花火の後
夜ロッジにて
「やって参りました!夜!!」
田中の言葉に謎の拍手。
「夜といったらあれだよな!!」
「「うおおおおお!!」」
迷惑にならないよう静かに精一杯叫ぶ野郎の集団。その真ん中にたつ田中はさらに勢いよく言う。
「男だって話したい!そう!!」
「「コ・イ・バ・ナ!」」
この一体感はどうやったら出るのかと部屋の端にいた三島はボーッと眺めていた。
「じゃあまず俺から!」
勢いづいた田中はエアマイクを持って自分の恋を熱く語り始めた。
その恋ばなも終わりが近づいた頃、
「それでー?いったい誰が好きなんだよー!」
誰かの冷やかしを切っ掛けにそーだそーだ!とつられて皆が冷やかしを始める。
上座にたつ田中はビシッと決めポーズを取ると、
「誰かって?そう!!俺は女性そのものを愛しているの!っさ!」
そう言い放った。
当然回りからの反応も予想がつくもので、
「なんだよそれ!」
「ぶー!ぶー!」
「帰れ帰れ!!」
大ブーイングの嵐だった。俺の回りの人も野次を飛ばしていて、つられて俺も野次を飛ばすとなんだか楽しくなってきていた。
まだ深夜はほど遠かったが皆で騒いで深夜テンションに入っているのだろう。
「はい!じゃあ次僕行きます!」
前の方にいた誰かが手を上げて田中と場所を交代する。
なんだかんだで俺はその様子に見入っていて、この一団の中にいつの間にか加わっていたのだった。
...............
「次、悠だぞ。」
ふいに皆の目が俺に向けられる。急に恥ずかしくなってきたが郷に入っては郷に従え。ここで断れば場が覚めてしまうと自分に言い聞かせて俺も上座に立った。
「えーっと俺は...」
誰だ誰だー!
早く言えよ!!
そんな風に訴えてくる目達から少しだけ視線を反らしながら
「桜井さん...かな?」
そうボソッと呟いた。
すると初めは静かだった場が一気に盛り上がる。
「おおおい!かな?じゃねぇだろ!絶対好きだろ!!ラブだろ!!」
「男だろ!はっきりいえよ!!」
その様子に若干気圧されながらも俺は大声を出した。
「はい!桜井さんです!!」
「知ってるよ!!」
「バレバレなんだよ!!」
またすぐに始まる野次。俺もさっきまで色んな人に飛ばしてきたから我慢する。だがこれだけは言っておきたい。
「言えっていったのお前らだろ!?」
理不尽だ。全くもって理不尽だ。俺が何をしたって言うんだよ!!
なんて、そんな俺の心の叫びは誰にも届かない。
「はいはい!しつもーん。悠は桜井さんのどんな所が好きなんですかー?」
妙に間延びした、ニヤついた声で質問される。お陰で野次は終わったものの中々に言いづらい質問だった。
「そうだなぁ....仕草とか?笑顔?まぁとにかく!わかるだろ!?あの可愛さ!」
しどろもどろになんとか答えると、俺と同じく桜井さんの名前を出していた友人、もとい『ライバル』が、
「「わーかーるー!」」
と、同意の声をあげてくれる。
「でもぶっちゃけ、あれだよな。」
不意に田中が俺を見る。
「悠、桜井さんとなんかいい感じだよな。」
すると、ざわっと一瞬で空気が冷たくなった。
....うん、これあれだよな。『殺意』だよな。うん。
さっき賛同してくれたライバルもそうじゃない他の皆もギロっと俺を睨む。
これは弁明しないとやばい。
「ま、待てって。ただ仲がいいだけだろ?な??」
だがそんな弁明も虚しく、
「お前ぇ!黙っていたらいい気になりやがって!」
「リア充滅ぶべし!!」
「もう俺は桜井さんに振り返って貰えないのか...。」
「悠のくせにぃ!」
恨むぞ、田中。
またもヒートアップしたロッジ内。
「もうこくっちまえよ!」
「「そーだそーだ!!」」
あ、これヤバイやつなんじゃ...?
誰かの一声に口火を切られてさらに盛り上がってしまう。
「はい、コックーれ!」
すると田中が音頭を取り始めた。
調子の良いやつめ、あとで覚えてろ...
俺が一人田中への恨みを重ねても状況は変わらず、
「「「コックーれ!コックーれ!!」」」
皆手拍子をしながら俺にじりじりと詰め寄ってくる。
「む、無理だって...。」
逃げようとするが雰囲気がそれを許さない。
「あ、じゃあさ。お前も行っちゃえよ。委員長が好きじゃなかったっけ?」
不意に田中が音頭を取るのをやめて隣のやつに話を振った。
またしても田中の爆弾発言。だが今回は俺にとってはナイス!
「え、ほんとに?」
話を振られた奴も動揺するが、田中は次々と他の人の腕を取っては話しかける。
「お前も、お前も。皆で行っちゃおうぜ!」
途端に先程とは別のざわめきがロッジを満たす。
さすがにやり過ぎな気がしなくもないが....
「マジで行くのか?」
ちょっと乗り気になったのか、田中に念押しをする奴もいる。
「おうとも!俺も行くぜ!...片っ端から告る!!」
「「いやお前それ絶対嫌われるやつ。」」
するどい突っ込みがハモって少し空気が和らいだ。
「まぁでも皆行くなら悠も行くよな?」
こいつ、調子いいことばっかり言いやがって...
だがこの修学旅行のテンションが後押ししてかなんだか告るのも悪くないような気がしてきていた。
実際俺は桜井さんのことが好きだったし、ここ最近距離が近くなってより強くそう思うようになってきているのもまた事実ではあった。
「そこまで言うなら、まぁ行ってもいいけど?」
あくまで田中が言うから、といった風を装ったが田中は満足そうに頷くだけだった。
フラれたらどうするのか、とかそういった心配は心臓が別の生き物になったかのような、この妙なテンションのせいで考えられなかった。
「そうと決まれば行くぞー!」
田中がいきなりロッジから出ようとするのを
「「待て待て。」」
皆で引き留めた。
「あのなぁ、全員が全員田中みたいに気楽に生きてないの!!」
全員の声を代弁した声に俺を含め皆が頷くが、
「ん?どういうことだ?」
田中一人だけわかっていないようだった。
「つ!ま!り!」
「「時間をくれー!!」」
納得いかない様子の田中が見守るなか結局俺たちが悩み終えたのは時計の短針が10をちょっと過ぎた頃だった。
.............
ドアをノックする手がこんなにも重いとは。
一度意を決しはしたが夜風に当たるとどうも冷静になった気がしてならない。さっきのテンションを取り戻すために一度大きく息をはいて、それからまた吸って三島はドアをノックした。
何故だか一瞬女子がいるロッジの中がざわついた。が、それもすぐ収まり、はーいと中から声が聞こえてきた。
ドタドタと音がしてガチャと開いたドアから顔を覗かせた女子の一言目は
「あー、この量は予想外ねぇー。」
だった。
どういうことだ?と疑問を浮かべるよりも先に、
「んで、誰が誰に?」
と聞かれて俺は事態を理解した。
つまり、女子側も恋ばなをしていて誰か来るんじゃないかと思っていた、といったところだろう。
「そういうこと?」
ただ一言それだけ言ったにも関わらず、返ってきた言葉もまた、
「そういうこと。」
だった。
乙女心は分かりにくいが妙なところで共通点を見つけてしまった。
「まぁ結論から言うと、ここにいる皆。」
「え、うそ。」
本気でびっくりしているようだった。まぁそりゃあこれだけいればなぁ。
と三島は後ろを仰ぐ。
それからまた向き直って、
「って訳だから呼んでくれないかな?俺たち並ぶから。」
大真面目に言ったつもりだったのだが、案の定思い切り笑われた。
「告白ってそんなお行儀よく整列してするものじゃないでしょー。....わかったわかった!呼んであげるからちょっと待ってて!最初は誰!?」
俺が振り返ると一番前にいた奴が真っ赤な顔をして進み出た。
「えっと!...僕は委員長が...」
「ええ!私!?」
ついに始まってしまったか....
三島はまた緊張し始めた胸に手を当ててそっと列の後ろの方に回った。
...............
前にいたやつが玉砕して順番が回ってきた。止まらない手汗をズボンで適当に拭って俺は一歩進んだ。声に出して桜井さんの名前を出そうとするが楽しそうな声に先手を取られてしまった。
「えーっと三島くんはこのはちゃん...だよね?」
最初にドアから顔を覗かせてくれた委員長が、今は一人の男子と手を繋いでいた。なんだか複雑な気持ちで見ていると、後ろに繋いだ手を隠されてしまった。
「あ、うん。」
やはり俺の気持ちがバレていたという照れを隠すために用意していた告白の言葉を頭の中で繰り返す。
呼びにいってくるねと言われた言葉さえも聞こえないくらいに心臓はドキドキしていて、緊張で耳鳴りが酷かった。
気を紛らせようとロッジの中の音を聞こうとするが、かえって桜井さんが来るタイミングがわかってしまいそうで逆効果だった。
上った階段を降りてくる音がする。
いたのだろう。
段々と近づいてくる音に一層拳を固く握ったが心臓は静まってはくれなかった。
ドアが開く音がした。
俺は熱っぽい息を大きくはいた。
言いたいことは決まってる。
後は伝えるだけ。
「このはさん!えっと、俺は....」
「あ、あの三島くん。」
本来桜井さんが相手だったら返ってこないはずの『声』。
何が起こったかわからず混乱する頭で顔をあげる。
するとその持ち主はさっき呼びにいってくれた委員長だった。
後ろには誰もいない。
「え?あの....桜井さんは?」
俺が聞くと委員長は申し訳なさそうな顔で理由を告げた。
「えっと...このはちゃん、今出たくないって。」
ああ、なるほど。
俺の緊張が一瞬で冷めていくのがわかった。
そういうことか。
「あ、違うの!!このはちゃん、三島くんより前に来た人にも同じように出てこなかったの!...だから私はてっきり三島くんに告白されたかったんだろうなって、そう...思ってたんだけど.....」
委員長が、俺に気を使ってか必死に弁解してくれる。
なんだかそれが居たたまれなくなって俺は無理に笑顔を作った。
「大丈夫、わかってるって!なんかきっと事情があるんだよ。疲れてるーとかさ!俺はまた今度の機会に言うよ。」
嘘だ。もう告白はしないだろう。
だって俺は振られたんだ。
来ないってことはそういうことに違いない。
俺は顔を伏せたまま次の人に番を譲るために列から抜けた。
自分の告白が成功にせよ失敗にせよ終わって、また騒いでる男子のところには戻らず、ひとり三島は自分のロッジに戻っていった。




