秒読みの青空
お久しぶりです!更新遅くなってすいませんでした!!!
「だから!何もないって!!」
もう何度目かの同じ質問に対して照れ半分に答える。
桜井さんと何があったんだというニュアンスの質問だ。
まぁ自分が逆の立場だったら同じことを聞くだろうから怒るに怒れない。
学校の男子の憧れたる桜井さんと、前まであまり繋がりがなかった男子が、朝から一緒に登校してきたというのだ。
.....うーん、大ニュース。
我ながら他人行儀な感想だった。
『ね、悠くん。』
何事かとこの事態に驚いている桜井さんの言いたいことを汲み取って、群がっている人を掻き分けて進む。
「おい悠。お前なんで桜井さんと.....
「だーーー!わかった、聞きたいことはわかってるから!!!」
キリがないと判断して桜井さんを引っ張って速く歩く。
「行くよ、このはさん!」
え、このはさん?
このちゃんと三島くんってそんな仲だったっけ?
おい嘘だろ、悠...
やっべ。口滑らせた。
回りの人たちの目が俺たちを捉える。
「このはさん。」
俺は前を向いたまま小声でいった。
桜井さんがぎゅっと俺の手を握る。
今度は逆に俺の言いたいことを感じてくれたのだろう。
「に、逃げろー!!」
俺たちは全速力で人の間を走り出した。
あ!悠が逃げたぞ!!追いかけろ!
このちゃんと悠君ってそういう関係だったんだぁ
悠!抜け駆けはずるいぞ!!
追え!捕まえろ!!
ぉぉぉぉぉぉぉ......
..................................
はぁはぁはぁはぁはぁ、はぁ。
「何とか...逃げ切れたね、ふぅ。」
桜井さんも膝に手をついて肩で息をしている。
ここは校舎裏の人目につかないところだ。
『何で追いかけてくるんだろ。』
「あー、まぁ妥当って言えば妥当っていうか....」
わざわざ理由を説明するほど野暮でもない。
『私、久しぶりに全力で走ったかも。』
えへへと笑う桜井さん。
....訂正、この笑顔こそが理由のひとつだろう。
キーンコーンカーンコーン
「あ、チャイムだ。...どうする桜井さん、教室に顔出してみる?」
『もうちょっと、このまま。』
ふうと一息ついて桜井さんも息を整える。
「それじゃ飲み物買ってくるからそこのベンチ座ってて。」
今日は夏晴れの超快晴日だ。
校舎の影からでてその太陽の暑さに目を細める。
どこが一番近いか考えて、昔使っていた自販機を思い出してそこを目指す。
「抜け駆け、か。」
逃げるときに言われたことを思い出して声に出してみた。
なんとも口の中で甘酸っぱい響きだった。
ふと見た窓ガラスに写る自分の顔がニヤついていて慌ててもとの表情に戻す。
そういう関係、ではないけどなんだか少しだけそういう風に見られているのが嬉しい。
「なれたらいいな。そんな関係。.......っと、あれ?」
目的の場所についたはいいがその自販機とその回りがぽっかりと『無くなっていた』
「あー、ああー。崩壊の影響かぁ。」
俺は一番近い自販機を諦めてよく使っている校舎の表にある自販機まで走っていった。
.................................
「このはさん!お待たせ!!」
校舎裏に戻ると桜井さんはベンチに座って空を眺めていた。
気温は高くて暑いが、校舎の影のお陰で爽やかな風が吹く。
『綺麗よね。』
俺もつられて雲ひとつない青空を見上げた。
「あ、はいこれ。」
よく冷えた缶を手渡す。
にこりと笑って桜井さんは受けとるとちょびちょび飲み始めた。
俺もコーラを開けて一気に飲む。
「綺麗だなぁ。」
真似してひとつ声に出してみた。
二人の前をそよ風が通りすぎる。
『ねぇ、悠くん。』
「なに?」
『消えるってどういうことだと思う?』
桜井さんは空を見上げたまま携帯だけ俺に向けて話をする。
「え....うーん、どこかにいっちゃうこと?かな?」
哲学的な問いに戸惑いながら自分なりの答えを言ってみた。
『どうなんだろうね』
そう打ってこのはさんは少しだけ笑った。
『崩壊ってそこにあったものが消えちゃったりするじゃない?』
「ああー、確かに。さっき久しぶりにこの近くの自販機行ったら『崩壊』のせいで無くなっちゃってたなぁ。」
『そう。』
サァァァァァァ
「悠くんは、忘れちゃったのね。」
強い風が吹いた。
「え?なんかいった?」
『何よ、私喋れないんですけどー!』
膨れっ面で背中を叩かれた。
「は、はは。そうだよな、ごめんごめん。」
聞き間違い、か...
『私ね、消えるって忘れられることだと思うの。』
「忘れる....」
『うん、皆から忘れられたもの。そんなのって存在しないのと一緒じゃない?』
「まぁ、そうだなぁ。」
哲学だ。難しい...が、わからなくもない。
『私ね、だから見たり聞いたりしたものぜーんぶ、忘れたくないの。』
「すごいなぁ、このはさんは。」
俺も、何か......うん....それなら俺は桜井さんとのこの時間は絶対に忘れないようにしよう。
『でもね、私とっても大切な髪留め無くしちゃって....これって、私が忘れちゃったから消えたのかな?』
桜井さんは思い出したように落ち込んで下を向いた。
髪留め...何か引っ掛かるものを感じて自分のポケットを探ってみた。
「あれ、これ?もしかして。」
いつのまにかポケットに入っていたピンクの髪留め。
それを見た桜井さんの顔が晴れやかになる。
『そう!それ!!』
嬉しそうに手にとって眺めている。
「あー、俺どこで拾ったっけ?」
空を見上げても思い出せなかった。
『悠くん!ありがとね!!』
早速髪留めをつけながらとびきりに笑う桜井さん。
「よかったよかった。」
俺もつられて笑った。
......ああ、こんな風に純粋に笑う人がいるのに、もうこの世界は終わるって言うのか......そんなのって、なんだか.....嫌だな。
終焉が近づく、そんな天気の良い日のこと。
どうでしょうか、少しだけ世界の謎がわかりましたか?