠じゃん。どうした今日は田中なしバージョンじゃん。」
「うるせぇ、田中といっつも一緒にいる訳じゃねぇよ!!」
「そうかぁ~、田中はただの田中になっちまったかぁ。」
理不尽な言われようの田中だがそれはいつもの事だ。教室をぐるっと見回すと窓側の席に桜井さんがこっちを見て座っていた。
ゆっくりとそっちに向かって歩く。
き、緊張してるわけじゃない、決して。
「ど、どうしたの?」
努めて平静に言えた...気がする。
「昨日はありがとね、三島くん。」
微笑んで桜井さんが『言った』。
ざわついてた教室が静まり返った。
それは一瞬だけでまたざわついた雰囲気に戻ったがどこかぎこちなく、こっちを気にしているようだ。
俺は言葉に詰まった。
そんな回りの様子は気にせず桜井さんは
「爺から話は聞いたわ。三島くん、放課後は暇?」
「あ..う、うん。」
かろうじて、それだけ言うことができた。
「それじゃ、放課後に校門の前で待ち合わせね。」
それだけ言うと桜井さんは教室を出ていった。
冷や汗がどっとでた気がする。
「お、おい悠。お前桜井さんと...いやそれより、桜井さんって...その...喋れるのか?」
「お、俺もわかんねぇよ...」
周りもざわつく。そりゃあそうだ。みんな今まで桜井さんが一対一で喋ってるのを見たことがないのだ。
それなのに、今日今、目の前で喋った。俺個人に対して。
大勢と話してるときとかは確かに喋ってる。
人気者の桜井さんだ、下心で話しかけにいった輩も少なくはない。だがことごとく返事は携帯に打った文字を見せられるだけだ。
「でもこのちゃん、仲の良い子と駄弁ってるときとかも、携帯使って話してるよ?...演技してる風では無かったなぁ。」
近くの女子がいった。確かに女子と話してるときもそうだ。いつも話しかけられると桜井さんは困ったようにはにかんで携帯を取り出すのだ。
あれは演技じゃない。
でも...なんだか俺と話した桜井さん、
目が笑ってなかったな。