第九話
午後一時三十分。木原と神津は新宿区にある菅野弁護士事務所へ向かう道中、助手席に座っている神津の携帯電話は合田警部からのメールを受信した。そのメールには四名の免許証の写真が貼られていて最後に一文このように記されていた。
『この四名が今回の事件の容疑者の可能性が高い。菅野弁護士への聴取が終わったら四人について調べろ』
神津がメールを読み終わると木原が運転する自動車が菅野弁護士事務所の駐車場に停車する。
その事務所は、一階建てで煉瓦造風の正方形の建物。
その建物のインターフォンを木原が押すと弁護士事務所のドアから赤いフレームの眼鏡をかけたお河童頭に長身の男が姿を現す。
黒いスーツを着ているその男は手帳を取り出しながら二人の顔を見る。
「菅野弁護士事務所で弁護士秘書を務めています柳楽新太郎と申します。何の御用でしょうか」
その男は菅野聖也ではない。二人とは初対面の人物。木原たちは仕方なく警察手帳を見せる。
「警視庁捜査一課の木原です。菅野弁護士にお話しを伺いたいのですが」
「菅野さんは外出中なんですよ。一応菅野さんと僕の名刺を差し上げますのでお引き取りください」
「そうはいかないな。柳楽新太郎。あなたは午前十時五十三分から午前十時五十六分に。新宿区の地下道の中にいた。その時に何かを見ていないのか」
神津の質問を聞き柳楽は手帳のページを破る。
「何ですか。いきなり押しかけて。地下道を通過したくらいで犯人扱いしないでくださいよ。あの時地下道を通ったのはこの手帳を買いに出かけただけです。お気に入りのメーカーの手帳は地下道の先にある東都デパートでしか売っていませんから」
柳楽が刑事たちの応対に困惑していると、弁護士事務所の駐車場に一台の自動車が停車する。その運転席から菅野聖也が降りる。
菅野は木原と神津が弁護士事務所を訪れていることに驚き、彼らの声を掛ける。
「久しぶりですね。木原巡査部長と菅野巡査部長」
菅野の声を聞き二人は背後を振り向く。一方柳楽は菅野に対して頭を下げる。
「菅野弁護士。少しお話しを伺いたいことがある」
神津の申し出に菅野はドアまで歩み寄りながら答える。
「いいですよ。柳楽君。おもてなししてくださいね」
「分かりました」
柳楽は不機嫌そうに閉まっている弁護士事務所のドアを開け、二人を弁護士事務所に招き入れる。




