第二十八話
木原が再び携帯電話で救急車を要請すると、現場に合田達が臨場した。
木原は合田たちを現場になったリビングに招き入れると手帳を広げ現場の状況を合田たちに説明する。
「この部屋で血まみれになった北川律が発見されました。北川律は部屋で腹を刺されて、現在病院に搬送中。凶器は現場に残されたカッターナイフと思われます」
鑑識たちがカメラで現場写真を撮影していると、神津がスーツのポケットから透明な袋に入れられたUSBメモリと鍵を取り出し合田達に見せる。
「このUSBメモリとロッカーの鍵と思われる物を北川律は握っていた。遺留品だから鑑識に回す」
神津は合田の近くにいる北条に遺留品を渡す。
「実は事件はこれだけではありません。寝室で第二の事件が発生しました」
木原が唐突に告白すると、彼はリビングから寝室に移動する。彼の後を追うように合田たちが一歩を進める。
その部屋のクローゼットも血液で汚れている。
「この部屋で手首の頸動脈を切断した柳楽新太郎が発見されました。柳楽は北川と同じように病院に搬送中です」
「北川律の事件とこの事件との関連性は」
合田が尋ねると木原は手帳のページを捲る。
「類似点は凶器がカッターナイフである点しかありません。ただ北川の事件ではカッターナイフが現場に落ちていたのですが、柳楽の事件ではカッターナイフを握っていました。合田警部。この事件は無理心中の可能性が高いと思いませんか」
「だが謎が残る。なぜ柳楽は北川と無理心中をしなければならなかったのか。なぜ凶器のカッターナイフが二つ用意されたのか。なぜ柳楽はクローゼットの中で自殺を図ったのか。謎が多すぎる」
合田が呟くと近隣住民への聞き込み捜査を行っていた大野と沖矢が合田警部に駆け寄る。
「合田警部。近隣住民への聞き込みが終わりました。近隣住民によると午前十時頃柳楽新太郎は部屋に北川律を招き入れたようです。それ以降あの部屋から出て来た不審人物は目撃されていません」
大野の報告に沖矢が補足する。
「本当だよ。防犯カメラの映像にも不審者は映っていない。柳楽新太郎が北川律を招き入れたと言う事実は間違いない。このタワーマンションのセキュリティシステムは完璧で、エレベーターの近くや内部、各階の階段の踊り場にそれぞれ防犯カメラが設置されています。各階の廊下にも防犯カメラが設置されているので、防犯カメラの映像を見れば当時の状況が分かると言う仕組みだよ。因みに非常階段へ繋がるドアを開けるとブザーが鳴る仕組みにもなっている。住民たちの証言によれば非常階段の方角からブザーが聞こえなかったそうだよ。一応マンションの防犯カメラの映像も借りているよ」
沖矢は防犯カメラの映像が記録された数十枚のCDROMを北条に手渡す。
「こんなにあるのですか」
北条が沖矢たちに尋ねると大野が北条の右肩を掴んだ。
「このタワーマンションのセキュリティシステムは完璧で、エレベーターの近くや内部、各階の階段の踊り場にそれぞれ防犯カメラが設置されています。各階の廊下にも防犯カメラが設置されているので、防犯カメラの映像を見れば当時の状況が分かると言う仕組みです。因みに非常階段へ繋がるドアを開けるとブザーが鳴る仕組みにもなっています。それだけではなく、非常階段のドアが開けばそれぞれの居室に設置された端末に通報が届くようにもなっているんですよ。住民たちの居室の端末には非常階段のドアが開いたという通報が届いていませんでした。一応各階の非常階段を調べてみますが」
「大野たちの話が本当なら、このタワーマンションは巨大な密室だったということになるな」
合田が寝室の窓から東京の摩天楼を見つめながら呟いた。