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レガン戦記  作者: 高井楼
第二部
43/142

予兆・4

 同じころ、中枢卿団・副団長ケイ・エルフマンは、自身の飛行艦隊の旗艦「オステア」の、長官個室のデスクでイライラしていた。

 いま艦隊は、軍から接収した陸上部隊の第十六師団がいる、ヴァキ砂漠のレンという町にむけて、まっしぐらに進んでいた。

 同じ砂漠にあるリターグ聖自治領の、異能者集団『知事』、そのトップ・エースのロー・エアハルトに深手を負わせられ、カイトレイナに撤退したのは、昨日の昼のことだ。

 そして今日の朝に復帰して、戦線に戻ろうと思っていた矢先に飛びこんできたのが、カイトレイナにいるマッキーバの行方不明のしらせだった。

 団長の命令でやむをえず探してみれば、あろうことか、みょうちくりんな二人組相手に息も絶え絶えの様子。自分が助太刀すると、二人組は姿を消し、その後、マッキーバからいきさつを聞かされたのだった。

 そこまではよかった。むしろマッキーバに貸しを作れたのだから、喜ばしいことだった。

 エルフマンのイライラの原因は、卿団の第三隊長、ルケ・ルクスにあった。

 『卿団の凶器』とまで呼ばれる、大陸屈指の精神攻撃者で、海の西部戦線ではなく、砂漠から攻めこんだ中央戦線の卿団部隊を、いまはひとりで統括している。

 生意気な子供のような、いけすかない男だが、共に『知事』と戦い、意識不明になった自分を助けてくれたのは事実だ。

 午前中に、マッキーバがそのルケに、エンディウッケやほかの二人組のことを聞くため、連絡を取ったのだった。同じ精神攻撃者として、なにか情報をもっているかもしれないと踏んでのことだった。

 しかしルケの応対がけんもほろろだったことは、そばにいたエルフマンには空気だけでわかった。

 マッキーバは話を終えると、むっつりとした顔でエルフマンに携帯通信機を渡した。ルケが話したがっているとのことだった。エルフマンは怪訝に思いながらも、通信機を手に取った。

「なにかしら?」エルフマンはつっけんどんにいった。

「お元気?」電話越しに、ルケが軽い調子でいった。

「あなたの不愉快な声を聴けるくらいは、元気よ?」エルフマンはしらっとかえした。

「で、いつこっちにもどってくるの?」

「明日の午前中には、レンに着いてよ」

「ああ、それじゃ遅いよ」ふいにルケの声がするどくなった。

「どういうことかしら?」

「教えない」

 エルフマンは怒りにまかせて通信機を切ると、しばらくその場で思いにもならない思いをめぐらせた。そしてマッキーバと別れてから、艦隊の整備を急がせ、いまこうして航路についているのだった。

 〝それじゃ遅いよ〟

 エルフマンの頭の中では、ルケの言葉が不吉に響いて離れなかった。

 ──なにが遅いっていうのかしら。

 エルフマンはデスクの椅子から立ちあがり、部屋の中をうろうろしながら考えた。

 たしかにレンまでは遠い。エアハルトたちとやりあったハイドスメイから、さらに千五百キロ南にある。艦隊を引き連れていれば、着くのはどうしても日付が変わってからだ。でも、当初は明日の午前中の予定だったのが、このままいけば早朝には到着しそうだ。それでも、遅いのかしら。

 エルフマンはルケに問いただしたくてしかたがなかった。さきほどから何度も携帯通信機に手を伸ばしかけては、そのたびにこらえていたのだ。

 ──まあいいわ。

 ソファーにドサッと腰をおろしたエルフマンは、気を落ち着かせようとした。

 どのみち、これ以上早くは着けないのだから、悩んでもしかたない。第一、戦況はアイザレンが優勢をたもっている。エントールやリターグの軍が攻勢をかけたところで、今日明日にレンが落とされることはありえない。レンにいる副長のピットとこまめに連絡を取り、警戒をおこたらなければ、なにも問題はないはずだ。そう、リターグの『知事』や、エントールの静導士でも来ないかぎり。

 エルフマンはソファーに座ったまま、じっと前方の一点を見すえた。

 気持ちはいっこうに晴れなかった。

 それどころか、なにか得体のしれない嫌な予感が、胸にじわじわと広がっていた。


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