第二十七話
閑静な住宅街に建設された三十階くらいあるタワーマンション。そのマンションに柳楽新太郎が住んでいる。
木原と神津はエレベーターに乗り込み、柳楽が暮らすマンションの一室に向かう。
木原が2015号室のインターフォンを押す。だが何の反応もない。
木原は嫌な予感を覚え思わずドアノブに手を伸ばす。案の定ドアは開いている。
木原は隣に立っている神津とアイコンタクトを図り警察手帳を取り出し、部屋の中へと足を踏み入れる。
「警視庁の木原です。柳楽新太郎さん。返事してください」
木原が大声で叫びながら玄関先で靴を脱ぐ。二人は部屋の廊下を歩き目の前にあるドアを開ける。
スライド式のドアの先にはリビングのような部屋。その部屋は散らかっている。
誰もいない部屋のはずなのに、テレビのスイッチが付いている。木原がテレビ画面に視点を移すと、演芸番組の再放送がやっていた。
そのテレビ画面には丁寧に時計のテロップが付いていて、現在の時刻は午前十一時五分であることが分かった。
二人が部屋の様子を見渡すと、誰かが倒れていることに気が付く。
その場所に二人は駆け寄る。そこに仰向けで倒れているのは、この部屋の住人である柳楽新太郎ではなく、ベージュ色のミディアムカットの女だった。
神津は倒れている女の脈を測る。微かに脈が打っている。微かに聞こえる呼吸音。腹から失血しているようで、白いワイシャツや黒いズボンが赤く染まろうとしている。凶器らしき血液で汚れたカッターナイフが北川の近くに落ちている。
その女。北川律の右手にはUSBメモリ。左手には青色のプレートが付いたロッカーの鍵が握られている。いずれも赤く染まった北川律の手で赤く汚れている。
神津の近くで木原は救急車を呼ぶために電話をかける。その後で彼は合田警部に連絡する。
「合田警部。柳楽の自宅マンションで殺人未遂事件が発生しました。被害者は北川律です」
間もなく救急車がマンションの到着し、北川は病院に搬送される。
木原と神津は現場に残り、白い手袋を取り付ける。神津は北川が握っていたUSBメモリと青色のプレートが付いたロッカーの鍵をスーツのポケットに仕込んでおいた透明な袋に仕舞う。
それから二人は柳楽の部屋のドアを一つ一つ見て回る。どこかに柳楽が隠れている可能性も考慮して。
浴室からトイレ。ベランダの鍵は閉まっている。1LDKのマンションの部屋を二人は回る。
だがどこにも柳楽の姿はない。
二人は最後に寝室を探す。ベッドが置かれたその部屋のクローゼットは微かに開いている。
その隙間から微かに漂う血の匂い。木原は再び嫌な予感を覚えクローゼットを開ける。
クローゼットの中。そこでは白いワイシャツに黒いズボンを着た柳楽新太郎が左手首を切った状態で壁に寄りかかるように倒れていた。
その右手にはカッターナイフが握られている。神津は包帯で柳楽の左手首を止血する。微かに聞こえる呼吸音。もう少し発見が遅ければ助かっていないだろう。