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レガン戦記  作者: 高井楼
第二部
66/142

クイラ・クーチ・5

 ──いったい、なに?

 周囲に目を配りながら、建物の壁から壁へと移動するクイラは、必死だった。

 敵なの? 味方なの? ほんとに、なんなの?

 見あげた飛行船からの、突然の砲撃。爆音。爆風。

 戦車にもう少し近いところにいたら、自分も巻きこまれて、生きてはいなかっただろう。

 砂と汗にまみれたクイラは、九死に一生を得たと安堵しながらも、冷静に状況を判断しようとしていた。

 といっても、考えることは、それほど多くはなかった。

 とにかく、ここにとどまるのは危険だ。隠れるにしても、この区画は避けなければ。

 船は知事局の上に固まって停まっているけど、またいつ砲撃されるかわからない。

 クイラは、アサルト・ライフルをしっかりと握り、様子をうかがいながら少しずつ後退していた。

 本当は一気に走りたいけど、とクイラはたどりついた壁を背にして、獣のように俊敏にあたりに目を走らせながら思った。

 でも、変な気配が、そこら中でする。船から降りてきたやつらだ。まだ遠くからしか見てないけど、あの動きは人間とは思えない。あれが、よく耳にする「静導士」ってやつか? でも、なんか違う気がする。気配にしても、生き物という感じが、まるでしない。

 クイラは、横の大通りの反対側の、崩れかけた建物の壁に目をやった。なんにしても、とにかくこうやって、見つからないように逃げるしかない。

 クイラは、とっさに通りを横切ろうとした。その間も、心の中では不気味な気配の正体について、あれこれと考えていた。

 それがクイラに、普段にはない油断を生じさせた。

 ……!

 通りの真ん中で、突然クイラは立ち止まった。そして、顔を左に向けた。

 ほんのつかの間、時間が停止した。

 クイラの視線の先に立つ、異様な者。

 生白い装甲服をまとい、両手で小銃を持っている。

 灰色の顔面は、人のものではない。人の顔をかたどった、のっぺりとした義顔だ。

 毛髪のない、卵のようなその奇怪な頭部は、見る者の目にいかにもおぞましく映る。

 だからクイラの次の行動は、恐怖からくる本能だった。

 敵か味方か、そんなことを思う余裕はなかった。

 クイラは一瞬でその奇怪な者の背後にまわりこみ、後頭部に自分の持つアサルト・ライフルの銃口を当て、トリガーを引いた。

 フルオートでたちまち無数の銃弾が頭部をつらぬく。

 銃の仕組みなど知らないクイラは、発射の反動に驚き、弾を打ちつくすまでトリガーから手を離さず、握りしめるしかなかった。

 ゴン、と硬い音を立てて、白い者は前に倒れた。それを見て、クイラはハッとした。血、いや、真っ黒い液体が、路上に広がっていく。やっぱり人間じゃない、機械なんだ。

 おそるおそる覗きこんでみれば、破壊された頭部も、機械のそれだった。

 でも、と、クイラは倒れた身体の、腰の後ろに目をやった。

 革のケースに入ったナイフ。いや、ナイフより長い。ほとんど刀剣に近い。ギザギザのすべり止めにおおわれた、黒いグリップがまがまがしい光を放っている。

 こんな刃物まで使えるの? そんな器用な機械なんてあるの?

 そのとき、クイラの全身に電気が走った。

 思わず硬直して棒立ちになりながらも、クイラは辺りに目をやった。

 しまった……。

 通りの真ん中に立ちつくすクイラを、取り囲む白い者たちがいた。クイラは弾切れのアサルト・ライフルを持つ両手を下げて、また刃物に目を落とした。

 砲声が、それほど遠くないところで、ひっきりなしに響いている。

 クイラは、ガラッと銃を足元に落とした。

 ──やるだけやるよ。

 クイラは自分にそういいきかせた。

 生きるか死ぬか。クイラの心に、再びそんな言葉が浮かんだ。生きるか死ぬか。……わからない。でも、やるだけのことはやる。生きるために。

 全身の細胞が、一気に湧き立つような感覚を、クイラは覚えた。


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