第三十話
木原と神津は東都デパートの地下にあるロッカースペースの前に立つ。
その部屋の壁にはロッカーが埋め込まれている。百円玉を使わなければロッカーを閉めることはおろか鍵を取り外すこともできない。
そのような仕組みのロッカーが計二十個程並んでいる。
正方形のロッカーが縦と横にそれぞれ五個ずつ並んでいる。
木原は改めて遺留品のロッカーの鍵の番号を確認する。『03』と記されたロッカーの鍵穴に鍵を刺し回す。
すると百円玉が出てきて、ロッカーが開く。
ロッカーの中には古臭い携帯電話が置かれているだけで、後は何もなかった。
神津が携帯電話と百円玉を回収すると木原はロッカースペースを観察する。
すると彼の目に天井に設置された防犯カメラが映った。
「神津。あの防犯カメラの映像を確認しましょうか」
その頃株式会社マスタード・アイスの本社ビルの自動ドアから大野と沖矢が出てくる。
大野は合田警部に電話しながら駐車場へと向かう。
「合田警部。面白いことが分かりましたよ。五年前の殺人事件の被害者と思われる柳楽林太郎は五年前東京地方検察庁のコンピュータにハッキングしていたことに気が付き、発信元を特定したそうです。彼は天下り先の会社で東京地方検察庁の不正を暴こうとしていたそうです。それを岸野は快く思わなかった」
『なるほど。やはり犯行動機も偽装された門だったか。五年前の調書には会社経営の意見が合わなかったからという物に変わっている』
「それと岸野は五年前佐藤高久に賄賂を受け取っていたそうです」
大野からの報告を警視庁の廊下で受け取った合田に再び電話がかかってくる。
『木原です。東都デパートのロッカーから携帯電話が発見されました。あのロッカーから鍵を施錠するために使う百円玉も発見されています。この百円玉の指紋を調べたら決定的な証拠になるかもしれません』
「それはどういうことだ」
『今東都デパートのロッカースペースに設置された防犯カメラの映像を見せてもらっているのですが、昨日郷里の遺体が発見された時間の五分後に瀬戸内検事が映っているんですよ。瀬戸内検事は問題のロッカーに携帯電話とUSBメモリを仕舞い施錠しました。それから六時間後、柳楽新太郎がロッカーからUSBメモリを持ち去り、鍵を掛けた。つまりあの百円玉には柳楽と瀬戸内検事の指紋が検出されるはずです』
「なるほど。そういうことか。今から百円玉と携帯電話を持って警視庁に戻ってこい。一応防犯カメラの映像も忘れるな。大至急指紋を調べて証拠を固める」




