第四話
そして事件が起きた。幹線道路の下を通過する人通りの少ない新宿区にある地下道の階段の上で一人の人物が黒縁眼鏡をかけた初老の男性の胸倉を掴む。
「うるさい。お前に何が分かる」
その初老男性の声は地下道に響く。その後で初老男性は因縁の人物の腕を振り払い、階段を一段降りる。
だが初老男性の一言が相手の怒りを買い、先ほどの話し相手は初老男性の体を勢いよく押す。一段下の階段はなぜか小さな水たまりができている。その滑りも犯人に加担して、初老男性は階段から足を踏み外し暗闇の中に落ちていく。
転落による衝撃音が地下道に響き、彼を突き落した犯人は頭を冷やす。
この後の犯人の行動は決まっていた。犯人は階段を急いで降り、階段の真下の床で横たわる男を無視して逃げる。
午前十一時五分。地下道の中をパトロールしている二人の警察官が階段の近くでうつ伏せの状態で倒れている男性の遺体を発見する。その近くには鞄が落ちていた。
さらに遺体の周囲の床は微かに濡れている。
警察官が男性の元に駆け寄り、男性の肩を揺さぶる。頭部から大量の出血。脈がない。呼吸音もしない。男の着ているスーツの裾はコーヒーを零したように汚れている。
この時パトロール中の警察官は男が亡くなっていると悟った。
それから警察官は仲間の刑事に通報する。
遺体発見から十分後、警視庁捜査一課三係のメンバーたちはなぜか濡れている地下道の階段を降り現場へ臨場する。
現場に駆け付けた警察官たちには合田警部、木原巡査部長、神津巡査部長、大野警部補、沖矢巡査部長のいつものメンバー五人が含まれていた。
合田警部は遺体を発見した警察官に尋ねる。
「遺体発見時の状況は」
「ご存じかもしれませんが、最近この街の地下道や駅の階段に水をばら撒くというイタズラが頻発に発生しています。その事件の犯人を現行犯で逮捕しようと毎日パトロールを欠かさずにやっているんです。深夜になると地元の不良たちがこの、地下道に集まって傷害事件を起こすという事件も多発しているので、日夜問わずパトロールを継続しているんですよ。そのパトロールの一環として地下道を歩いていたら、階段の近くにその男性が横たわっていました。怪しい人影も目撃していません。遂に死亡者が出たとなると警察の面子を賭けて犯人を逮捕しないといけませんよね」
第一発見者の警察官が強く言うと遺体を観察している鑑識課の北条が口を開く。
「殺人かもしれませんね」
北条の発言を聞き現場周辺にいた合田達が北条の元に集まる。