第二十三話
そして北条がノートパソコンを立ち上げ解析したパスワードで戸谷のパソコンにログインする。
北条がインターネットのアイコンをクリックする。画面がインターネットの画面に切り替わるまでの数秒の間で北条は『scapegoat』と入力する。
すると画面が突然暗くなり緑色のプログラム言語が出現した。
「ハッキングシステムです。画面が切り替わるまでにパスワードを入力しなければただのインターネットに見えるという仕組みです。最近ハッカーの間で流行っているシステムでホームと呼ばれています。パスワードさえ解析しなければハッキングの証拠が検出されることがない。そんなシステムです。戸谷はこのシステムで様々なコンピュータに侵入したようです」
「つまり戸谷はハッカーだったということか」
神津が呟くと北条が説明を続ける。
「ホームと呼ばれるハッキングシステムは謎のハッカー『アザゼルの羊』によって五年前に開発されました。そして画期的なハッキングシステムとしてハッカーたちに流行しました。問題は五年前戸谷のノートパソコンに東京地方検察庁のコンピュータに侵入した形跡があるということです。ハッキングした日付は平成二十年四月二日。戸谷が暮らすマンションで身元不明の遺体が発見された事件の一週間前なんですよ」
「それは面白いな」
合田が北条の説明に相槌を打ちながら、五年前の殺人事件の調書を机の上に広げる。
そこには岸野吉右衛門の経歴が記されていた。
「岸野吉右衛門は株式会社マスタード・アイスの会社員として働いていた」
「天下り」
沖矢が呟くと合田たちは彼に視点を映し注目する。
「瀬戸内検事が言っていたんだよ。株式会社マスタード・アイスは東京地方検察庁の天下り先として有名だって。何か意味があるかもしれないよ」
「沖矢。そうだな。五年前東京地方検察庁のコンピュータにハッキングした戸谷。その自宅から発見された身元不明な遺体。東京地方検察庁の天下り先の会社員が殺人の容疑で逮捕。全てが何者かに仕組まれた物な気がするな。ここは五年前の事件を再捜査した方がいいだろう。そうすればスケープゴートの正体も分かる」
合田が刑事たちに呼びかけると北条が右手を挙げる。
「すみません。戸谷が東京地方検察庁から何のデータを盗んだのかがまだ特定できていないので、引き続き調査します」
北条がノートパソコンを持ち上げ合田たちに頭を下げる。そして彼は捜査一課の一室から立ち去る。
それから合田たちは五年前の殺人事件の再捜査を開始する。