第三十一話
午後三時。合田警部は東京クラウドホテルの屋上に瀬戸内検事を呼び出す。
瀬戸内は合田に向かい合うように立つ。
「この場所で田中冨喜子が投身自殺を図ったようですね」
瀬戸内が合田に質問すると彼は首を縦に振る。
「そうだ。だがここで謎が残る。なぜ田中冨喜子はこの場所で自殺を図ったのか。その謎を解く鍵はこの屋上から見える景色に隠されていた。このホテルの向いには東京地方検察庁の天下り先として有名な株式会社マスタード・アイスが立っている。そしてこの場所からはマンションシックスシャトーが見える」
合田は説明しながらマンションの方向を指さす。だが瀬戸内は疑問を感じたように首を傾げる。
「それがどうしたのでしょう」
「五年前マンションの一室で身元不明の遺体が発見された事件。その殺人事件に関わる場所が見えるということだ。シックスシャトーは遺体が発見された現場。株式会社マスタード・アイスは犯人の岸野の職場。瀬戸内検事。お前の目的は五年前の真実を公にすることではないのか」
合田の声に瀬戸内は頬を緩ませる。
「証拠は」
「あなたは郷里の遺体が発見された現場周辺に集まった野次馬に混ざり警察が郷里の遺体を発見するタイミングを計った。郷里の携帯電話にスケープゴートというメールを送ったのはあなたではないのか。防犯カメラに携帯電話を操作するあなたが映っていた。このように考えた場合謎が残る。なぜあなたはあの場所で郷里の遺体が発見されたことを知っていたのか。現場の近くに来たが、地下道に足を踏み入れなかったあなたには郷里が殺されたことを知る術がなかったはず。実行犯とメールを送った人物が同一人物じゃなかったらの話だが」
「私が共犯者ですか。それは面白いことを言いますね。ですが残念ですね。あの時は私用のメールを打っていたんです」
瀬戸内が弁明すると合田が透明な袋に入れられた携帯電話を瀬戸内に見せた。
「この携帯電話からあなたの指紋が検出された。しかもこの携帯電話のメールアドレスは問題のアドレスと同じ。それはどう弁明する。因みにこの携帯電話は東都デパートのコインロッカーから発見された。ロッカーを使用する時に使用した百円玉からあなたの指紋が検出されたし、防犯カメラにもきちんとあなたの姿が映っていた。これでどうやって弁明する」
瀬戸内は決定的な証拠を突きつけられ、肩を落とす。
「共犯者。犯罪行為がなかったからその言葉は少し語弊が生じますね」
瀬戸内の口から意外な言葉が零れ合田が聞き返す。
「それはどういうことだ」
「私は彼らの計画に加担しただけであって、後のことは仲間が勝手にやったことということですよ」