シナモンティー
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客間に戻るとメイドさんがシナモンの香りがするお茶を出してくれた。痛かった頭もほっと一息つくと、随分落ち着いた。
『大丈夫?』
不安そうに桜井さんが見てくる。
「ああ、うん。大丈夫だよ。ごめんね?心配かけて。」
...嘘だ。いや確かに頭痛は収まった。が、この状況が大丈夫じゃない。...隣に桜井さんがいるというのだ。
さっき客間にいたときは机を挟んで向かいのソファーに座っていたのに、今は隣に座っている。
仲良くなったとはいえ、さすがにドキドキするものだ。
「そういえば、ご両親は?さすがにお泊まりするってなると、挨拶をしておいた方が....」
胸の音に気づかれまいと話を振ってみた。
『お父さんとお母さんは政府の仕事に就いているの。だからここ何ヵ月も帰ってきてないわ。』
「あ、それってもしかして、世界の崩壊を食い止めるってがんばってるとこだよね?」
『ええ、そうよ。』
不思議そうに桜井さんが見つめてくる。
何で知ってるの?とでも言いたげだった。
俺はどや顔をして、
「実は俺の父さんもそこで働いてるんだ!...もしかして、俺たちより先に三島家と桜井家は繋がりがあったのかもね。」
と言った。すると桜井さんは、目をパチクリさせた後笑って、
『そうかもね。』
と打ってコロコロと笑った。
そんな風に俺たちは夜が深まるまで他愛もない話で盛り上がった。学校のこと、趣味のこと、好きな本や好きなアーティスト。友達のこと。中でも桜井さんは田中のことに食いついた。
...ちょっと悔しいけど。
『田中くんっていつもああなの?』
「ああって?」
『その、なんていうか、田中は田中って皆言ってるから....』
思わず吹き出してしまった。
『な、何よ!仕方ないじゃない。皆そういってるんだもん。』
...唇を突きだす桜井さんをかわいく思ってしまったのは内緒の話だ。
「ま、まぁ確かに田中は田中だな。」
.......
メイドさんが作ってくれたシナモンティーがポットの中から無くなる頃にお開きになった。
『それじゃ、今日はこのくらいにしておこっか。』
桜井さんはそう画面を見せると、ドアを開けて外にいたメイドさんに何か伝えた。
「三島様、こちらでございます。」
俺はメイドさんに続いて部屋を出ながら桜井さんの方を振り返った。
「また、明日。おやすみ!」
桜井さんは手を振って優しく笑った。
.......
広い屋敷の中を進みながらメイドさんから屋敷の説明を受けた。
「...浴場は朝からご利用頂けます。お手洗いはこの廊下の突き当たりにございます。....他に質問はございますか?」
俺は首を横に振った。
「では、朝食はいつ頃にいたしますか?このは様は7時半のご予定ですが。」
「あ、じゃあ同じ時間でお願いします。」
「かしこまりました。何か困ったことがあれば近くのメイドにお申し付けください。...ここが三島様のお部屋となります。」
たくさん並ぶ扉のひとつを開けてくれた。
「どうもありがとうございます。」
「いえ、ごゆっくりお休み下さい。」
メイドさんはにっこり笑うと扉を閉めた。
中は客間より少し小さいくらいではあったがそれでも充分すぎるくらい広かった。
俺は母に今日は泊まっていくとだけメールして、1人がけのソファーに座った。
...今日は本当に色んな事があった。つい昨日まで、いや今日の朝までこんなことになるとは思ってもみなかった。
憧れの、片想いの相手の桜井さんとこうして他愛もないことを話して、二人で笑って。
ちょっと勘違いしそうだ。もしかして桜井さんも俺のこと...
いや、ないか。桜井さんは皆に優しいのだ。
...でもここまで近づけたのだ。上出来じゃないか?
俺はニヤつく頬を叩いて今日は寝ることにした。
浴場には朝一で行こう。
気を抜くと、疲れていたのか急激に眠たくなって、三島は目を擦りながらベッドに入った。




